さて、今回あたりから航空宇宙軍史とは直接関係無い設定実験に入っていきます。しかも、決して『ちょー』な技術じゃないんですが、あれこれ考え合わせると、航空宇宙軍史にはちょっと使い難いかな、というアイデアが多いのです。だけど面白かったら許して下さい。つまんなかったら……うう……批難して下さい。
で、今回は今までにもちょっと触れた、『氷機械』……水を主素材とする機械についてです。
このアイデアの基盤になるのは、木星系における環境温度の低さです。
もちろん、『環境温度』といっても、木星系の『野外』作業を考える時、地球上の野外作業と同等には考えられません。つまり、木星系の衛星は大気が皆無か極めて薄いため、真空中にじゅんじる環境を想定しなければなりません。とすると、地球上のような大気との熱交換はありませんから、環境温度の影響は、
☆接触している物体(衛星地表や作業で扱う物体等)
☆太陽光
に限られます。地球上といっても大気圏内でない、軌道上作業を想定した方がより近いイメージが得られるでしょう。
とはいえ、地球近傍の大気圏外と違うのは、太陽光のエネルギーが遥かに少なく、その影響をごく僅かなものと想定でいることです。木星圏では単位面積あたりの太陽エネルギーがおよそ地球の27分の1になります。この条件下における黒体温度は105K(マイナス173℃)です(実際の木星本星の表面温度は123Kですが)。つまり、木星圏で作業をする場合、これくらいの温度の物体を扱うことが多くなると考えられます。また、屋外に『放置』しておくなら、これくらいの温度になっていくと考えられます。
もし、マイナス150度前後の状態でさ度する機械を想定するなら、その機械の素材は従来とまったく異なる発想が必要でしょう。あらゆる潤滑油は凍りついてしまいます。この温度で液状をたもつ有機物質が存在するでしょうか?いっそ液体窒素を潤滑剤に使うべきかもしれません。メンテナンスは気密服ごしでも難しいでしょう。金属もセラミックもこの温度ではたいへん脆くなります。
だとすれば、いっそ H2Oを素材に使えばよいのではないか?というわけです。
氷は塑性に比較的乏しい素材ですが、FRPや鉄筋コンクリート式に骨格を作ってやることで、ある程度は補えるのではないでしょうか。
氷を主素材とする場合、有利な条件がたくさんあります。まず、氷はガリレオ衛星に豊富です。また人類が通常使用してきた素材に比べれて融点がずっと低いということは、《鋳造》に必要なエネルギーが僅かですむということで、それは書こうが極めて容易だということでもあります。
まるきり良いことづくめのことを書いてきましたが……重大な欠点があります。
それは融点の低さです。
マイナス150度前後の環境で働くのにどうしてそれが重大な欠陥になるのか不思議に思われる方もいらっしゃるでしょうが、忘れていけないのは、機械は自分自身が最大の熱源体であることです。
どんな効率のよいエンジンやバッテリーであっても、必ず余剰熱が発生します。また、作動関節部には必ず摩擦熱が発生します。まして核融合エンジンなんぞを使ってたり高熱のガスやプラズマを噴射して移動したりするのなら……氷で主要部分をつくることはちょっとコワいですよね。氷は大変断熱の良い素材ですが、それだけで対処できるかどうかはちょっと疑問です。
とはいえ、発生余剰熱を効率的に棄て、機械を一定温度にたもつことは、どんな素材が使用されるにせよ重要です。精密な機械ほど、大きな熱勾配を嫌います。温度によってどんな物体も膨脹・収縮するからです。とすれば、氷を素材として使おうが使うまいが、この問題は所詮、『程度』の問題といえるかもしれません。
つまり使いかっての良さと生産コストとの『兼合い』になるのではないでしょうか。
筆者は、木星圏における素材の豊富さや加工の容易さから、コスト安という決定的要因をもつため、現実の木星開発では、氷機械はいずれ必ず実用化されるものと信じております。ただ、航空宇宙軍では、どうでしょうね…運動能力をほとんど持たない『冷たい』機雷になら使える、かな?他には思いつかない…