私的外惑星動乱考

川崎[漁師]博之

 前回の報告書において「惑星開発局を考える」と、勝手な思い付きを書いてみたわけですが、特に外惑星開発局のところなど走り書きになってしまいました。結局私の想像力、知識不足なんですが、やはり外惑星とかいうとあまりにも遠すぎる世界でして、こんなに早く人類は外惑星に出ていってもええんやろか、目指さなければならなかったのかちゅうことが納得できていなかったわけです。『こうしゅうえいせいさん』の<いびつな深読みはファンのたしなみ>で述べられていたよう“作品中で判明している背景”に「地球外知性体の存在が隠された強引すぎる宇宙開発の動機」とありましたので、とりあえずごにょごにょと区切りつけたんですが・・・。
 今回もまた、“いびつな深読み、ファンのたしなみ”という隊規?に反して、前回の尻切れとんぼの惑星開発局から何故の外惑星進出、外惑星動乱であったのかを私的に考えてみます。もちろん参考文献はこうしゅうえいせいさん「航空宇宙軍史基礎教養講座深読み用」と甲州画報。

★惑星開発局と地球から出て行った人類

 さて、21世紀になり惑星開発局の先導、管理の下で太陽系惑星群に進出していったわけですが、初期の惑星探査、地球外圏に出かけていったのは当然訓練された選ばれた人達であったことでしょう。惑星開発局の局員であるか航空宇宙軍の軍人であるか、それとも他機関の職員かもしれませんが、ずれにせよ一般の人々が気軽に飛出せる状況にはいたってなかったはずです。初期の探査時代には、例えば木星系や土星系衛星群に行って帰ってくるまでどれ程の移動時間が必要だったのでしょうか?もし片道数ヶ月(ですまないか?)あるいは1年以上も要する探査行で、再び地球の土を踏むのは早くて3年、4年後となったらやはりそう簡単には出かけられません。まぁ実際には外惑星に出ていったのは月や火星からかもしれませんが。それにまた、いきなり何十人、何百人というチームが投入されたりしないでしょう。
 1ミッションの探査行が3、4年程度だとすると、それらの帰還を待って次の探査行を組むというペースですと、10年で1、2回の探査行を実行するのが精々でしょうから、2020年代にはガニメデに基地が出来ていたという状況を考えると、そんなにのんびりしたペースで外惑星に出ていったなら間に合わないですね。(実際どの程度の移動時間を要するのか教えて下さい)。
 何年もかかるミッションで実際の滞在が何十日しかないというのであれば、外惑星群の開発は遅々として進みません。本格的開発調査を行なうために、外惑星探査が計画された当初から早期に長期滞在型基地を設営することは探査行の目的の一つだったことでしょう。隠された動機があったにせよ,無人探査の時代に当然外惑星系の資源開発の可能性は明らかにされていたでしょうし、地球外圏での半永久的な生活環境維持システムも開発されていたでしょう。もちろん探査行の探査宇宙船打上げもオリンピック開催の4年に一度みたいな悠長なことはやらないで、短期間に次々と探査隊を送り込んだことでしょう。ちゅうことは予めきっちと探査開発計画が練られていなきゃなりません。そんな計画を立て予算を組み運営していく、それ故の惑星開発局なんでしょう。
 探査時代の初期から単に観測探査のためのベースキャンプという意味合い以上に半永久的に済める基地が設営されていったとしても、それに参加した初期の技術者、科学者、航宙士などそのまま住み付いたということはないでしょう。外惑星開発に携わるそれらの手持の人材が豊富にあったわけではないでしょうから、新たな人材養成のためにも経験者のフィードバックが必要になったはずです。
 こうしたことから、外惑星進出の第一波は少数の訓練された選ばれた人達であり、彼等は短期間の訪問者に過ぎなかったと考えられます。
 次に外惑星群の実質的な開発が始ると、ある程度人数のまとまったチームの長期のミッションが組まれ滞在期間の長い駐在者が出てくることでしょう。資源調査採掘、搬出を稼動させていくには、現場の労働力はロボット、自動機械類であるにしても、技術者による運営のためのプログラム開発、管理など海星が必要とされることも数多くあるでしょうから。熟練の技術者、労働者を送り込むには、そうした人々の養成費用や生活環境維持システムユニット、業務用特殊スペーススーツのコストダウンがなされるまでは、業務用ロボットの開発費用の方がコストパフォーマンスが高かったことでしょう。それでも全く海星が必要ないとも限りませんから、安全性を無視した装備で過酷な条件下で活躍した人達も多かったに違いありません。そうした開拓者となったのが航空宇宙軍の人達だったのではないでしょうか。
 この時期も惑星開発局による基地運営と人選が行われていたと思いますが、第二世代の技術者、科学者、航宙士のグループで、月とか火星とかに出てきていた地球外圏世代かもしれません。
 長期の滞在者が出てくるようになると、基地はより快適な生活環境が求められるようになるでしょう。ただでさえ地球から遠く離れたという寂漠感、心細さに加え過酷な自然状況下での暮しにストレスを感じているのに、限られた居住空間にある人口密度以上で暮すとストレスが溜まる一方で、2、3年の駐在では地球に帰ることができるからといっても、そんな圧迫感に耐えきれない人が出てくるでしょう。まぁその点では、いきなり地球から出てきた人よりも、月から、それよりも火星からきた人の方が適応力はあるでしょうね。
 では、どういう生活環境を作り出そうとするでしょうか。各個人の私的空間の確保なんてものは、狭いのだったかもしれませんが初期の基地時代でも可能でしょう。真空、極低温などの外環境は地球上とは全く異なっていますから、生活環境にはより地球的なものを求めるんじゃないでしょうか。ひとつの方法としてプログラムされたシミュレーション機器による人工疑似地球環境を作り出し、ストレスやホームシックを押さえようとするかもしれません。しかし、圧倒的な非人間的無機質の世界に取囲まれていて、本物そっくりとはいえやはり偽者でしかない地球環境に、その人工の非人間さによりうんざりさせられるようにも思えます。また人間の社会的環境も再現しようと、例えば「ビルドウィングスゲーム」のよ
うに虚構の世界に入り込ませ、望郷症候群のような治療を行なうかもしれません。それにしても、このプログラムにアクセスするという行為自体が、そのうちやりきれなくなってしまいそうです。
 そのような人工環境機器に閉じ込められた空間より、無目的な空間、開放された空間、気紛れな行動を容認する空間、無駄な空間という、全てが計算され効率化された基地を拒否するような考え方ではありますが、人は効率化だけでわりきれるものではないでしょう。そうした方が長く耐えられる気がします。そうは言っても、海だ山だ熱帯雨林だという空間を全て再現するわけにもいきませんから、基地は無目的空間を含み拡大化され“街化”されていくんじゃないでしょうか。
 各基地が駐在所村から拡大され、ある程度の人口を収容できる規模になってくると、これまで資源開発、研究などの限られた技術者、専門家だけが赴任していた基地に、そういった専門性に拘わらない人間も赴任できるようになってくるでしょう。空間が街化するとともにそこに居る人もまた多種多様であることが求められ、そのことが人工環境下で暮らす人々の精神安定性を高めるとされたのではないでしょうか。地球圏外人類社会学とか宇宙環境心理学とか、なんやかやと研究されていった結果かもしれません。
 惑星開発局はこの時代、自らが教育した専門家達の他に部外から他業種にわたった人々を選抜し(もちろん初めは限られた有用業種だけだったでしょうが)、各基地に送り出したのではないでしょうか。ただし部局者以外は何年で帰還という規定は特になかったかもしれません。駐在員の現地化というか地球へ帰還しない人々もでてくるでしょう。
 この時代はまだまだ惑星開発局の管理統制が強く働いたでしょうし、地球側から出る条件も何かと規制されていたんではないでしょうか。かなり自給自足は出来るようになっているとはいえ、生存条件を確保するのが精一杯だったところから少しは余裕が出はじめたというところでしょう。
 そうして街化が進んだ各衛星群に、やっと一般の人々にも門戸が開かれて、つまりこれまで惑星開発局側が選抜といっても任命していた人達が、希望者が応募出来るし移住することも認められるようになってくるのではないでしょうか。惑星開発局側はそれたの人々を選抜する時に、地球上のいくつかの都市をモデル化して、それらの人口構成比、異種別人口比、業種類などのパターンを踏襲して選び出し、膨脹し都市化する基地に当てはめ送り出していったかもしれません。本来の基地運営には無駄であると思われるような業種とか必要でないと思われるようなサービス業の人達であった喪、都市の人間社会の多様性として取入れられたかもしれません。ある程度の決裁権をもつ都市行政機関も設置されるでしょう。
 ただ21世紀後半には、都市化が進んだ果てに都市国家化されているわけですから、急速な膨大な人口流入があったことでしょう。ということは惑星開発局の選択というよりもっと積極的な移民政策があったのか、多くの人々を引きつける魅力が外惑星において見出されたということでしょうか。
 自主的に外惑星域に出ていった人々というのはどういう人達だったんでしょうか。人工的ではあるけれど無菌室的な環境を求めて出てい行った(外惑星に行く人達はかなり厳しい健康診断をクリアしないといけないでしょうから)、たとえば20世紀後半からすごい勢いで拡散していったエイズ渦を怖れる人々、なんというか潔癖症候群みたいな人々もいたかもしれません。地球圏外で生まれ育った世代も多くなってくるでしょう。
 一方、強制的な移民政策は行われたでしょうか。1990年代の世界人口が50億人で、この増加率が減少しなければ2020年には90億、2050年には100億人という予測が立てられていましたが、この地球の人口圧力が人類を宇宙へ押出したというのでしょうか.人々の地球外進出する契機となる一つの要因ではあったかもしれません。しかし、地球の人口が多すぎるから地球圏外にも住みつけという、一画では棄民政策ととらえかねないような単純な発想では賛同を得られないでしょう。
 環境問題、人口圧迫など深刻になっていた問題が、経済的貧富が偏在しているために悪循環を繰返していたのですから、それらの問題に対処するために地球上では全体的な調整計画経済が導入されつつあったかもしれません。エネルギー政策にしても化石燃料の生産可能資源の限界や環境への影響の問題などから、新たなエネルギー革命の必要があったことでしょう。
 惑星開発局の政策や思惑に隠された動機があったとはいえ、そうした時代の状況とは無縁でいられないでしょう。惑星開発局が開発にあたり中央統制を導入したというのも、この時代の地球状況がそうさせたということでしょうか。
 惑星開発局と共に外惑星へ出ていった人々ですが、初期の探査開拓時代のエリート達から後期の移住者を含む多種多様な人々の流入が行われていく過程において、惑星開発局と人々の関わり方も変化していったことでしょう。惑星開発局ひいては地球への帰属意識、忠誠度といったものは、開拓初期の人々ほど強かったに違いなく、帰還した人はおおげさに言えば全人類の賞賛をうけたことでしょう。それはある程度の資格は必要だったにせよ一般の人々も外惑星に住めるようになり、惑星開発局が緩やかな幅をもたせた人々の選択をし、ということは必ずしも惑星開発局の思惑と一致する人々ばかりとは限らず、その帰属意識は初期の頃に比べて薄れていったでしょう。
 外惑星の開発は惑星開発局による指導のもとに展開されてゆくのですが、探査、科学調査、開発事前調査の計画・運営の担当機関であった惑星開発局が、外惑星の各基地が資源開発などの調査レベルから本格的な資源採掘プラントが稼動していくようになると、惑星開発局の当初の役割は終了したといえるかもしれません。基本開発綱領などは惑星開発局の政策に沿ったものでしょうが、すでに都市化した各基地にある程度の行政機構も存在するようになり,強力な直轄統治機関を置いていなければ遠隔地の地球からなにもかも指導管理し続けるというのは無理のような気がします。
 各外惑星の基地が都市化されていく際には惑星開発局の分局,駐在事務所が置かれていたことでしょうが、都市の人口、それも局員以外の人が増えていき都市運営の行政機構がととのうにつれて、惑星開発局の分局はそれらの行政機構のひとつに組込まれていったでしょう。当初地球から本局の局員が駐在し、本局から定期的に監査にまわっていたかもしれませんが、各外惑星の都市がかなりの自給生活が可能になり開発計画もすでに調査団界から産業化に移ってしまえば、それらもまた膨大な時間と費用を費やしてまで頻繁に行なうことはしないでしょう。
 外惑星にとばされた、駐在させられた惑星開発局の局員にしてみれば、それこそ世界の果てに島流しにあったような気持ちだったかもしれません。生きて本局に戻れる見込もなく、後任は何時くるかもわからず、出世のエリートコースから外されたなんてことになったら、惑星開発局への忠誠心、帰属意識も薄れてしまうことでしょう。惑星開発局の局員達も、当初は開拓時代の先端を行くという情熱と帰還すれば英雄扱いされ出世も出来た外惑星勤務を望んだかもしれませんが、そのうち何時帰還できるかわからないし、開発の前線に出ていっているわけでなく相変らずの事務仕事となれば外惑星勤務など極左遷もいいところで誰も望まなくなっていったかもしれません。
 結局、惑星開発局は地球上の組織であり、地球圏外の探査開発計画を立案し運営管理していった組織で、その役割は人類の目を地球圏外に向けさせ送り出すことであり、その知勇圏外の受入れ側の体制が整ってくるにつれ、惑星開発局の存在意義は薄れて行った(少なくとも地球圏外においては)ということなんでしょう。

★航空宇宙軍と惑星開発局

 惑星開発局は外惑星の各基地が都市化し、資源採掘などの事業が軌道に乗ってくる段階で、各都市を植民地として管理しようと考えていたのでしょうか。開発初期の各基地がまだまだ多くのものを、例えば人員や開発資材の補充などを地球、惑星開発局に頼らなければならなかった時代、当然全ては惑星開発局の計画管理の下にあったわけですが、基地が都市になり開発事業が軌道に乗り、都市の行政機構が整えられていく段階に地球植民地として管轄するつもりならば、各都市に総督とでもいうべき立場の人間を送り込むべきではなかったでしょうか。そして、その行政機構を惑星開発局の局員に全ての腫瘍ポストを押さえさせ、中央からの監察機構もまた完備させるべきだったのではないでしょうか。何故司政官制度といったものがでてこなかったのでしょう。
 惑星開発局は、どうやらそういった植民地経営といったような運営戦略は考慮していなかったような気がします。ひとつに地球上の惑星開発局は、外惑星域での都市が都市国家化していく流れを正確に認識していなかったということでしょうか。それらは地球からの出先機関であって中央党性による計画経済の下に組込まれており、またそこに住む人々も当然地球に帰属しているのである、外惑星の開発運営管理という認識はあっても政治的配慮はとくに考えていなかったのではないでしょうか。それは、惑星開発局は地球圏外開発の計画管理機関であるけれども、その経済、社会の発展過程を地球上のパターンでしか捉えられなかった、外惑星の心情、立場を時間と距離の壁を越えて実感出来ずにいたからだったように思われます。
 また、内惑星諸都市は比較的地球経済と結び付いており、人々、情報の交流も外惑星に比べて頻繁に行なわれ、惑星開発局側は現地における指導管理機関の強化の必要性を特に認めず、地球側からのコントロールが充分できていると考え、外惑星に於いてもその論理で押し通すことにしたのかもしれません。しかし、そのアステロイドベルト地帯や内惑星諸都市が外惑星動乱時に傍観者的立場をとったことは、必ずしも惑星開発局,地球側の政策、思惑といったものに心情的に賛同していなかったように思われます。やはり惑星開発局は地球圏外に人類が広がっていった時の、次に来るべき価値観というのか世界観を持ち得なかったのではないでしょうか。結局実質的に地球圏外に進出し開発の現場に立合ったのは航空宇宙軍であったことによるのかもしれません。
 外惑星の探査開発当初から関わり、航宙船の運行、人間を含む様々な物資の運搬、開拓時代の前進基地の管理保守など、最も太陽系内を実際に飛回ったのが航空宇宙軍でありました。外惑星に進出しはじめた時期、航宙船も訓練された航宙士も充分にあったとは思えません。当初は惑星開発局所族の航宙船としてだったかもしれないですが、航宙船を保有し運行業務を実際にこなしていたのは航空宇宙軍だったでしょう。その活動は外惑星開発が進むにつれ急激に増加する人、物資が交流するようになり益々活発化し、またそのため地球圏外における救助・治安業務も増え、探査航宙づ寝、旅客貨物航宙船の他にそれらの業務に対応する専用航宙船団が組織されていったことでしょう。
 外惑星の開発事業が軌道に乗り惑星開発局の開発調査の段階が終った21世紀後半には、事業を徐々に半官半民、民営化させて(あるいは航空宇宙軍が依託されて)、惑星開発局は開発経済計画や調査研究部門とか地球からの移民管理部門などを残して、本局の人員、規模は縮小されていったかもしれませんは、それとは逆に航空宇宙軍は実質的な地球圏外活動担当者及び監督者としてその立場、発言力も強くなっていったことでしょう。地球圏外開発政策立案者としての惑星開発局とその実行者としての航空宇宙軍との間で、開発が進行するにつれて権限、主導権は移動していったことでしょう。
 また航空宇宙軍は外惑星開発の現場を目にしているだけあって、外惑星都市の変貌というか膨脹化の様子を、それら都市群の実情をよく把握していたと思います。各都市が自治力を強めつつ都市国家化していく様子は、外惑星開発の担い手としての自負のある航空宇宙軍にとってあまり悦ばしいものではなかったことでしょう。航空宇宙軍はその性質上独自に各都市群に政治介入していくことは出来ないでしょうから、惑星開発局の運営管理体質の見直しと政策転換、つまりより強固な中央指向の権力を常駐させるように求めたかもしれません。
 惑星開発局とそれぞれの外惑星に対する認識の違いが、航空宇宙軍には苛立たしく感じられたのではないでしょうか。航空宇宙軍から見ると惑星開発局ひいては地球側の対応が地球の殻に囚われているというか、相変らず旧態然とした政策思考しかせず、太陽系国家といった来るべき世界観を持っていないと考えたかもしれません。我意宇宙探査をも担当し、すでに太陽系外の宇宙観を持ち始めた航空宇宙軍とすれば、ましてや隠された動機であるところの外宇宙知性体の存在すら認識し始めていたとすれば、地球側の閉ざされた宇宙観に危機感を覚えていたかもしれません。

★外惑星都市群と航空宇宙軍

 地球側の外惑星に対する認識、宇宙観に対しては、外惑星に住み付いた人達もまた苛立たしさを感じていたかもしれません。
 人間の生物学的機能、生理学的行動様式は急に変るものではないでしょうから、都市の中では地球上と同じ生活パターンを踏襲し1日を24時間と区切って生活していたでしょう。街路や公共広場などでは、朝になれば明るくなり夜になれば暗くなるように人工照明も調整されていたかもしれません。ただ都市から一歩外に出ればそこは真空の極低温の世界で、空をみあげればそこに木星や土星が圧倒的貫禄をもってのしかかってくる全く非地球的世界に済んでいるわけですから、これを経験してしまった人々と地球を出なかった人々では体感的宇宙観といったものが全く異なってしまうことでしょう。
 地球に居れば知識として地動説は分かっていても感覚的天動説で生活しているように、太陽系の中の地球がとか外惑星との繋がりとか特に意識しないまま生活していくんじゃないでしょうか。外惑星とどう繋がっているのかと問われたところで、例えばエネルギー資源の重水素類のほとんどを外惑星都市からの輸入に頼ってますと教科書に書かれてます、といったような答えが返ってくるだけかもしれません。その重水素類にしたところで人々の生活のなかで目に見えるわけではありませんから、どこあkらきたのかと日常のなかでいちいち詮索することなく、情報としての知識でしかないでしょう。もちろんもっと多くの情報が公開されていることでしょうが、夜空を見上げて、あの一画にも人々が生活しているんだなぁと、しみじみ実感している人なんてのはほとんど居ないのではないでしょうか。月を見てはそう思う人も居るかもしれませんが。
 外惑星側では重水素類を地球側に搬出のため、それぞれの現在の軌道と地球のそれらがどういう位置関係になっているかを考慮し、未来の地球の位置を予測して搬出軌道やらを導き出したりするでしょうから、地球を太陽系といった宇宙の中の空間で認識する世界観が生れるでしょうし、2、3年五の搬出作業の結果を常に予測しながらの業務は時間の捉え方も変化させていくかもしれません。そうした業務に関わっている人達ばかりが各都市に住んでいるわけではありませんが、地球ではありえない環境に住んでいることを無視し続けることは出来ないでしょう。それ故に外惑星での生活に適応出来ない、あまりに地球的なものを求めたがる地球症候群があらわれる人々もいたかもしれません。
 いずれにせよ外惑星都市群からしてみれば、そういった宇宙観、地球観の変化があったとしても、またかなりの自給生活が出来るようになり地球からの物資の輸入に頼る必要性が減少したとしても、地球向けの資源供給が基本的な存在理由だとすれば、常に地球を意識しているでしょう。望郷の念もあるでしょうし、大げさに言えば地球経済になくてはならない役割を担っているという自負もあったかもしれません。
 その点では、航空宇宙軍もまた地球の生命線を守っているのは我々であると考えていたのではないでしょうか。航空宇宙軍はだからこそより積極的に地球は太陽系惑星群に乗り出しその経営を進めるべきと考えるでしょうし、外惑星都市群は地球至上主義を捨て太陽系としての視野を持ってほしいと望んだのではないでしょうか。いや地球至上主義を捨てろという大局観にはまだ至っていなかったでしょうが、その芽生えというか、地球的論理や尺度だけで動かないで欲しいという自我が生れつつあったということでしょう。それが都市が国家に変貌していった意識でもあるでしょう。

★外惑星動乱

 そうした変化が起りつつあった外惑星都市群に対し、かつては地球圏外に最も強く指向していながらいまではあまりに地球的官僚組織になってしまった惑星開発局が、現状を理解しないままに資源、資材の搬出を求め続けた結果は、外惑星都市群の反感をあおり逆に自治行政の独自路線を押し進めてしまったのかも知れません。
 この惑星開発局の政策には航空宇宙軍の介入があったのではないでしょうか。外惑星群をより強固な中央統制による直轄経営すべきだという思惑があったとすると、資源搬出を無理強いすることによって外惑星都市群の経営を圧迫し疲弊させ、一時は生産力の低下やあるいは都市運営の危機をまねくかもしれませんが、それに対し地球側に外惑星都市運営の見直しを迫ります。そうすると外惑星運営の梃子入れをする役割が航空宇宙軍にまわってきます。航空宇宙軍の権力はますます肥大することになるでしょうから、直轄統治による再開発計画を承認させ、惑星開発局が先導していた開発時代には認められなかった外惑星の駐留軍、中流司令部の設置も行なわれるでしょう。
 こうした動きとその思惑は、地球よりも航空宇宙軍の動きに過敏にならざるをえない外惑星都市群には薄々感じられていたのではないでしょうか。航空宇宙軍と地球への苛立ちを感じている点は同じでも、その将来像に関しては全く別方向を望んでいる外惑星としは、その動きに対抗するための自治独立を確保するために国家として立つその機構と政治力を整えたでしょう。軍隊もまたその機構の中に生れてくるでしょう。
 地球側、航空宇宙軍の動きが、結局は外惑星都市国家の形成とその連合化を早めたように思われます。いずれは外惑星諸国は政治的外交力を発揮して、事態を収拾していったかもしれません。安定した政治、経済状況になってしまえば、航空宇宙軍はその介入行為の機会、正統性が失われることになるでしょう。時機を逸することを怖れていたかもしれません。だからこそ外惑星側に不満を爆発させようと、実力行使に出させようと無理難題をふっかけたのでしょう。
 そして、戦力的に不利な外惑星側に実力行使させるふんぎりをつけさせたのは、搬出された重水素タンカーお80%が外惑星圏内にあったということで、そのことを恫喝の材料にして外交交渉の場に地球を引きずり出せるという思惑があったからではないでしょうか。しかし、これこそ“外惑星側から手を出させる”という航空宇宙軍の望んだタイミングであったことでしょう。この動乱の勃発時期も充分予測されていたのかもしれません。
 こうして考えると、林[艦政本部開発部長]さんの言われたように(甲州画報25号)、この早すぎた外惑星動乱は『攻撃をしかけたのは外惑星連合だが、攻撃させたのは航空宇宙軍』という図式であったように思います。

★隠された動機と外惑星動乱

 どの号の甲州画報でみかけたのかわからないのでどなたが言われていたのか正確に引用出来なくて申し訳ありませんが、外惑星動乱時、航宙船が破壊された際地球からも条件がよければ肉眼でも見えたかもしれないという話しがあったと思います。
 この地球に住む一般の人々が夜空を見上げた時に、航宙船の爆破する際の閃光が見られたとすると、地球上では動乱に関する情報は限定されたものかあるいはほとんど流されなかったかもしれませんが、その光景を見た人々は流れ星でも恒星の爆発での光でもない、これまでに見ることのできなかった光にそこで何が起っているのか不安になっていたかもしれません。
 もしかすれば、動乱の情報は洩れていて、人々は夜空の閃光を指差して、
「みてみい、あれ。あそこでなんや光ったん見えたか?」
「ああ、見えたけど、いったいあれなんやねん」
「あれか…、多分航宙船が機動爆雷にやられたんとちゃうか。航空宇宙軍のやつか外惑星の連中か、どっちかわからへんけどな。」
「えっ、その機動なんどかちゅうのや、航空宇宙軍か外惑星かちゅうのはどういうこっちゃねん」
「アホかおまえは。最近人が集まりゃ、やれ戦争や世界の破滅やいうて騒いどるのに、そんなんも知らんのか。外惑星連合が叛乱起して、その鎮圧に航空宇宙軍が乗り出しているちゅうのに…、わかるか、戦争や、宇宙戦争やねんど。平和なやっちゃ。ちっとは地球人として考えたれよ。世界は太陽系に広がってんねん。から」
「太陽系やて、そんなたいような、いやそんなたいそうな…。そら、わいかてどっかで戦争しとるいうのは聞いたことあるけど…。せやけど、わいらの頭の上でドンパチやっとるとはなぁ…。その機動なんとかちゅうのは、ここまで落ちてこおへんやろうか。ひとが寝てる枕元に、ドッカッーンちゅうて落ちてこられたら…、かなわんなぁ」
 と、あほなことを言っていたかどうかはわかりませんが、これまで実感として外惑星の世界を認識していなかった地球の人々にとって、自分達の頭上で戦闘が繰広げられていることを意識し、それを目撃することにでもなれば、今まで誰かがそこにいることなど普段考えもしなかったことに気付かされ、そしてそれらが空を突き抜けてくる可能性に恐怖を覚えるかもしれません。大勢の人々にとっては、空からの来訪者、空から何かがやってくるというのは空想の物語でしかなかったのではないでしょうか。
 この大げさに言ってしまえば、地球の人々の宇宙観を一変させる出来事は、空の彼方は無機的世界だけではないということ、少なくとも人間は地球だけではなく存在していることを改めて認識させたわけで、少々粗っぽい手段ではありますが、地球の生活的?空間認識の殻を破ることになったでしょう。
 人類総体として太陽系宇宙を視野に入れ始めたのが、外惑星動乱を契機とするこの時期以降からだったのかもしれません。すると太陽系宇宙をひいては外宇宙にまで人類全体の目を向けさせるために、地球圏外の世界を認識させるために外惑星動乱が必要と考えた人達もいたかもしれません。(第一次だど早すぎるかな?)。その人達は当然、外惑星開発に関わる隠された動機−外宇宙知性体の存在を知っていたに違いないのです。




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