Prologue of Post Aquarius
−アクエリアス計画に関する論考資料−

阪本[隊長]雅哉

1.始めに

 今回の考察も「アクエリアス計画」(以後「計画」と略す)同様に、12隻のゾディアック(終戦までに就航したのは6隻)は全て同じ仕様であると考える。つまり作品中に記されたタウルスやアリエスなどに関する記述は全てアクエリアスにも当てはまるものとした。これは同型艦で設計も同じと考えられるため妥当だと思える。
 ゾディアック以外の巡洋艦や輸送船、その他の宇宙船も(航空宇宙軍、外惑星連合含めて)基本的な設計にさほど差はないものと考えた。これは同じ時代に太陽系内を移動する目的で設計されているうえで大きな技術革新が有ったとは考えにくいこと、またソディアックに関する記述がすくないためこれを無視するわけにはいかないといった事情もある。さらに艦の性能に関して作品中の乗組員などが話している内容は100%ではないにしても基本的に正しいデータとした。データが少ないためこれらの記述を無視するとほとんど有効なデータが得られないためである。

2.質量比、速度、エンジン性能

 「計画」ではアクエリアス(ゾディアック)の質量比や加速性能など宇宙船の基本となる性能を次の様に決めた。

注:これらの数値は推測で考えたもので有効桁など特に考慮していない。

船体質量  3.5 x106   kg
推進剤質量  2.1 x106   kg
質量比  1.6
推進剤噴射速度  1.0 x107   m/sec
最大加速度  9.8   m/sec2
最大推力  4.3 x107   kg/sec2
最大加速時の推進剤使用量  4.3   kg/sec
最大加速持続時間  4.9 x105   sec (約135時間)
最終速度  4.7 x106   m/sec
  〃   (減速する場合)  2.3 x106   m/sec

 これらを決定するため、比較的具体的なデータが多くある輸送船から考えてみる。

 まず最初に<船団 99-11-TL が地球軌道から先行トロヤ群のヘクトルへ向う船団の運航図>[土砂降り戦隊(火星鉄道十九):P206]をもとに輸送船団の性能について考える。(宇宙船の運航について具体的な数値が示されているのは今の所、航空宇宙軍史のこの部分だけである)
 船団の内訳は護衛船団は旗艦がゾディアック級巡洋艦タウルス、ほかに巡洋艦、警備艦。輸送船団は20隻以上の輸送船である。船団の運航は当然もっとも加速性能の低い輸送船に合わせ、護衛船団は加速、慣性航行を繰り返して輸送船団に速度を合せていたものと思われる。
 まず輸送船について具体的な数値を求める。
 [土砂降り戦隊:P205]の図では、輸送船団は推力一定で航行を続け、その加速度は最初 0.88 m/sec2 から最後には 1.19 m/sec2 に増加している。ゆえに質量比は

δ=m0/m1=α0/α1=1.19/0.83=1.43

となる。(ここで δ は質量比、m は質量、α は加速度とする)
 中間地点で反転するまでの質量比は同様に 0.99/.083=1.19 になる。そのときの速度は 930 km/sec なので、速度と噴射速度と質量比の関係式より推進剤噴射速度が求められる。

ω=v/lnδ=5.27x10^6m/sec

となる。(ω が推進剤噴射速度、vが宇宙船の速度)また減速時は同様に

ω=v/lnδ=5.05x10^6m/sec

となる。ここで得た値は作品中の記述とも一致している。[土砂降り戦隊:P244]

推進剤ガスは、エンジンから毎秒5000キロ、フリーゲート艦ならもっと早い速度で噴射されています。

 この結果より輸送船の質量比は 1.44、推進剤噴射速度は 5.1 × 106 m/sec とする。ただし質量比の 1.44 は航路によっても変化するであろうし、時には乱数加速をかけて航路を隠匿する可能性もあるので能力はもう少し大きい値(例えば 1.5 程度)であったかもしれない。
 中型の輸送船または2000トンクラスの輸送船と記述されている輸送船は同じタイプの輸送船と考えられる。(また外惑星連合によって仮装巡洋艦に改装された船と同じ(原型)と考えてもよいだろう)2000トンの数字がなにを表しているか必ずしもはっきりしないが、ここでは推進剤を除いた船と積み荷の質量であると考える。[砲戦距離十二、〇〇〇(仮装巡洋艦バシリスク):P121]

船団は、五隻の中型高速輸送船からなっていた。総質量一万トン程度 の船団で、地球軌道の補給基地から、後方トロヤ群の前進基地に戦略物資を輸送する任務は、その航路の途中で小惑星帯を通過しなければならない。

 輸送船の加速度に対する次のような記述がある。[土砂降り戦隊:P231]

輸送船にいたっては、0.1Gをようやくこえる程度だ。積荷を捨てれば0.3Gくらいまでは上がるが、それでも無理だろう。

 このとき積み荷は宇宙船の全質量の2/3をしめていたことになる。0.1G の加速度を得られるのは航路の中間地点とするとこのときの質量比は 1.2 なので

全体の質量=2.4x10^6kg
推進剤質量=0.4x10^6kg
積荷質量=1.6x10^6kg
船の質量=0.4x10^6kg

この結果より中型の輸送船の乾質量を 0.4 × 106 kg (400トン)とする。

 仮装巡洋艦の性能については参考になる記述が少ないため輸送船の性能をもとにして考える。輸送船をもとに改装したとすればそれ程大きな差異はないものと考えてもよいだろう。
 仮装巡洋艦の最大加速度は[土砂降り戦隊:P229]の記述から

しかし、仮装巡洋艦の加速力では、速度ゼロの状態から20万キロの距離を移動するのに、二時間半はかかります。

これを計算すると、

L=1/2・αt^2

から

α=4.94m/aec^2

となり約 0.5G となる。また仮装巡洋艦の加速度が 0.5G 程度だとの記述は作品中の各所に見られる。仮装巡洋艦の質量は輸送船に比べて兵器やセンサなどの装備が追加されている分だけ増しているはずである。とりあえず[仮装巡洋艦バシリスク(仮装巡洋艦バシリスク):P209]にあるように500トンとしておく。(これには爆雷などは含まれていない)とすれば、改装後推力は2倍以上増大されたことになる。航空宇宙軍の巡洋艦(オフィユキ級)や警備艇に関してはさらに記述が少ないのでこれ以上のことは分からない。警備艇は加速度が 0.5G 程度なので巡洋艦はそれよりも少し大きいかもしれない。

 ここまで、輸送船や仮装巡洋艦の性能を考えてきたがこれはゾディアック級巡洋艦の性能の考察には基本的に役にたたない。つまりゾディアックの基本性能については(作品中の言及が少ないためもあり)適当に類推するしかなく、ここで求めた仮装巡洋艦やオフィユキ級に比べて性能が上廻っていると考えるしかない。
 加速度については[土砂降り戦隊:P231]

旗艦のタウルスでさえ、最大加速度は一Gくらいだ。

のまま 9.8m/sec2 (= 1G)とする。また[土砂降り戦隊:P257]より

「タウルスは推進剤の噴射速度が、ほかの艦よりずっと早い。秒速一万キロ近く出てます。

とあるので推進剤噴射速度は 1.0 × 107 m/sec とする。これは仮装巡洋艦や警備艇に比べて倍近い値である。通常の輸送船の質量比は (1.2)2 = 1.44 で最大速度は(減速まで考えた場合)930 km/sec である。(減速しない場合、最終速度は 1800 km/sec になる)また仮装巡洋艦で、バシリスク(カリストから発進したと思われる)が先行トロヤ群から土星周回軌道に向う輸送船攻撃の作戦途中でゾディアックにおわれ逃走中にエンジンの暴走ですべての推進剤を使いきった時の太陽系との相対速度は 1000 km/sec となっている。[仮装巡洋艦バシリスク:P225]これらの内容から太陽系内の航行では通常 1000 km/sec 程度までの速度であると考えた。(船団を組む場合加速性能のもっとも劣る船に合わせることになる)ゾディアックは推進剤噴射速度が 10000 km/sec あるため、1000 km/sec まで加速するには質量比が 1.1 、減速まで考えると (1.1)2 = 1.2 必要である。通常はこの程度の速度までしか加速しないと思われるが、戦闘艦であるため作戦によりまた不測の事態や複数の作戦をこなすうえで複数回の加減速を繰り返す必要があるため必要な推進剤の比率は大きくなる。上の速度を基準に考えると (1.2)n の質量比が必要となり n=3 とした場合 1.73 となる。ただし常に最大限加速するわけではないため 1.6 を採用した。(根拠に乏しい ・・・;)この場合最終速度は 4700 km/sec 減速することを考えた場合の最大速度は 2350 km/sec となる。

 アクエリアスの質量は推測すらできないため。巡洋艦や警備艇と比べて乗組員や積載される機動爆雷、作戦期間などがかなり大きいことから、質量は数倍以上大きいと考え3500トンと仮定した。
 巡洋艦や仮装巡洋艦と大きさの比較の対象として乗組員数を考える。航空宇宙軍の巡洋艦ジェミニが乗組員数7名[小惑星急行(火星鉄道十九):133]、仮装巡洋艦バシリスクは9名[仮装巡洋艦バシリスク:P235]に対してアクエリアスの乗組員は改装後、総員58名[エリヌス−戒厳令−:附録]、第一次外惑星動乱時はカリストのエリクセン准将[カリスト開戦前夜:P71]によれば40名程度である。この乗組員数の差はアクエリアスに戦後施された改装によって海兵隊が増員されたものと考えられる。ちなみに、[エリヌス−戒厳令−:P70]よりアクエリアスに戦後施された改装によって増大した質量は、それまでの25%に相当することがわかる。

主機である核融合エンジンは、換装されたものの大幅な推力の増加はない。増大した艦体乾質量に合せて、二五パーセントほど推力を増強させただけだ。だから、単位質量当りの推力に変化はない。

もちろん客船ではない戦闘艦が乗組員の人数に比例して艦の質量が増加することはないが、40人以上の乗組員が6ヶ月以上の作戦をおこなえるとなれば居住性もかなりよくなっているはずで、それだけでもかなりの質量増加があったと考えてよいだろう。烹炊所や艦内通路と兼任とはいえ兵員食堂まで[エリヌス−戒厳令−:P60]さらには士官食堂もある[エリヌス−戒厳令−:P145](いずれも改装後の記述)のだから、輸送船を改装した仮装巡洋艦とは比べものにならないだろう。また最新鋭艦であり武装(爆雷、レーザ)やセンサー、通信システムなどもかなり充実しているものと考えた。(ここまで根拠がないとなんでもいいようなものであるが、実際そうなのだから仕方がない)

3.サイズ

 「計画」で設定されているアクエリアスの大きさは以下の通りである。

全長 110 m
最大径 30 m
燃料(推進剤)タンク容量 2.5 ×103 m3
居住区(円筒型) 50 ×5 m

 サイズにさらに関してはデータが乏しく、上にあげた数値にはほとんど根拠はない。
 考える要素となるのは、乗組員の居住空間、作戦期間中に必要と考えられる食料、水、酸素などの量と武装や艦自体の大きさなどであるが、このあたりを現在の潜水艦などと比較して類推してみるしかない。また推進剤の体積は艦の容積の大部分をしめているはずである。
 居住空間を考えるうえで、参考資料として唯一挙げられそうなのはスコーピオン(ゾディアック級巡洋艦、改装後)は艦載機をすべて(コスモホーク2、スターファイター2)降ろし連絡艇だけをつんだ場合、警務隊員200人及び法務官、高等弁務官を登載できる、との記述である。[エリヌス−戒厳令−:P438]これは質量というよりは容積(居住空間)の交換だと考えられる。しかし警務隊員200人はどのていど劣悪な環境におかれていたのだろう。全員冷眠状態で輸送する可能性もある。また艦載機の格納庫は与圧可能でなければならないことになる。

 次に推進剤の体積を前述のように質量が 2100t だとして考える。作品中では推進剤と燃料とは区別されていず重水素類と記述されている。また液体状態で貯蔵されているとある。[エリヌス−戒厳令−:P99]

液体状態で貯蔵されている推進剤の大質量を利用して、戦闘時の余剰熱を一時吸収させ、戦闘終了後に時間をかけて放出するのだ。

「計画」では、後述の林氏の論考や林氏のデザインしたエンジン「ぶっつけ本番型」でヘリウム3−重水素反応を設定しているのでヘリウム3−重水素反応の場合の燃料と推進剤(核融合に寄与しない質量)の比率を考える。

D + 3He → 4He + p + 18.3 MeV

ここで 1 eV = 1.6021892 × 10-19 J より

18.3 MeV = 2.9 × 10-12

のエネルギーが発生する。このエネルギーが100%推進剤の加速に使われたとすると、
推進剤の得るエネルギーは 1/2mv2で表されるので

1/2・mv^2=2.9x10^-12J

推進剤の噴射速度は 1 × 107 m/sec としたので

m=58x10^-27kg

陽子や中性子の質量を 1.67×10-27 kg として、単純に燃料の質量を 8.35×10-27 kg とすると、燃料と推進剤の比率は約 1:6 となる。(実際には反応前の重水素、ヘリウム3の質量はヘリウム、陽子のペアの質量よりエネルギーに変換された 18.3MeV だけ大きいがこれは全体の質量の0.4%以下なので無視した)これは核融合反応、エネルギーの効率ともに100%とした場合だが実際には100%になることはありえない。反応、効率50%、もしくは反応33%、効率75%とすると燃料と推進剤の比率は約 1:0.7 となる。ここで燃料の体積を計算する。液体重水素の密度は0.017、液体ヘリウム3の密度は0.06、質量の比率は2:3なので両方合わせた密度は0.1となる。燃料が全体の15%と考えた場合の体積は 3150 m3になり、55%とすると 11550 m3となる。
 つぎに推進剤だが推進剤は重水素である必要はまったくない。いや反応しなかった燃料が(反応後の生成物も当然含まれるが)推進剤として使われていると考えると効率が非常に低いことになる。「計画」では推進剤(の大部分。若干の添加剤あり)を水と設定している。推進剤が水だと考えた場合体積は約 1800 m3 〜 950 m3 、重水素と考えた場合は約 10000 m3 〜 5500 m3 (エンジンの効率による)となる。推進剤の噴射速度を抑えて推進剤の質量を増やすと全体の燃料効率は悪くなるが同じ発生エネルギーでより大きな推力を得ることができる。戦闘艦の場合燃料効率を犠牲にしても大きな推力を稼ぐ設計であったかもしれない。

 核融合が重水素−重水素反応であった場合(これが反応条件がもっとも緩やかで核融合しやすいが、中性子が発生するため放射線の防御が問題になると思う)

3He 3.72 MeV
4.04 MeV

であり、上と同様の計算をおこなうと約1:0.75になる。この場合、反応、効率がのが57%程度であると考えたほうが良いかもしれない。同様の計算を輸送船についておこなうと効率は約15%となる。

4.武装

 第一次外惑星動乱時の航空宇宙軍、外惑星連合の主力兵器は爆雷である。レーザ砲も装備されてはいるが実戦にはほとんど用いられていない。(たったひとつ例外としてレーザ砲をメインにした兵器バルキリーがある)このためアクエリアスの主兵装も爆雷(おもに機動爆雷)と考えて間違いない。もっともアクエリアスの設計当初はレーザ砲による戦闘が重要視されており、形状が紡錘形なのはそのためである。[エリヌス−戒厳令−:P448〜449]

宇宙空間を飛翔するだけという任務にもかかわらず、レーザ攻撃に対する防御のため、全体の形はなめらかな紡錘形になっている。

戦闘時に艦側にそって折りたたまれる放熱翼を除いて、艦外にほとんど突起物は見当らない。

 爆雷には通常爆雷と核爆雷があり、それぞれに推進力をもたせた機動爆雷がある。[ジョーイ・オルカ(星の墓標):P191]
 爆雷の登載数であるが、警備艇には機動爆雷が2基登載されていた[砲戦距離一二、〇〇〇:P127]また、中型の輸送船に擬装されたオルカ・キラーは、10機の登載機を持ち[ジョーイ・オルカ:P186]その半数がそれぞれ1基の機動爆雷もしくは4基の通常爆雷を装備していた。[ジョーイ・オルカ:P195]ここのとから「計画」ではアクエリアスの機動爆雷登載数を12基とした。しかし、サラマンダーは作戦終了後の行動のひとつとして木星に帰還する事無く通商破壊作戦の続行を考えているが[巡洋艦サラマンダー:P36]この場合爆雷の登載数はもっと多いのだろうか。
 レーザは主兵装ではなくなったが通信[エリヌス−戒厳令−:P68]や爆雷攻撃の破片の迎撃[小惑星急行:P154]などに使われている。外惑星動乱以後は爆雷の持つ破壊力はほとんど必要なくなったためか、改装後爆雷やレーザ砲の変わりに艦載機が登載されている。[エリヌス−戒厳令−:P70](レーザ砲は装備されているばずなのだが)

改装によって大幅に変更されたのは、兵装の主力が艦載機群に変わったことだ。改装以前のアクエリアスの主兵器はレーザー砲だったが、 改装と共にそれは取り外された。かわって戦術・戦略、さらには急難の機能まで持つ多用途艦載機群が登載されて、主な打撃力を持つようになった。

5.センサ、通信

 航空宇宙軍、外惑星連合軍のともに自らの位置と加速度を相手から隠す必要があったためか作品中でアクティブセンシングはほとんどおこなわれていない。もちろん、船団などは前方の監視をおこなうためレーダによる観測もおこなっているだろうが(敵艦と遭遇した場合も同様)、不用意なレーダ観測は自らの位置と速度を敵にばらしてしまうことになるためかなり制限された使用をおこなっていたようである。そのため作品中にはレーダによる観測といった以外にアクティブセンシングについては記述がない。
 作戦中の観測は主にパッシブセンシングをおこなっていたようであるがこれも赤外線センサーによる観測をおこなっているとの記述しかない。
 このセンサと通信に関する部分が航空宇宙軍史の中で曖昧な部分の一つであり我々がどのような考察をおこなっても直接作品内の記述と矛盾することはない。ただしセンシング能力があまり優秀になるようでは航空宇宙軍史の設定自体が危うくなる。
 レニー・ルークは作戦中に(先行する船団が敵の爆雷攻撃を受けた後)赤外線センサを使って敵艦の推進剤の動きから位置と速度を割り出す手法を開発している。[土砂降り戦隊:P244]
 バルキリーは新しい(作品の中の世界では)射撃管制システムを採用した長距離レーザ砲撃艦である。それまでは正確な射撃管制がおこなえないためレーザ砲の有効射程距離はおよそ1000Km程度であるとされていたが、バルキリーはレーザ砲の低エネルギー射撃による赤外線反応を観測することで目標位置を正確に特定し、10000Km以上の距離から精密射撃を可能とした。これはレーザレーダと言うより弾着観測とそのフィードバックの発想から生まれた射撃管制システムと言えるだろう。

6.乗員

 アクエリアスの乗員は40人である。([エリヌス−戒厳令−:附録]では58人だがこれは改装後に海兵隊員が増員されたためで就航当時は40人と考える)
 第一次外惑星動乱終結までに航空宇宙軍はゾディアックを6隻就航させた。[アナンケ迎撃作戦(巡洋艦サラマンダー):P173]ゾディアック級巡洋艦だけで必要な乗組員数は交代要員抜きで240人になる。
 当時航空宇宙軍は[巡洋艦サラマンダー:P38]によればゾディアクを含めて正規巡洋艦を20隻近く保有している。ここではゾディアック以外の巡洋艦が16隻あったとしておく。警備艇、特設砲艦の数は不明だが40〜50隻以上はなかったと考えてもよいだろう。(ただし特設砲艦などは開戦直前や開戦後に改造されたものもある)巡洋艦の乗組員はジェミニを例にとれば7人[小惑星急行(火星鉄道十九):P133]、警備艦、特設砲艦は3人〜4人程度である。このことから、ゾディアック就航前の戦闘艦の乗組員は(交代要員を除けば)200数十人しか必要なかったことになる。いかに予備役を召集したとしてもゾディアック6隻の就航による戦闘艦の乗組員不足は深刻であったに違いない。

7.値段

 谷甲州先生はSFマガジン[82年11月号:P160]のインタビューのなかで、『製造に携わる技術者の給料まで考えないと安易に宇宙船を登場させることはできない』と答えておられる。ということは、当然アクエリアスの値段(製造原価?)も考慮の対象になっているに違いない。いったいいくらくらいかかるものなのだろうか。また戦争終結までのほぼ1年の間に航空宇宙軍は6隻のゾディアックを続けて就航させているがこの予算はどこから得たものなのだろうか。(航空宇宙軍の予算源は謎のままである)
 エリクセン准将が地球周辺で(ゾディアック建造のためか)艦船建造用資材が品不足で値上りしていると報告している部分はある。[カリスト開戦前夜:P72]しかし具体的に物価水準について述べているわけではない。他に作品中にはコストに関する言及がいっさいないため推測することは出来ない。
 90年6月頃の大阪例会でアクエリアスの値段の話をしたときには『米2000万俵程度』との意見であったが。(これは高いのだろうか安いのだろうか)




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