<検証陸戦隊>

中野[肉屋]達郎


第2部 陸戦隊装備の問題点

第1章 主力装備の条件

Act.0 序章

 兵器には実に様々なものがある。遠くから多くの敵を倒せるものや、近づかねば使えない代わりに音も熱も出さないもの、そうかと思えば使うことより存在そのものに意味がある抑止兵器もあるし、血を流さずとも混乱や破壊をもたらすコンピューターウィルスまで、数え上げればキリがない。だが、歩兵の主力装備たりえる兵器には常に適切な能力が求められ、それは当然の事ながら能力不足は許されないが、過剰能力であってもいけない。例えばICBM(

Act.1 新型ライフル M−16

 ベトナム戦争は、その多くがジャングル戦であった。そこではシベリアを一気に走破出来る最新型戦車も、500m先の敵を確実に仕留められる大口径ライフルも、あまり効果をあげなかった。生い茂った木々は機械力の侵入を阻み、視界を遮った。そのため歩兵だけでしか戦えないことも多く、時にはわずか数メートルの銃撃戦が行なわれることもあった。そのような状況においてはじっくりと狙いをつけるよりも、見つけたらすぐに弾を叩き込むことが重要であり、一瞬の遅れは命取りになりかねなかった。そのためには長大な射程距離や高度な狙撃性能よりも、携行弾数や、( 反動などの )扱いやすさが何よりも大切であった。ところがそれまでアメリカ軍が装備していたライフルはM−1や、M−14などの7.62 mm口径のライフルだった。これは歩兵用としては大口径であり、汎用性に優れていた。しかしベトナムではそれが裏目に出て、至近距離戦闘では反動が強すぎた上に、兵士一人当たりの携行弾数はせいぜい170発程度であった。この程度の携行弾数では1〜2回の戦闘で、ヘタをすると1回の戦闘が終らぬうちに弾が尽きてしまう。そのうえジャングル戦では武器弾薬の補給がなかなか出来ない。さすがに 『.30口径は万能口径』を金科玉条としていたアメリカ軍も、これを改めざるを得なかった。そうして登場したのが口径5.56 mmの新型アサルトライフル、M−16であった。M−16は威力、性能、そして心配された兵士との相性( 実はこれが重要で、兵士が扱いにくい銃は、いくら性能がよくても良い結果は得られない )も、新機軸を多くとりいれた兵器にしては意外に早く克服された。だが、何よりもM−16が受け入れられた最大の理由は、その小口径化から来るものだった。

Act.2 ベトナムが生んだ新機軸

 先に述べたように、M−16ライフルは口径 5.56 mmと、従来のライフルの約2/3の直径しかない小さな弾を使っており、その弾頭重量は 7.62 mm弾の 150gr( グレインと読む:150grは約 9 .7 g )に対し、僅かに 55gr( 約 3 .6 g )しか無かった。これを単純に考えれば威力が約1/3に減ってしまい、とても使い物にならないのでは?と思うだろう。事実、初期にはそのようなイメージから来る無能論もあった。しかし実際には従来の大口径( 中口径? )弾と同等の威力がありヘタをするとかえって性能が良くなる状況もあった。たった 3 .6 g しか無い弾で、どうやって3倍近い重さの弾と同等以上の効果を得たのだろう?それは弾の高速化であった。知ってのとおり、物体の運動エネルギーは質量に比例する。しかし、速度にはその2乗に比例する。そして質量の小さい物質ほど、より小さいエネルギーで早く移動させられる。また、作用させる物質に与えるエネルギーが小さいほど反作用も小さくなる。これを具体的にM−16に当てはめると「軽い弾を割合少ない装薬で発射するため、威力は従来型の 7.62mm 口径( .30 口径 )と同等だが、反動は少なくなる」となる。さらに用兵面からの言い方をすると「M−16は小さくて軽い弾が使える上に扱いやすい銃だ」という事になるだろう。もう少し具体的な数字を出せば、M−16になってから携行弾数は500発すら可能になった。これは現代主流の30連弾倉でも約17個、20連弾倉では25個にもなり、数回の戦闘でも充分持ちこたえられる数である。突然の遭遇戦も多く、補給も利きにくいベトナムでは、これは正にうってつけの銃であった。そんなM−16にも欠点がないわけではない。否、視点を変えれば重大な問題があったのだ。

Act.3 採用されなかった一発の銃弾

 世の中、戦場はベトナムだけに存在するわけではない。陽炎揺らめく砂漠もあれば、空気が薄くて視界が利く山岳もある。そうかと思うと市街地もあり、また、どこまでも続く大平原が戦場になることもある。むしろベトナムのようなジャングルは少ないかもしれない。なのにベトナムで最適であったからといって、世界中どこでも最適と考えるのは明らかな間違いであろう。事実、M−16に採用された弾丸の M-193( 5.56×45 )はNATO( 北大西洋条約機構軍 )には採用されなかった。代わりにNATOが採用したのはベルギーのFN社( ファブリック・ナショナル社 )が開発したSS-109という弾丸であった。これはアメリカのM−193弾とサイズは同じなのだが、弾頭重量が 62gr( 約4 .3 g )と、M-193の55gr(約3.6g)よりも重く、そのためSS-109弾はM−16には使うことが出来なかった。専門的になり過ぎるので詳しい説明は省くが、SS-109弾を使用するためには450万丁以上生産されたM−16ライフルの全ての銃身を交換する必要があり、とてもそれは出来ない相談であった。そのためNATOは同盟のアメリカと、サイズが同じでありながら基本的には共用出来ない弾を制式化することとなった。同盟国間で弾薬が共用出来ないと言う無理を承知で、なぜNATOはSS-109弾を採用したのだろう? それは軽量弾頭は遠距離における威力低下が著しいためである。
 ヨーロッパにおける戦場とは機械力が充分に行使できる状況のほうが多く、必然的に戦闘距離は長くなる。ところが、近距離においては大口径ライフルより性能の高かったM−16も、機械化戦闘が行なえるような戦場では距離が開き過ぎてしまい、充分な威力が発揮できなかった。なぜなら小口径弾は、その威力の多くを弾頭の速度に頼っており、距離が開けば弾頭の速度は落ちる。弾頭の速度が落ちれば、威力が急激に低下するのは物理の法則に従う限りは仕方のないことである。( このへんは機動爆雷にも通じる所があるが…… )そのために、ヨーロッパでも通用する小口径弾には、より重い弾頭を採用する必要があった。たとえ同盟国間で弾丸が共用できない危険を犯すことになろうとも、戦場で使えない弾薬を装備するよりはよっぽどマシであろう。

Act.4 主力装備の条件

 以上がM−16、及びその使用弾丸のM-193のあらましだが、もし仮にM-193弾が初めからSS-109弾のように62grくらいの弾頭を使用していれば、このような問題は起こらなかっただろう。だが、実はここに主力装備の条件を考えるうえでの大きなポイントがあるのだ。では、ここで少し問題を整理してみよう。
 なぜ、M-193弾はヨーロッパで制式化されなかったのか?――――それは想定される戦場では威力不足だからである。………そう、威力、それこそが主力装備に求められる最大の条件であり、それはムダに大きすぎても必要以下に小さすぎてもいけないのだ。ところでこの威力を考えるうえで大きな要因になるのが“ 戦闘距離 ”なのだ。M−16の例を見れば、ジャングル戦や市街戦のような比較的近距離の戦闘であれば絶大な威力を発揮した。だが、機械化戦が主となる広大な戦場では威力不足となった。しかし更に戦闘距離が広がり、一千〜二千mになれば、どのような小口径ライフルでも対応できず、これが5000〜1万mともなれば、もはやライフルでは対処できない。そして、百km〜千kmまで広がれば、レーザーやミサイルの出番となる。ところが宇宙空間では、戦闘距離は数万km〜数百万kmになることもあり、そうなるともうレーザーであっても、たかだかフリゲート艦クラスのちっぽけな目標に当てるのは難しく、いよいよ機動爆雷のお出ましとなる。
 このように、戦闘距離は主力装備を考えるうえで非常に大きな要因となり、無重力や真空といった要素と同じくらいに影響は大きい。これは瞬間物質移送機( ワープ光線 )の様な、従来の理論を根本から覆すモノが登場しないかぎりは変わらない。忘れてはいけないのが、兵器の威力を考察するうえで相手の防御力の検討を抜かして論ずる事は許されない。それが主力装備を決めるときであればなおさらである。しかし軽量弾が重量弾になる事はあっても、いきなり核兵器に取って変わられることはないだろう。攻撃兵器の進歩も、防御兵器の進歩も、そんなにいきなり起きるものではないのだから……………。

Act.5 エピローグ

 本当は書き足りないことが色々あります。防弾装備のことや、弾頭構造のこと、銃身のライフリング・ピッチのこともあれば、ウェポン・システムのことも書きたかったのですが、それは又の機会に書かせていただきたいと思います。
 さて、次回は陸戦隊の主力装備たるライフル類について検証してみましょう。

銃の構造




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