<検証陸戦隊>

中野[肉屋]達郎


第2部 陸戦隊装備の問題点

第3章 進化の分かれ道

Act.0 銃は変化したか?

 銃というものは狙わなければ当たらない。これは固体弾、エネルギー弾(レーザー等)に関係なく必要である。ところで、アクエリアス海兵隊のように宇宙服装着時戦闘を中心とする部隊の場合、20世紀の銃のデザインでは照準を付けられない。当然何らかの工夫なり新設計なりが行なわれているだろう。その方法はピンからキリまであり、曵光弾や、レーザーサイトを使うといった20世紀の技術から、超小型目標自動識別式対人ミサイル(映画[未来警察]参照)のように少々非現実的なものまで考えられる。だが、エリヌス動乱時の海兵隊の装備としては、はたしてどのようなレベルの銃が配備しえるのだろうか?
 今回のレポートでは、航空宇宙軍陸戦隊の重要なターニングポイントとなったエリヌス動乱時の、アクエリアス海兵隊装備(機関短銃)について考察してみたい。

Act.1 主力装備決定の裏側には

 陸戦隊の持つ銃は、それが主力(標準)装備として配備されるのであれば適切な威力を持ってなければいけない事は第1章で述べた。また、その威力についての具体的な説明は前回の第2章で行なった。しかし今回の冒頭で述べたように照準の問題を考えてみると、様々なバリエーションが考えられ、簡単にはその実体がつかめない。特にエリヌス動乱時においては海兵隊の存在自体があやふやであり、この事に輪をかけている。銃器に興味の無い人にはどうでも良い事かもしれないし、言ってしまえば主力銃がどんな物であろうと大勢には変化がないだろう。しかし、航空宇宙軍史における戦略上の変化はアクエリアス海兵隊の装備に集約されていると言っても過言では無い面を持っている。
 戦争時や、(敵がはっきりしている)冷戦時には兵器が全くの新機軸に変わる事は別に珍しい事ではない。それは使用される状況が予想できるからだ。ならば膨大な時間や金が掛かっても新兵器の開発を行なってもおかしくはない。ところがエリヌスの動乱は第1次外惑星動乱から23年もたっており、その間、航空宇宙軍への主たる敵対組織はSPAであった。これに対抗するには正規軍戦よりゲリラ戦が中心となり、海兵隊よりは警務隊の管轄であろう。ならば海兵隊なんぞに膨大な開発費を掛けて新兵器を配備する必要はどこにも無く、その装備は航空宇宙軍の一般的な物が使われるのが妥当な筈である。しかし、エリヌス動乱時にはすでに外宇宙の敵の存在が知られていた。それどころか2075年頃オディセウス・0から最初の報告が入ってから、第1次外惑星動乱が始まる前の間には、すでに対外(宇宙)動員計画が完了していたことがヴェルナー大佐の口からはっきり述べられている。ならば海兵隊には本格的宇宙戦闘装備が配備されたのか? 必ずしもそうとは言い切れない。統合陸戦隊が発足されたのは2141年の事であり、エリヌス動乱からは18年も後である。また、実際に外宇宙の敵と戦闘に入るのは2200年前後となる事もヴェルナー大佐が明言している以上、2123年のエリヌス動乱時には陸戦隊装備の開発すら始まってなくても不思議ではない。では、<ゾディアック海兵隊>とはいったい何であったのか? 考えられるのは統合陸戦隊整備へ向けての<実験部隊>であろう。しかし、実験部隊と言ってもそのレベルは様々である。単に無重力戦闘や真空時戦闘のノウハウをつかむために手探りで研究をしている程度の部隊と言う事も考えられる。だが、エリヌス動乱が航空宇宙軍の手のひらの上で行なわれたと考え得る事実がある上、その時SPAに渡ったのが航空宇宙軍の<旧型>機関短銃であった事を考えればアクエリアス海兵隊には<新型>の装備、それも恐らくは無反動機関短銃が配備されたことは容易に想像できる。とすれば、ゾディアック海兵隊とは統合陸戦隊整備のための評価部隊として発足されたと考えられる。ならば、統合陸戦隊装備の最終試作品、あるいは量産試作品の実戦テストを行ない、なおかつ、海王星電波望遠鏡を初めとする外惑星戦略拠点を確立する一石二鳥の作戦としてエリヌス動乱を起こしたと考えるのは、あながち考え過ぎではあるまい。
 だから、アクエリアス海兵隊の装備が本格的宇宙戦闘対応レベルであれば、このことの裏付けとなるかも知れない。では、それを前提として新型機関短銃の実体を探ってみよう。

Act.2 分析・新鋭機関短銃

 銃の価値とは何か?それは敵の戦闘力を奪うことである。そのためには撃てば当たる物でなければならない。そのような銃ならば威嚇射撃ですら敵の戦闘力を奪うことも出来るが、当たらぬ銃ならば何万発撃たれても怖くはない。だから照準システムは大変に重要である。これには色々な方法があるが、固体弾発射の海兵隊装備として考えられる物を列記してみる。

  1. 照星、照門を使う(いわゆるオープンサイト)。
  2. 曳光弾を使う。
  3. ピストルスコープ・ダットサイト等の目から離して見るスコープ型サイトを使う。
  4. レーザーサイトを使う。
  5. 銃のデザインをヘルメット照準用にする。
  6. 銃とヘルメットをハードに連結してヘッドアップディスプレイに表示する。
  7. サイトの代わりにビデオカメラを使ってヘッドアップディスプレイに表示する。
  8. 兵士をサイボーグ化して自動照準出来るようにする(ほとんどロボコップ)。

 ……大体こんな所だが、Aはどのような銃にも補助的には付けられるので取りあえずは良しとしよう。Hは除外しても良さそうだ。G は2画面テレビみたいにうっとうしい上、ヘタをすると惑わされたり、視界に死角を作りそうなので除外した方が良いだろう。Fはコスト面、装備のサイズ、重量など様々な面で問題がありそうなのでこれも除外して良いだろう。そうなると残るのはA〜Eだが、基本的にはこの組合せで良いと思われる。ただ、その中でちょっと問題があるのがEの方法だ。
 海兵隊の戦場は、殆どが宇宙服着用が必要となる状況であろうが、全てが、ではない。例えばエリヌス動乱のようにコロニー内ではヘルメットを付けていると、音や視界を遮る恐れがある。また、軽快性(機動性)の上からも宇宙服は脱いだ方が都合がよいだろう。そんな時、銃のデザインがヘルメット着用時に合わせてある物だったら照準が付けにくくなってしまうのだ。わかりにくい人も多いと思うので、20世紀型デザインの銃(以下、従来銃と略す)での照準法を含めてちょっと説明してみよう。

照準方法
照準方法

 従来銃では照準をつける時には、まず銃を構え、目標の方向に銃を向け、<銃床にホホを当てる>。すると自然にオープンサイトやスコープ等の照準線上に視線が重なるので、改めて正確に狙いをつける。それから撃つのだが、もしも、銃のデザインがヘルメットを着用した状態に合わせてある物だと、この<ホホ付け>する部分が無くなってしまう事になる。これではピストルや銃床無しのサブマシンガンのように、素早く狙いを付けるにはかなりの熟練が必要となってしまう。言い換えれば従来銃のデザインはそれ自体が<最も原始的な自動照準システム>であり、安易にヘルメット着用に合わせたデザインに変えてしまうと、この自動照準システムをスポイルする事になり、思わぬ落とし穴にはまる恐れがあるのだ。もちろん、ゾディアック海兵隊を特殊部隊と位置づけるのならば、それでも良いのだが、統合陸戦隊の評価部隊と位置づけるのならば、これではちょっと都合が悪い。
 なぜなら統合陸戦隊ともなれば、最終的にはかなりの規模の組織となるであろう。その時、兵士はかなりの人数となり、全ての兵士を熟練兵ばかりで構成することは不可能だろう。なのに熟練兵にしか使いこなせない銃を使ったのでは評価部隊の意味がない。では、直接照準をしないで済むように曳光弾やレーザーサイトを使えば良いかと言えば、そうはいかない。まず曳光弾だが、これは撃たねば弾着がわからない。つまり、狙いをつける以前に撃たねばならぬ物を標準的な照準方法に使うのは問題があり、あくまでも補助的な方法に止めておくべきだろう。ではレーザーサイトはどうか? これの欠点は何と言っても自分の所在場所がバレる事であり、また、狙っていることが撃つ前から敵にわかってしまうので暴動制圧の場合にはかえって効果的かも知れないが、普通、戦争と言われるような戦いや狙撃には致命的である。かと言って赤外線レーザーを使っても基本的な解決にはならず、むしろ常時暗視ゴーグル等を付けねばならぬので、かえって不利であろう。加えて軍隊は集団戦が基本である。大勢が入り乱れてレーザーサイトを使ったら、どれが自分の照準かわからなくなってしまいかねない。
 ここまでの考察を見れば判って頂けると思うが、海兵隊装備としては、むしろ従来銃にレーザーサイトの組合せと言った(銃としては)ごく一般的な方法が適していると思える。
しかし、この方法を許さない決定的な記述が「エリヌス−戒厳令−」にあったのだ。

Act.3 機関短銃の理論と事実?

 まずはP131(新書版による、以下同様)の「………ひじから後方につき出した排ガス管が、無色の発射煙を吐き出し………」だ。従来銃のデザインでは銃床尾部は、ほぼ全面的に肩に当たるため、このような排ガス管を付けるのは困難である。また、それを解決できたとしても、別の問題が起こる。それはP413〜414の記述で、マルコーニ刑事がジャムナを狙ったときだ。ここでマルコーニは狙撃モードを使用した。その時、ジャムナは100mは離れた場所を走っていた。はっきり言って100m先の標的に命中させるのは大変である。なのに外す事は無いとマルコーニが判断していた以上は、撃つ前から正確に照準を付けられた証拠だろう。もしもマルコーニが持っていたのがSPAから奪った旧式銃なら、その形は多分、従来銃型だろうから、ヘルメット着用時には直接照準出来ないだろう。ならば狙撃モードとはレーザーサイトの事かも知れない。ただ、狙撃モードがレーザーサイトの事であれば銃を構え直す必要はなく、過熱銃身で宇宙服に穴を開けてしまうような事は無いだろう。と、すれば考えられるのは<ヘルメット着用時デザインの新式機関短銃>を改めて渡され、扱い慣れないゆえミスを犯したと言う事だろう。ならば、アクエリアス海兵隊の装備は、ヘルメット着用時デザインの新式機関短銃であると思われる。
 ここまで述べたことを改めて見直してみるとアクエリアス海兵隊の装備を推測する為の決定的な証拠は何一つ無く、あるのは矛盾だけのように思える。しかし、一つ見方を変えれば全て解決してしまう。それはヘルメット着用時と脱帽時の両方に対応するデザインを採用することだ。じつに単純である。ただ<言うは易し、行なうは難し>とはこの事で、実際は非常にデザインが困難であった。しかし、決して不可能なことでは無かった。

  1. 狙撃モード時は無反動システムが働かない(マズルブレーキは使える)。
  2. 排ガス管を伸縮式銃床の一部として利用する。

以上の2点を前提とすれば、ヘルメット着用時と脱帽時の両方に対応するデザインが可能だったのだ。細かなシステム等は銃に興味のない人にはどうでも良い事であろうし、このレポートの内容や紙面の都合からも今回は省略させていただきたい。(マル編さんや谷先生等からの要請があれば、いつでも喜んで(本当は載せたい)細かなシステム等のレポートを提出いたしますが……………病気、病気。)

Act.4 進化の別れ道

 ではアクエリアス海兵隊の新型機関短銃についてまとめてみると、次のようなシステムであると推定できる。

  1. 基本的にはヘルメット着用時に合わせたデザインである。
  2. 補助システムとしてではあるが、レーザーサイトは標準装備(可視光型)
  3. 狙撃モード時は直接照準が、ヘルメット着脱に関係なく出来るが無反動システムは使えない。
  4. ヘルメット脱帽時は、通常は狙撃モードで使う。
  5. 統合陸戦隊の標準装備、もしくはそれに近い試作品である。

 以上であるが、もしも第2次、3次の外惑星動乱が起こっていたり、あるいはエリヌス動乱以前に外宇宙の敵の新たな情報が入っていたりすればこの限りではないのだが、現在入手できる情報を分析すれば、前記のシステムを採用していると思ってまず間違いはない。
 だが、ここでそれを結論づける事は私には許されていない。なぜならば、進化の方向を決めるのは傍観者ではなく、あくまでも当事者だけなのだから………。




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