航空宇宙軍艦政本部無人戦闘システム研究会内部資料より

外惑星動乱末期における
指向性機雷にみる
無人戦闘システムの実際

林[艦政本部開発部長]譲治

【はじめに】
 今次の外惑星領域における一連の国家的テロ行為,いわゆる外惑星動乱は重水素輸送路に対する犯罪的破壊行為のため事態の収拾までに一年以上の歳月を費やす結果となった。
 これにより当初予定されていた機動力による外惑星領域の鎮圧は事実上不可能となり,機雷による経済封鎖がこれにかわった。機雷による経済封鎖は理論でしか研究されたことがなかったため,実戦において多くの研究課題をもたらす結果となった。
 そこで今回は指向性機雷システムを通じて経済封鎖作戦の無人化について検討する。

【指向性機雷の構造】
 破片効果による破壊と言う点では機雷と機動爆雷は同じ物と一般に考えられている。事実,経済封鎖の初期には機動爆雷に改造を施したものが機雷として使用されていた。
 しかしながら,より詳細な検討を加えたときにこの両者はまったく別の兵器体系としてとらえたほうがよいことが分かる。
 特に考慮しなければならない点は攻撃目標となる宇宙船の(相対)速度である。一つの破片が与える破壊力を比較すると,惑星間を移動する宇宙船と惑星軌道上にある宇宙船とではそれらの運動エネルギーの違いから100倍以上の差になるのである。
 つまり機雷が機動爆雷並の破壊力を相手に与えるには破片密度を向上させる必要がある。破片密度を向上させるには二つの方式が考えられる。つまりより近距離での爆発と爆発破片の収束の二つである。後者の考え方を採用したのがいわゆる指向性機雷と呼ばれる一連の兵器群なのである。
 爆発破片を収束させ,破片密度を向上させるために指向性機雷はレールガンにより破片を射出する。全長20メートル,直径1.6メートルの円筒コンテナに収まる機雷は14メートルのレールガン本体と6メートルの核爆弾発電機から構成されている。ヘリウム3−重水素を主体とした核融合反応により8.9×1011Jのエネルギーが発生し,そのうち電力として90%が回収される。
 この電力により弾体は1500万Gの加速を受け,破片は200キロメートル毎秒の速度を持つにいたる。弾体は1500万Gの加速による物性的な変質を考慮し,グラファイトが用いられている。40キログラムの特殊な構造のグラファイト弾体は,砲身を出るときにはダイヤモンドの粒となる。
 以上の機構により指向性機雷は高い運動エネルギーを有する破片を収束することで標的となる宇宙船を惑星軌道上で破壊することを可能とする。

【指向性機雷の運用】
 指向性機雷は全長20メートル,直径1.6メートルのコンテナに収まる大きさである。このとき全長20メートル,直径5メートルのマガジンを使用した場合、中心部を除くと6基の機雷を収納が可能となる。このマガジンの大きさは標準的な機動爆雷と同じである。
 つまり機雷の敷設に関しては既存の機動爆雷の発射機構がそのまま使用できるというメリットがある。同時にこれは機動爆雷を登載できる輸送船など非戦闘用宇宙船を含む各種宇宙船に機雷敷設能力が備わった事を意味する。
 指向性機雷は破片密度が高いために小型化が可能となった。それだけに単純計算では機動爆雷の転用に比べ,一度に6倍の機雷を敷設することができる。したがって,例えば仮装巡洋艦クラスの宇宙船でも従来の正規フリゲート艦以上の機雷敷設能力を持てるわけである。つまり多数の宇宙船による迅速な機雷敷設が可能となる。
 このように短期間で経済封鎖が可能になった事実は,いまや我が航空宇宙軍は開戦に至らずとも勝利を得る手段を手にしたと言うことができるのである。今次動乱は不幸にして武力衝突を招いてしまったが,将来の恒星間世界への進出を考える時,機雷による経済封鎖については十分な研究が関係諸機関に望まれる。

【無人戦闘システムとしての指向性機雷】
 指向性機雷は単に経済封鎖道具としてだけではなく,無人戦闘システムとしても考えることができるだろう。
 マガジンによって敷設された指向性機雷は単独で使用されることはない。複数の指向性機雷はマガジン中心部に内蔵された戦術決定用AIによって集団で使用される。
 マガジンに内蔵された戦術決定用AIは自分が把握している6基(これは機雷の消耗とともに減少する)の機雷からのデータをもとに目標破壊のために最適な軌道を決定し,機雷を誘導する。
 また単に待ち伏せるだけではなく,おとりとして機雷を加速し,目標が退避行動をとることを予想しつつ機雷を配置するするような状況判断も可能である。むしろこの状況判断能力こそが指向性機雷の重要な要素といえるだろう。
 指向性機雷のAIはみずからは戦闘に参加しないため破壊される可能性は少ない。したがってAIを回収しそのデーターを解析,別の指向性機雷のAIに与えることで戦術決定能力は戦闘の度に向上するのである。ただ残念なことに外惑星連合側の掃海能力が予想以上に高度なものであったために,今次動乱における実戦データは必ずしも円滑には回収されていない。
 さて,機雷と言う兵器そのものはごく限られた運用方法しかない。だが指向性機雷のように,自らが管理している機雷の数が目的達成とともに減少していくなかで,手持ちの資源だけで最大の索敵能力と打撃力を常に維持するためには非常に高度な技術が必要とされた。
 むしろ機雷のような単純な兵器であったからこそ,この戦術決定AIは可能であったと言えるかもしれない。またいくつかの興味深い実験も行われている。
 これは外惑星動乱終了までに生産された指向性機雷の数が限られていたために,あまり大規模には行えなかったが,特定の軌道宙域を多数のマガジンで封鎖したときの実験である。
 集中して運用された指向性機雷はマガジン内部のAIどうしにネットワークを形成させ,自立的に索敵・陽動・戦術決定・攻撃の機能分担を果たさせるというまさに野心的な実験であった。
 この実験のデータはほぼ完全に回収され現在その潜在的戦略決定能力を分析中であるが,外惑星連合側が失った掃海部隊の53.2%がこの指向性機雷群によるものとのデータもある。
 今回の実験での指向性機雷の生存率や戦闘能力を考える時,無人戦闘システムにおける自立的機能分担能力の研究は,将来的にこの分野での主要研究テーマとなるだろう。




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