<検証陸戦隊>

中野[肉屋]達郎


第1部 陸戦隊統合の示すもの

 航空宇宙軍において陸戦隊の正式発足は非常に遅かった。外惑星動乱においてアナンケ占領、そして月面工場爆破と二度にわたり手痛い打撃を受けておきながら41年後の発足は異常ともいうべき遅さだろう。
 それにもかかわらず、正式に統合陸戦隊が編成されたのはいったいなぜなのだろう?
 それはこの時期に航空宇宙軍の戦略が大きく変換されたことを意味するのである。具体的に言えば、仮想敵がSPAから汎銀河人に正式に変更されたのであろう。多分、この頃には外惑星も内惑星も太陽系連邦として統合されているはずである。なぜ、たかが陸戦隊の存在がそこまで大きな状況変化の理由になり得るのか? それは陸戦隊、いや歩兵部隊の存在は戦争の根源に関わるからである。
 外惑星動乱は、その性質から言うと、『戦争』というよりは『暴動』に近い。別に外惑星側が悪者と言うのではなく、戦いの本質が一国内の『内輪もめ』と似ており、鎮圧するのに必ずしも『火力』を必要とはしなかった。たとえて言えば、アメリカでもソ連でも良いが暴動が起こったとする。その時、戦車や戦闘ヘリが出動したらどうなるか? 一発も撃たずに(つまり『火力』を使わずに)終る事も充分に考えられる。航空宇宙軍アナンケ奪回作戦はまさにこのパターンだった。しかし、ワシントンにソ連が、モスクワにアメリカ軍が侵略を行なったらどうなるだろう? どちらかが敗北するまで絶対に戦闘が(つまり『火力』の行使が)行なわれるだろう。これは正に『戦争』である。ところがこの『戦争』において、歩兵の存在は決定的に重要な意味を持つ。例えば無敵の戦車に進入され、制空権は握られ、補給線を完全に断たれようとも、歩兵のいない<敵>勢力は占領地とはならないのだ。なぜなら戦車は相手を蹂躪はできても、統治することは不可能だからだ。これはガンダムやパトレーバーみたいな人型兵器があっても同じ事で、それが生身であれパワードスーツであれ歩兵の存在無しには戦争は決して終結することは無い。(完全な絶滅は別だが)その『歩兵部隊』を航空宇宙軍が正式に編成したとなると、これはいよいよ汎銀河人との戦争が始ったとみるべきだろう。何となれば外惑星に対しては独立して編成させるほどの陸戦兵力が必要だとは思えないのだから(ウーン、作者に無断で決め付けているが、いいのかな〜? メカや兵器と違って今後の展開(作品)に関わる部分だけに心配だ)。




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