<検証陸戦隊>

中野[肉屋]達郎


第2部 陸戦隊装備の問題点

第2章 戦士の相棒たち

Act.0 多種多様な銃たち

 銃には実に様々な種類がある。ボウガン、火縄銃、ライフル類、ジャイロジェット(ロケット弾)、レーザー、レールガン、荷電粒子ビーム、材料試験に使う2段軽ガス銃なども銃のうちである。また、固体弾を燃焼ガスで撃ち出すもの一つとっても、金属薬莢を使う物(これですら代表的なものだけでセンターファイアとリムファイアの2種がある)、半・又は完全燃焼薬莢を使う物、液体燃料(炸薬?)を使う物があり、さらに弾体に至っては、そのまま撃ち出すもの、サボを使う物を始めとして数えきれないほどの(ちょっとオーバーかな?)種類があり、その説明だけでかなりの紙面を必要としてしまう。しかし『航空宇宙軍史』で登場する陸戦用の銃は殆どが固体弾使用の銃なので、今回のレポートでは、あえて[固体弾頭]を使う<機関短銃>に絞って考察してみたい。

Act.1 海兵隊主力装備

 アクエリアス海兵隊の主力装備は機関短銃と思われる。ところが20世紀の地球の軍隊では、一般的にアサルトライフルが主力装備となっている。これは戦闘距離や殺傷能力を考えれば当然といえるだろう。それにもかかわらずアクエリアス海兵隊の主力装備は機関短銃らしい。(もちろん汎用小銃、つまりアサルトライフルも装備してる。)一見、時代の流れに逆らっているようだが、無重力や低重力の戦闘が中心と思われる航空宇宙軍では妥当な選択であろう。ところが−エリヌス(戒厳令)−を読むと、ちょっと気になる記述があった。それはジャムナが腕を撃ち抜かれた所だが、明らかにかなりの小口径弾によるものとしか思えないからだ。
 航空宇宙軍の機関短銃と、現代で言うところの機関短銃(いわゆるサブマシンガン)が同じかどうかはわからないが、20世紀のサブマシンガンは拳銃弾を使用しているため、口径9〜11.4mmが標準的である。だが、これほどのサイズの弾頭が貫通したならば「たいしたダメージを与えられなかった」などとは言ってられないはずだろう。と、いうことは拳銃が小口径なのか、あるいは機関短銃とサブマシンガンは違う物なのか、どちらかということになる。もちろん、現代と百年後の世界では口径も威力も違っていても何ら不思議はない。また、百年後であっても拳銃弾を直接使うサブマシンガンはきっとどこかで使われているだろう。(特に第三者に被害を与えるのを避けたい警察にとっては低威力のサブマシンガンは都合がよいので。)でも、機関短銃に多用途性を持たせようとするならば違うものとした方が都合がよい。幸いなことに航空宇宙軍用機関短銃を考える上で、ベルギーで作られているFN・P90という銃がとても参考になりそうだ。
 まずは、このナゾの機関短銃の謎解きから始めさせてもらいたい。

Act.2 機関短銃

 FN・P90のことを簡単に説明しておこう。この銃は150m位までの戦闘距離で使うことを前提に設計された、後方支援部隊用の新兵器である。これは前回述べたM−16と同じくらいのサイズの弾頭を使うが、弾頭重量は半分程度の1.5g程でしかない。それゆえ、小口径ライフル弾の1/3程度の装薬で(軍用防弾チョッキを撃ち抜くに)充分な殺傷力を持たせることが出来たし、腔内圧力を拳銃弾並に低く押さえることが出来るので材料の強度を落とせる(つまり軽量化が出来る)と同時に反動を軽減できた。これはどちらも兵士にとって非常に有り難く、初めて使う場合でも扱いやすくなる条件と言えよう。もちろん、これだけ軽量な弾頭を使うのだから弾速低下は早く、有効射程距離はせいぜい150mくらいしかない。しかし、この銃は退役軍人や予備役軍人が前線への輸送中などに敵と遭遇した場合に使うことを前提としているため、それほど長い有効射程距離を必要としなかった。むしろ性能よりも、短い再訓練期間で戦闘支援活動を行なえるようにするための扱いやすさが求められ、その上でだんだんと一般化しつつある軍用防弾チョッキを撃ち抜けるだけの威力が求められた。(開発コンセプトは以上の通りだが、おもしろいのはコンセプトではなく実際に採用した設計の方で、特にその独特の弾倉と給弾方式には目を見張るものがある。これは言葉では説明しにくいので図を見て欲しい。)
 いかがだろう?このFN・P90の基本性能は航空宇宙軍用の機関短銃として、うってつけだと思えるのだが。有効射程が150mでは海兵隊の主力装備としては能力不足だと思う人もいるだろう。しかし、ここで思い出して欲しい。実際に海兵隊が行なう可能性のある”戦闘距離”を。

Act.3 戦闘条件

 アクエリアス海兵隊が戦うのは地球上ではない。これは納得して貰えるであろう。次に月はどうだろう?考えられなくはない。しかし第1次外惑星動乱時ならばともかく、それ以降は航空宇宙軍も、タナトス戦闘団の進入を許すというようなミスはもう繰り返さないであろう。となれば月も除外できるだろう。そして次に火星だが、同様の理由で一応除外しても良いだろう。もちろん考えられなくはないが、火星は”地球−月連合”の勢力圏内であり、火星鉄道一九が軌道爆撃されかけた経験を生かして防空体制を固めていると考えられるし、−エリヌス−でも火星の名は全然出てこなかった(位置が離れているためばかりではないと思う)事からしても、可能性は低い。
 以上の理由により、海兵隊が戦闘を行なうのは小惑星以遠か、真空、無重力の宇宙空間が主だと思われる。(少なくとも内宇宙艦隊の海兵隊は。)と、なればタイタンを除けば後は大気が有るところはコロニー(衛星都市を含む)内か、宇宙船内となる。つまり標準大気があって弾速低下は地球と同じ比率で起きようとも、弾道が伸びる(弾頭の自由落下が少ない)ために有効射程距離は地球上より伸びるだろう。たとえそのことを考慮から外しても、コロニー内では500mも離れて撃ち合えるほどの空間があるかどうか疑問である。たとえば巨大な円筒型スペースコロニーだが(だいぶ前の甲州画報で述べられたように思ったが)遠心力で疑似重力を得ているコロニー内ではコリオリ力などの影響を受けるため、固体弾なんかいくら撃っても当たらないと言えるほど、弾道変化を正確に予測するのが難しい。ゆえにAI照準システムを備えていないなら、かなりの近距離戦しか行なえないと思う。もっともAI照準システムを備えていてさえ遠距離射撃は難しいだろうが。
 「でも、海兵隊の機関短銃は宇宙船の外壁を撃ち抜くほどの威力があったぞ!」と思う人もいるだろう。(−エリヌス−のP131には、そのような記述がある。しかしこれは貨物船改造の宇宙船のことであって軍用の重装甲戦闘艦ではない。)確かに20世紀の一般的なサブマシンガン(短機関銃)であれば銃弾の初速も低く、威力も弱い。逆に言えば、(民間用とは言え)宇宙船の外壁を撃ち抜くほどの威力があるサブマシンガンならば、有効射程距離は150m程度では収まらないだろう。しかしFN・P90、及び(今考えてる)航空宇宙軍用最新型機関短銃は、弾頭の発射圧力こそ拳銃並だが、極端な軽量弾頭ゆえに銃身から出た瞬間の威力(銃口エネルギー)は一般の軍用小銃(アサルトライフル)に比肩できるほどである。FN・P90の有効射程とは、あくまで1Gの標準大気圧内で軍用防弾チョッキを撃ち抜けなくなるまでの距離を指すものである。さらに、弾頭に鉄が含まれている徹甲弾ならば、近距離で民間宇宙船の外壁を撃ち抜くことくらい造作もないことであろう。(技術が進歩すれば硬質プラスティック弾頭ということも考えられる。)ゆえに、FN・P90に準じた設計の機関短銃を海兵隊は装備したと考えても問題はないと思われる。ただ、低重力や無重力での戦闘が主である以上、無反動化は必要であろう。

Act4.無反動モード

 無反動モードとはなにか?これは様々な方法で反動を打ち消すための物だが、自動小銃では、完全な無反動には決して出来ないものだ。単発のライフルや大砲、ロケット兵器は割合簡単に無反動化できる。しかし、発射ガスの圧力や反動を利用して連続発射を行なう自動小銃は、反動を全て消してしまうと、肝心の連続発射のための動力が何も無くなってしまう。また、炸薬に点火された瞬間からボルト(銃身内部を閉鎖する部品)が動いたら発射ガスの圧力が保てず、ヘタをすると弾頭を発射できなくなる恐れがある。それゆえ、弾頭がある程度加速されるまでは発射ガスを抜くわけには行かないだろう。この間の反動は消しきれないはずだと思う。そうかといってたかが歩兵用ライフルに電動や油圧のシステムを組み込むのは重量的な問題と、信頼性を高めるために可能な限りシンプル化するという兵器の基本思想からすればちょっと避けたい事である。それゆえ無反動モードとは、正確に言えば軽反動モードのことであると思われる。
 銃を無反動化するにはいくつかの方法がある。まずは発射した弾頭と同じ重量のものを反対方向に同じ速度で撃ち出す方法。これは一番確実だが一番非現実的な方法でもある。次に大量の発射ガスをチューブ等で真後ろに噴出して反動を打ち消す方法、これは設計が大変に難しいが一番有望なシステムであり、なにより−エリヌス−にはっきりと記述されているやり方である。私はこのシステムを航空宇宙軍用機関短銃に採用したい。ついでに言うなら、銃身に磁石を仕込み、電気が通るようにしてレールガンを兼ねてしまえば、発射ガスを逃がして失ったエネルギーを補うことも出来る。レールガン自体は反動を打ち消すもの(発射ガスなど)を何も生まないので無反動化は不可能になるが、通常はただの無反動銃として使い、背もたれ等が有って反動を支えられる上に、有効射程距離や威力が必要な状況の時だけバッテリーパック等を装着して弾速(つまり威力)を増す事が出来る。このシステムはあくまで補助システムなので宇宙船外などの完全無重力状態での戦闘や、機動性が重視される状況(例えば室内での白兵戦など)では、レールガンを使わない、あるいはバッテリーパックを持たなければ良いだけのことだし、レールガンが故障しても無反動銃そのものの機能には関係なく、大きな問題とはならないので是非とも装備したい。もしかしたら狙撃モードとは、このレールガンを使うモードの事かも知れない。ただし、エリヌスを襲撃したSPAの部隊が持っていた機関短銃は一般的(?)なマズルブレーキタイプを使用していたと思う。
 マズルブレーキとは銃口部分に付いた発射ガス拡散のための部品で、通常は銃口の跳ね上がる方向に発射ガスが吹き出すように穴や溝を切ってある。これにより反動を軽減できるのだが、その能力は当然低い。しかし、仕組みが大変に簡単であるので多くの軍用自動小銃に採用されている。これを発展させて能力を高めたものが汎用小銃の無反動システム(正確には軽反動システム)だろう。これは機関短銃から拳銃まで、多くの歩兵用兵器に採用されたであろう。しかし、アクエリアス海兵隊には最新型の本格的な無反動機関短銃が採用されたとすれば、{後方に伸びたガス・チューブから噴射・・・}といった記述が生きてくる。また、御用済みになった旧型機関短銃がSPAの手に渡ることは充分に考えられる。実際に、エリヌスでSPAが使ったのは航空宇宙軍の旧型機関短銃だった(闇で流れた軍放出品?)。これは歴史の皮肉と言うべきか、それとも、何もかも航空宇宙軍の手のひらの上で行なわれた出来事の象徴と言うべきだろうか・・・・・。

Act.5 機関短銃の部品の素材

 宇宙空間は地球上とは比べ物にならないくらい条件が過酷である。それゆえ地球仕様の銃はそのままでは使えない。まず温度だが、地球上ではせいぜい−40度から+50度の範囲で作動すれば事足りるであろう。しかし、アクエリアス海兵隊が戦うと思われる戦場では、極低温から相当な高温までの広い範囲で確実な作動が要求される。それに対応するためには温度変形の少ない(できれば変形のない)素材を使わねばならない。有望なのはセラミックだろう。これは温度による変形が非常に少ない。確かに脆いという欠点はあるが、百年後であればかなり改良が進んでいるだろうから、銃身、機関部はセラミック製であると決めつけてしまおう。しかし、レシーバー(フレーム、つまり本体のこと)は人体に直接触れる部分でもあるので耐熱プラスティック製としよう。内部部品もスプリングに至るまでプラスティック製とし、金属は一切使わない。そうすれば軽量化の点でも有利になる。耐熱性、耐久性はかなり進歩しているだろうから問題ないものとする。原料は多分バイオテクノロジーの進歩により微生物から取れるだろう。薬莢は完全燃焼タイプとし、電気発火炸薬(プラスチック爆弾に近いもの)とすれば高温環境下でも自然発火しない。(あ、いかん、電気発火なら金属部品が要るか。いいや!これも導電製プラスティックを使うことにしてしまえ。ついでに銃身には導電製セラミックが使われていてレールガンを兼ねていると決めよう。)温度のほかにも、電磁波的な影響も地球上より過酷だろうが、セラミックやプラスティックなら金属よりは悪影響を受けにくいと思う。銃身等の放熱も大きな問題だが、セラミックは耐熱性に関しては問題はない。しかし過熱した銃身の放熱は幅射に頼るしかないので注意が必要である。一つ付け加えたいが、海兵隊の機関短銃はライフル・グレネードを撃てる物にしたいので銃把から銃身が突き出ている形状になる。(−エリヌス− P413〜414に記述されているが、マルコーニ刑事はこの銃身の突き出ている部分に触れたと思われる。)
 さて、閉鎖空間では特に問題となるのが跳弾なのだが、これを解決するには弾頭の素材や構造を工夫すればよいのだが、一つ厄介な問題がある。それは戦争規定だ。なぜなら、20世紀の戦争規定ではダムダム弾に相当する命中後に変形する軟弾頭の使用を認めてはいないからだ。百年後には改定されていればよいのだが、さもないと跳弾するとわかっていても、硬弾頭の弾丸に使用しなければならない。(警察は第三者が巻き添えになるのを防ぐために、むしろ逆に必要以外の場合は硬弾頭の使用は制限されるだろう。)戦争規定に関しては陸戦隊の検証だけでは論じ切れないので、失礼だが保留させてもらいたい。




●航空宇宙軍研究編へ戻る