ジャカルタからの手紙11

川崎[漁師]博之

 突然このような手紙をお送りして申し訳ありません。いつも甲州画報に載せられている文章、楽しく拝見させていただいてます。今回、昨年10月発行の甲州画報41号に書かれた『無敵艦隊ゾディアック』についてお便りいたします。
 原稿の冒頭で、『ゾディアック級と言うからには、ネームシップのゾディアック級フリゲート艦ゾディアックが存在するはずである。もしそうならばゾディアック級フリゲート艦は13隻なければおかしいのではないだろうか?』ということなんですが、英語の辞書からの意味しか知らないのですが、このゾディアックというのは、見かけ上の太陽が天球を一年間で一周する経路 = 地球の公転軌道(黄道)を中心とする冥王星を除く惑星の経路を含む天球の想像上の帯で、『黄道帯』あるいはその帯中に標識される星座に動物が多く使われていることから『獣帯』とも呼ばれているそうです。ゾディアック = 黄道帯に12星座があり占星術では黄道12宮と呼んで各月の太陽の位置を示しているようです。その SIGNS OF THE ZODIAC(黄道12宮)は次の ようです。

1  Aries  (the Ram)  21 Mar.
2  Taurus  (the Bull)  21 Apr.
3  Gemini  (the Twins)  21 May.
4  Cancer  (the Crab)  21 Jun.
5  Leo  (the Lion)  21 Jul.
6  Virgo  (the Virgin)  20/23 Aug.
7  Libra  (the Scales)  23 Sept.
8  Scorpio  (the Scorpion)  23 Oct.
9  Sagittarius  (the Archer)  22 Nov.
10  Capricorn  (the Goat)  21 Dec.
11  Aquarius  (the Water Carrier)  21 Jan.
12  Pisces  (the Fishes)  20 Feb.

 これはオックスフォード英英辞書を書き写しただけですが、他の辞書には月の日付が違ってたり表記も少し違っていたりしているものもあります。また、チャイニーズ・ホロスコープの占い本などには、今年のアニマル・ゾディアックは猿年だと書かれたりして、ようするに『干支』のことを言っているんですが、そうすると Animal Zodiac = 獣帯ちゅうのは黄道12宮のことではないのか、どうもこのへんがよくわかりません。東洋と西洋の占星術の違いなんでしょうか、それとも占星術の上ではこの黄道12宮と『干支』と関連しているのでしょうか(だからと言って、『えと』級駆逐艦『ねずみ丸』とか『兎丸』とかちゅうのはどうも……。しまらんですね)。
 結局、ゾディアックということについては中途半端にしかわからないのですが、12の星座で標識される黄道帯を言うようですから、ゾディアックという星座があるわけではないようです。
 ですから航空宇宙軍の航宙艦隊のうちゾディアック級フリゲート艦が建造された際、ネームシップとしてのゾディアックの建造が計画されていたのではなく、12隻の同型フリゲート艦を建造するという計画が初めにあり、そのシリーズを命名するのにゾディアックの星座名を当てはめたというのではいかがでしょうか。
 そう考えると、12隻の同型フリゲート艦を擁するというのは、林さんが書かれているように強力な戦闘能力を持つということになるでしょうし、外惑星動乱当初から戦力的に相当優位であった航空宇宙軍が圧倒的な軍事力を整えてしまうわけで、これは単に動乱終結のための軍備ではなく当然『その後』に向けてのものであったのでしょう。
 12隻を建造する計画であったとすると、相手の兵力の何倍、何十倍もの兵力で圧倒する正規の(?)戦術的意味であったのでしょうが、林さんが見積もられた一隻2千億円もする戦闘艦を12隻建造するとなると諸々の経費を含めると相当な予算措置が必要になったでしょうし、他の航宙艦群も建造しそれができたというのは地球上でかなり航空宇宙軍が権力を握ってしまった証明であるようにも思えます。実質的には動乱時には6隻が就航していただけのようですが、それを一年間のうちにやってのけてしまったというのは、予算のこともそうですが、建造させえたという産業構造や地球の政治体制なども戦時体制に作り変えられてしまっていたのでしょうか。 例えば、日本の防衛関係予算は年間4兆2千億円程度だと思いますが、ゾディアック級12隻の単なる建造コストだけで日本の防衛関係予算の半分以上費やすことになります。また戦費となりますと、先の湾岸戦争で米国側の負担額が475億ドル、日本を含む諸外国が535億ドル。補正予算も含めばもっと多くなるでしょうが約1000億ドルがこの戦争のために費やされた(100%徴収され使いきったかどうか知りませんが)ことになったようです。日本円に換算すると約13兆5千億円!。日本の一般会計予算が約67兆円弱だとおもいますが、国家予算の約20%が戦争に使われたことになるのです。ゾディアック級建造費と比較すると約67隻分にあたります。
 外惑星動乱時の戦費はどれくらいになったのでしょうか。兵器とかの機材も高価なものでしょうが、宇宙空間での戦いということで運営費というか、その行動すること自体にえらく費用がかかるでしょうから、湾岸戦争の戦費など微々たるものになってしまっているかも知れません。
 動乱時には、戦費を注ぎ込んだのと経済封鎖のために外惑星諸国の人々は日常生活が圧迫されていたようですが、地球の人達は平気だったのでしょうか。
 戦争遂行のために直接的に人々の生活を圧迫していなかったのなら、地球側の生産力というか、かなり余裕があったことになります。重水素の禁輸が行なわれても生産力を落とすことなく、産業活動の制限もなく、増税もなく、人々の暮しも変わりなくおこなわれていたとしたら、いったい誰が何のためにおこなった戦争だったのか人々は問うでしょうか。単にどこか遠いところの出来事で終ってしまうのでしょうか。
 逆に、産業活動が軍事産業に偏り、増税がおこなわれるなど人々の日常生活に戦争の影が落ちていたら、人々はどういった行動を起こしたでしょうか。戦争反対のデモ、首脳部の退陣要求デモ、権力の主導権争い、反対派過激派によるテロ活動の活発化、それらへの弾圧がおこなわれたでしょうか。そうした戦争反対の行動を通して、外惑星諸国の人々の置かれた立場をわかりあえるようになったでしょうか。あるいは、一方では外惑星諸国に対する新たな偏見や憎しみが芽生えたでしょうか。

 とまあ相変らずしょうもないことを書いてしまいました。
 航宙艦の級名についてはオフィユキ級とかの記述もありますし、どこかで(甲州監督の作品ではないかもしれませんが)ジェミニ級というのがあったような気がして、オフィユキの意味を知らないし、もしジェミニ級が航空宇宙軍史にでていたらゾディアックのなかの星座が級数になっていることになり、じゃあゾディアック級ちゅうのは何かと最初の話しに戻ってしまいます。
 こうした事が確かめられないのと、甲州監督が『こうしゅうでんわ』するかも知れないと思ったもので私信で林さんに出そうとも考えましたが、こんな訳のわからん手紙をもらった林さんが迷惑するだけのような気がしたんで、こんな投稿になりました。
 『こうしゅうえいせい』なんかに『航宙艦名簿』(航空宇宙軍/外惑星連合)みたいなのがあるとこんな時に便利だと思うのですが。名付けの傾向と対策がわかり、みんな勝手に外宇宙航宙艦の名前まで甲州さんより先につけてしまうかもしれませんが。みんなで予想投票したりして。

 わけのわからない内容で申し訳ありません。
 いつも論理的で説得力のある林さんの文章を楽しみにし、また感心させられてます。今後とも唸らせる文章を読ませてください。

 それでは1992年がよい年でありますように。                 

敬具



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