惑星開発局を考える

川崎[漁師]博之

 「こうしゅえいせいさん」誌上の特集『<いびつな深読みはファンのたしなみ>』の中で、「惑星開発局」についての具体的な描写は航空宇宙軍史中にほとんど存在しないという指摘を読み、これに興味を惹かれ、航空宇宙軍史を深読みもしていない門外漢ではあるから、もちろん誌上に載せられた航空宇宙軍史年表や社会構造等を参考に、特に年表に表われるまでの「惑星開発局」の動きを想像してみたい。

1.「惑星開発局」を現在の国連システムから発展してきたものと仮定する。

 現在、国際連合には161ヶ国が加盟していると思われるが、国連システムは全加盟国によって構成される国連総会を中心とし国連事務局、安全保障理事会、信託統治理事会、経済社会理事会、国際司法裁判所の主要機関が設けられ、それらのもとに国際労働機関や国際教育科学文化機関などの国連専門機関、国連開発計画や国連児童基金などの国連補助機関、そして国連平和維持軍などの国連軍組織が存在し、主要なものだけでもおそらく30以上の組織によって構成され、その周辺にはいくつもの国際自然保護連合などの国際団体が存在している。そうした中に「国連宇宙平和利用会議」があり、1968年第一回会議が開かれて以来、非宇宙開発国も含めた宇宙の平和利用と国際的な協力計画の検討を行なってきた。また宇宙空間の開発平和利用に関しては、いわゆる宇宙条約「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」が1967年に成立している。
 しかし、宇宙開発利用活動は非軍事活動面においてもNASAを有するアメリカの国家宇宙委員会、カナダ宇宙局、ECの欧州宇宙機関、ソビエトの国民経済科学研究用宇宙技術開発利用総局、アジアにおいては中国航空宇宙工業部、インド宇宙研究機関、韓国航空宇宙研究所、日本の宇宙開発委員会などの国々が、政治的にも経済的にも優位な立場にあり先導しているのが現状である。

 さて、前述した国連システムだが、それらの機関は加盟国の国連分担金、拠出金により運営維持されている。しかし加盟国の大半が途上国と呼ばれる国々であることからもわかるように財政的に貧しい国々が多く、年々通常予算分担金の不払率が上昇し、国連の財政事情は苦しい。
 また、国連システムは先の湾岸戦争でみられたように、その場は国際政治の場であり各国の力関係にしたがって動いている。大国の優位に対し中小国の不遇は燻り続け、かならずしも一枚岩的なものではなく、その足許は揺れ動いている。
 国連機関もまた参加国の拠出金負担率や各機関の政策に対する自国の政策方針の違いなどから、代表する国の経済・政治力学によりそれらを代表する機関となり、国際協力、開発援助の場において各機関のセクショナリズムが表面化することになる。組織はその組織自体が存在するために機能するのである。
 こうしたことから、国連憲章の再検討、国連財政システムの改革、国連・国際機関の再編成が、国連システムを維持し続けるための必然かつ緊急の課題となった。
 国連の再編成の過程において、ひとつの超大国であったソビエトの解体、各地域で進行した経済圏ブロック化、エスニック問題を抱えながらもグローバリズムの浸透などにより、世界を欧州、東西ユーラシア、東西アジア、南北アフリカ、南北アメリカ、大洋州の10グループに地域圏分割し、各理事会はその10グループの代表によって構成されるようになった。それらの理事会のうち、過去にあった「信託統治理事会」は被信託統治国の消滅によりその役割を終了し解散することになり、代わって「地球環境管理理事会」が構成された。そして1990年代の最大かつ深刻な問題のひとつであった地球環境問題を、セクショナリズムを押えよりグローバルに取組むために、これまでにあった関連国際機関を統合・再編し、その管轄下に置いた。この理事会の直轄下に地球環境管理委員会事務局が設けられ、いくつかの執行部局が創設された。時には国連総予算の50%以上が割り当てられる、第二世代の国連を象徴する国連機関となった。
 地球環境管理事務局のもとに創設された担当局は次のようなものである。

[地球開発管理局]  地球の環境を維持し持続可能な開発を行なうために、多国間開発援助プログラムの計画・実行を行なう。国連開発計画から発展。地域グループに対応する10担当部にわかれる。
[地球環境保全局]  開発援助プログラムの環境影響評価とともに、生物資源の種の多様性の保護管理を行なう。MAB計画などの国際協同研究計画も引継いでいる。バイオテクノロジーによるバイオハザード防止のための監視査察機能を持つ遺伝子管理部もある。
[惑星環境監視局]  全地球海洋観測組織計画、世界海洋循環実験計画、世界気象監視計画、TOGA計画などの政府間海洋学委員会、世界気象機関、各国際学術機関によって行われてきた国際協同研究計画を引継ぐ。地球循環系のリモートセンシングによる調査研究、監視体制を整える。
[宇宙環境開発利用局]  地球環境観測に使用される観測衛星や地球資源探査衛星の管理運営を行なう。太陽風観測計画、宇宙空間環境調査、人工環境創造計画などのプログラムがある。国連宇宙平和利用会議、宇宙条約の流れがここに集約され、国際宇宙ステーション計画の共同開発利用も進展した。
[航空宇宙監視局]  観測衛星の機材調達、打ち上げ実施、運行管理、保守管理、回収などを担当。各衛星の運行状況を総括的に管理を行なうことから、軍事衛星の監視をも行ない、国連平和維持軍などより一歩踏込んだ戦争抑止力を持ち得るようになった。
[南極研究センター]  1961年に発効された南極条約に基づき発展してきたもので、いずれの国家も南極に対する領有権を放棄し、南極特別保護条約に守られた聖域となった。南極の調査研究は全てこのセンターが管理する。

 また国連システムが再編された際、その財源システムについても再考された。
これまでの国連分担金は、一国の分担率を通常年間総予算の再考25%最低0.1%とし、各国の国民総生産を基準に分担委員会の勧告によって国連総会によって決定されていたが、分担金の不払問題が生じ赤字財政に苦しんでいた。

 この問題に関し、1999年国連システムの改革を求める国連総会の特別緊急委員会が召集され、その会期中これまで負担率のもっとも大きかったアメリカの国連大使は「公平な権利の受益のために公平な義務の負担を」と国連分担金、拠出金の負担義務の履行を強く打出した財源改革に関する草案を提出した。
 これをうけて分担金委員会は分担金の徴収システムの改革をすすめ、経済的に貧しい国々からどのような形で国連への寄与を求めるかが検討された。新たに採用された国連協力金の徴収システムの中でも特記すべきは、[協力金が国家財政上満足に支払できない場合は、委員会との協議に基づき国連及びその機関にそれらが国際的活動上必要とする人的、物的資源を優先的に拠出することに努め、いずれも負担義務を履行しなければならない]という条項が設けられたことであろう。このことは当初、国連及びそのスタッフとして自国の人間を送り込めることでもあり、自国の国際的立場の向上にもつながるとして、多くの経済的途上国にとっても歓迎された。
 しかしながら、この協力金システムが、地球圏外への進出、活動が活発になり国連の宇宙環境開発利用局、航空宇宙監視局などが肥大化していくにつれ、それらの活動に必要な希少金属、ウランなどの天然資源の優先的拠出を強要するようになり、こうした物資の徴収行為がますます権力の集中化をまねき、後の惑星開発局の体質を性格付けたともいえよう。

 さて、地球環境管理委員会事務局は時に特別プログラムの予算を含めると国連総予算の50%以上を占有する巨大な組織とはなったが、その国連予算にしたところで当初はいくつかの経済大国の通常年度予算の5割に満たないものであった。
 この委員会創設時最大の人員数、予算を誇ったのは地球開発管理局であるが、大型開発事業による自然破壊と「自らの未来は自らの足で」というローカリズムの尊重を考慮し、むやみに巨額の資金を投入する大型開発プロジェクトは減少した。これは国連憲章改革が討議された2001年国連特別総会の際、エスニック問題委員会代表委員による「我々は、神よ、あなたの優しい手に導かれ、そして暖かい友人たちのまなざしに囲まれていれば、生きていけるのです」という総会の呼びかけによって、民族紛争問題、途上国開発援助問題の抜本的見直しが行われはじめ、各地域、民族のアイデンティティーを消滅させるような開発は無意味であるとともに人的環境の破壊であるという認識にたち、地球開発管理局が「Think Globaly, Act Localy」の方針をより一層強めていった結果でもある。
 これとは逆に、宇宙環境開発利用局、航空宇宙監視局は予算、人員の急激な膨張化が目立った。これは2010年代に入り宇宙空間環境調査や国際宇宙ステーション計画などの実現化、研究結果の応用化が進んでくると、特に国内にこれら両局とネットワークを形成している宇宙センターを有する国々は、地球外圏への進出・開発機運が高まり、月面地下研究都市計画や火星自然改造計画などの特別プログラムへの拠出金が増大し、国際世論もそれらにひきずられ地球全体が浮されたように宇宙進出への夢を具体的に見始めた。

 こうした流れの結果、2019年第二世代の国連が生れて20年後、予算も当時に比べ、3倍近くに膨れ上がった国連は、地球環境管理理事会を中心に第二国連を分岐創設させた。これは、地球環境管理理事会の管轄下の予算、人員が、国連のそれらの過半数を占める状況になっていたからではあるが、第二国連を改めて創設したのは、これまでの宇宙開発に向けられていた国際世論の高まりをより強く方向付けさせる意図が含まれていた。
 第二国連は、総会を頭に置く構造は変わらないが、その下に「惑星環境管理委員会」が置かれ、担当局として「内惑星開発局」、「外惑星開発局」、そして「航空宇宙軍」の3つに大別された。

 内惑星開発局は、太陽系を木星と火星の間にある小惑星帯を境にその太陽側の惑星開発、宇宙空間利用を担当した。その内訳は次の通りである。

[地球環境管理特別局]  元の地球開発管理局、地球環境保全局、惑星環境監視局の事業を引継ぐ。
[月面都市計画管理部]  月面上、地下の研究都市建設の計画、管理。地球−月間の研究ステーション群も管轄。
[火星探査事業部]  火星の資源探索、実用化事業の開発、そして最も移住計画を明確に打出したのもこの事業部である。
[太陽・熱惑星観測室]  マゼラン計画を継承。太陽エネルギー利用調査など。

 外惑星開発局は、当初ひとつの執行局として分局させるにあたって、総会での組織改革案の承認の際、総会参加者の一部から戸惑いと何故の分局なのかの疑問の声があがる程、その発想と予算措置は意表を突いたものであった。一般的には当時でさえ宇宙開発といったところで、実質的には月や火星開発であろうという認識しかもたれていなかったからである。外惑星に関しては、せいぜい研究対象として探査隊が訪れる程度であろうとしか思われていなかった。この外惑星開発の理由付けとして、過去からの外惑星衛星探査の結果発見された有効資源、特にエネルギー資源の開発利用が地球上エネルギー問題の解決につながるということで押し通された。また、各惑星の有する諸衛星群には人類の居住可能性が高いことも強調されたが、月、火星にしてもまだまだ本格的に移住が始っているわけでもなく、時間と予算をかけて開発すべき空間は充分に残されていた。人々の意識とすれば、火星ですら遥かな“外”の世界であった。
 外惑星開発局の設立に関しては、実は北米、欧州、東アジア、東ユーラシア地域の宇宙センターネットワークによるかなり強引な根回し工作が行われた。それらの宇宙センターは、一般にはすでに関心の外に飛出してしまっていたであろうが、20世紀末から開始されていたボイジャー号計画、ガリレオ計画、ユリシーズ計画、カッシニ・ハイゲンス計画などの木星系、土星系への外惑星探査衛星群や近在恒星系探査ダイダロス計画などの探査衛星群の調査、観測データの収集・分析を跡切れることなく続けてきた。2000年代に入り、これらの探査データが集積され解析が進んでくると、何等かの新たな発見があったに違いないが、何故かその発見は時期尚早と判断されたのか一般には公表されることはなかった。ただ関係者の間では外宇宙探査計画の強化と緊急性を訴える声が高まったのは確かである。
 そうした外惑星・宇宙の研究者たちを中心とした動きと時の首脳部の思惑が結び付いた結果が、「外」への意識付けを導く外惑星開発局の設立に至った。果たしてその両者の狙い、思惑が完全に一致したものであ
ったのかどうか疑問ではあったが、一般には知らされない意図があったようである。
 ただこれらの「内」「外」の惑星開発局を設けたことは、一般的な感覚であった空間認識の境界を明確に定義付けてしまったことで、この後各惑星系に移住していった人々の帰属意識をも分断することになり、「内」と「外」の対立構造を醸成しやすくしてしまったと言える。

 外惑星開発局の内部局は、[木星系衛星開発部]、[土星系衛星群開発部]、[天王星系衛星探査部]、[海王星系衛星探査部]、[恒星間宇宙研究部]、[冥王星調査室]である。こうした部局が存在したが、研究分野に力点が置かれ、実際の外惑星探査は後に述べる航空宇宙軍が担当した。

 航空宇宙軍は、元の航空宇宙監視局から発展したもので、再編の際には安全保障理事会の下に置かれていた国連平和維持軍も吸収した。これは監視局時代の各国軍事衛星の監視行動が強化されるにつれ、制裁行動力を与えた地球全体の平和維持軍としての機能が期待されるようになったからであり、本来の国連常備軍の役割を担わされることとなった。以前の活動圏は他惑星探査活動などの他は地球上空、地球−月空間が主であったが、これが内外惑星の開発が進み民間ベースでの地球外惑星への移動、移住が活発になった後も、平和維持の国連の義務はすべての人類の足許にあるということで、航空宇宙軍の活動範囲も拡大し、救難警備用の航宙船団の建造が計画され、実現されていった。
 また、内外惑星開発局の開発現場の先頭に立ったのは、航空宇宙軍の訓練をうけた惑星探査専門家たちであったという。とくに環境条件の厳しい外惑星探査においては、探査・開発調査の前線に向かうのはほとんどが航空宇宙軍の専門家たちであり、有人探査時代から有人基地設営までの探検開拓時代には夥しい人材が航空宇宙軍から失われたということである。

 以上、独断でもって『惑星開発局』誕生まで想像してみた。




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