外惑星系開発機関に関する考察

多田[みなみちゃんのおとうさん]圭一

はじめに

 開発当初において、外惑星系がきわめてハイリスクな環境であることは想像にかたくない。投下する資本の回収はおろか、かけがえのない人的資産の喪失すら予想される。
 このような特殊環境の開発に先鞭をつけるべきは、国家もしくはそれに匹敵する経済的バックボーンを有する国際機関が妥当と考えられる。明確な利潤展望もないまま多くの企業の参加は期待できるものではない。かりになんらかの国際機関がこの任をはたすとしたとき、その機関に求められる条件とはなんであるかを考察してみたい。

経済基盤

 世界においてもっとも流動的な資金はなにか。それは企業のもつ金でも国家単位の有する資金でもない。ほかならぬ我々個人の持つ貯蓄である。人々の貯蓄を有効に活用する方法としては、一般的に株式、国債等が考えられる。ただし、これらの活用方法には税金により運営される国家機関にない致命的弱点がひそんでいる。
 国家は税金の徴収において元来優先的な権限を持つため、国会等の審議を経れば弾力的な運用計画を立てることが可能である。しかし株式等においてはあくまで個人の積極的購入、参加が必要となるため、よほど魅力的な要件の設定ができなければ市場資金の吸い上げにいたらない。
 ではその継続的回収方法はいかにすべきであろうか。
理想的な状態は、資金の供給主たる我々がその機関の目的に賛同して無償の援助をおこなうことである。しかしこれは非現実と言えよう。最低限、支出に見合った報酬を補償すべきである。
 このときの報酬となるのは、個人によって様々である。ある人は名誉であるかもしれないし、あくまでも金銭的報酬であるかもしれない。それらをたくみにコントロールするすべが重要となる。しかし機関がこのような二次的作業に多くのエネルギーを費やすこともまた本末転倒である。
 ストレートな解決方法として、機関本体は資金の回収、管理に関与せず、既存企業を計画に参与させる方法が考えられる。その利点としては計画自体のリスクの分散と、景気変動に対する耐性の強化があげられる。企業自体が資金調達の任を果たすことにより、機関は企業からの資金確保のみに専念すればよい。

機関の役割

 しかしここでジレンマが発生する。さきに述べた通り利潤展望のはっきりしないプロジェクトへの企業参加は望むべくもない。
 これを促すために必要な、機関としての構成と企業への参加勧誘を考えてみる。
 当機関の設立はまったくの新規ではなく、従来から認知されている組織を基調にした新組織の創立がもっとも容易で現実的であろう。
 既存組織の部門拡充から着手して、最終的に外惑星系開発機関としての体裁をとる。この方法には、有力な団体による強力な指導力が必要となる。やがてその指導的団体が機関の中枢を担うか否かは、開発の成否にかかっている。経済的成功を納めた計画の推移はさらにその時点における当事者間の利害関係に支配されるからだ。
 計画当初における機関に必要なのは、個々の企業本体への参加呼掛けよりは、さらにその上位に位置する国家、経済的国際組織に働きかけることである。または、必要とされる産業を有した企業群の間に入り、積極的に委員会設置等の活動を行い、超企業体としての体勢をとることである。
 ただし、このときのカードとなるのはあくまで将来における利潤の可能性のみである。機関への参加を継続するための動機付けは同業他社間の成功に対する疑心暗鬼と牽制でしかない。機関としては企業群に対して常にチャンスを提示し続けなければならない。

まとめ

以上の要約による外惑星系開発の先鋒となるべき組織の条件は次の通りとなる。

  1. 中枢となる団体があり、学術的、経済的に強力な目的意識を持っている。
  2. 特定の利益団体に特加しない。
  3. 長期にわたる計画全体において、その計画に発生する利益に依存することなく潤沢な資金確保を維持できる。
  4. 機関と企業群、国家間の利益関係を一定の強制力を伴って調整できる。
  5. 末端の資金供給源、兼受益者たるとなる個々人に対して強力な反対行動を取らせないだけの説得力を提示しつづけることができる。

以上


 「惑星開発局」についての具体的な描写は、航空宇宙軍史中にほとんど存在しないが、谷甲州の作品世界においては物理学だけでなく社会経済においても 我々の現実におけるメカニズムがそのまま通用していると考え、考察できるのである(この手の検証に耐える作品がSF界に必ずしも多くないのは悲しい)。
 そのようにして多田圭一氏に考証していただいたわけだが、ここでは多田氏なりの結論ではなく、考証のための基礎資料として、「必要条件の絞り込み」を考証していただいたわけである。
 甲州先生がこの時代のことをこの先かく予定があるのかどうかきいたことがないのだが、「外惑星動乱」のはるか先に待っているメインストーリーがあることだし、この辺について谷甲州にかかれてしまう前にファンがでっちあげてしまってもバチはあたるまい(:-))……
  これは我等歪んだ甲州ファンにとって大きな課題といえるだろう………





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