岩瀬[従軍魔法使い]史明
谷甲州は構築の作家である。
以下で明らかにされるように、谷甲州が自らの作品世界をいかにきっちりと設計した上で諸作品を産み出しているかということは、読み込むほどに明瞭になっていく。実にもう感心するしかない。深読みするほど底の浅さが露見する凡百のSFなら「ま、それはいっちゃあイケナイ!」と論理構造への批判を自粛するのがファンの務めかもしれないが、谷甲州においてはそうでないだけに、一部の性格の悪いファンにとっては、鋭く深く追究することこそがファンの義務ではないか、とまで考えちゃったりするのである。
とはいえ、谷甲州は自分のかきたいものを展開する為の土台としてそれらを構築しているわけで、谷甲州が描きたいのはあくまで航空宇宙軍を軸に展開されるドラマそのものなのだろう。仮に矛盾があったとして、よほど深く読み込んで照合しなければわからないような矛盾など、作品そのもののキズにはなりえない(このあたりはちゃんと自覚するのがファンの正道である)。
甲州作品においては、基本的に設定は背景に埋め込まれ、ドラマ展開に関係無い科学技術や社会背景ディティールはむしろ明確にかかないように避けられるわけだ。それが目立ちすぎないように。あるいはいかに緻密に世界を構築しても創作なら当然存在する矛盾が露呈しないように。
だけどそれをほじくりだしたくなるのが我々いびつなファンの楽しみではある。
ついでにそれを越えて、かの伝説の「闇討ち1号」のように新たな世界をつくるところまでくれば、快感この上ないことである。
しかしそれには、谷甲州の作品世界をきちんと読解することが前提とならなければならない。初歩的な誤解・誤読による批判はファンとして恥かしい。
谷甲州の世界をマスターした上で論理展開してはじめて、「はみだしてもいいンじゃないかな。うけけけけけけけ」と考えるのが、外道なりに最低限のマナーではあろう。
木星の重力井戸よりも深くてモノ凄じい愛情と深読みと思い入れなしに「甲州は間違っている」などとのたまうのは醜い、と自戒すべきであろう。
てなわけで、今回の特集は、
「航空宇宙軍史を深読みする為の基礎教養講座」
である。
同志諸君。
谷甲州を驚倒させる世界構築をめざして、歪んだ情熱をともに燃やそうではないか。