輸送船団の必然性について
宇宙艦艇の運用形態:そも輸送船団とは?−

林[艦政本部開発部長]譲治

 そもそもこの文は、出張先でモデムがおかしくなった阪本隊長からの電話が無ければ書かれなかっただろう。アクエリアスの武装、特に機動爆雷の話から、どうして輸送船団を組むのかと言う話になったのだ。
 これはそのときのとっさの思い付きをもっともらしく整理したものである。

☆輸送船団の問題点

 よく考えると外惑星動乱時の技術水準では、輸送船団を組むことは不利である。なぜなら、単艦ならまだしも船団を組んだ場合、通商破壊を目的とする相手に発見されやすくなるからである。
 たとえ高性能なフリゲート艦が護衛にあたっていたとしても、船団を組む以上はその機動力は輸送船と同レベルまで落ち込んでしまう。したがって船団が利用可能な軌道も容易に推測されてしまうだろう。
 航空宇宙軍はその保有する宇宙船の数において外惑星連合と比べて圧倒的に優勢であるのにどうして船団を組んだのであろうか。単艦でばらばらに動けばよいではないか。

★航空宇宙軍の誤算

 第一次外惑星動乱(余談だが第二次はいつ読めるんだろう)に関して航空宇宙軍の最大の誤算は、この動乱が一年以上も続いたことである。
 その理由は言うまでもなく外惑星連合によるカリストエクスプレスへの機動爆雷の投入である。このカリストエクスプレスへの攻撃により、三カ月で終了する予定だった外惑星動乱は、思わぬ長期戦になり航空宇宙軍の戦略も大幅な修正を余儀なくされた。
 カリストエクスプレスはそのシステムの性質上、重水タンカーの80%が外惑星連合の勢力範囲にあった。航空宇宙軍もこの事実を十分に承知しており、残り20%の重水素で全作戦を終了させなければならず、またそう計画された。
 なのにこの20%すら確保できなくなったわけである。航空宇宙軍は当然ながら手持ちの重水素を戦闘艦に優先的に振り分けた。

☆船団の必要性

 孫子を引合いに出すまでもなく、戦争それも遠くで戦争を行うときに、もっとも重要なのは補給である。とくにいざとなれば現地で必要物資の補給も可能な地球と異なり、外惑星領域でも戦争では現地での補給は期待できない。
 重水素すらカリストの大気を工業的に加工しなければならないのである。しかも、外惑星動乱で消費されるであろう物資の量は人類の総ての戦争で消費されたそれよりもはるかに膨大だった。
 とうぜん外惑星動乱では大量の戦闘艦とそれを支える膨大な量の輸送艦が必要になる。いかに戦闘艦があっても補給の裏付けがなければ戦争は出来ないのだ。

★船団を組む訳

 大量の物資の必要性と、燃料不足と言う現実から考えられる解決策は、ひとつしかない。
 つまり、外惑星領域への物資の輸送は惑星間の軌道を考え、もっとも燃料を消費しない惑星の位置のときにまとめて物資を輸送するのである。
 もちろんそうした場合、輸送船団の軌道は容易に推測されてしまうのは明かではある。これらの船団を護衛するために二線級の戦闘艦を配置したのであろう。

☆通商破壊の可能性

 このように推進剤が絶対的にたりないという動かし難い状況の下では、大量の物資の輸送には船団を組まねばならない事がわかった。しかし、こんな事はあえて説明するほどの事はないかもしれない。
 むしろこれに関してより重要なのは、船団を組まなければならない事を外惑星連合側も航空宇宙軍側もともに承知していた事実である。
 つまり推進剤の供給を自由にできる外惑星連合は、それによって航空宇宙軍にとるべき戦略を限定させる事が可能だったのだ。戦闘艦の量・質ともに航空宇宙軍に劣勢な外惑星連合軍はここに通商破壊という戦術を取り得たのである。

★だからね

 ようするに外惑星連合が通商破壊をおこなうためには、航空宇宙軍への推進剤の供給を停止して、船団を組ませないとならない、そういう事なんです。
 しかし書いてて思ったがこれは「谷甲州は間違ってる」までとっておくべきだったかな。




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