谷甲州は無謬である
−従軍魔法使いは間違っていた−

岩瀬[従軍魔法使い]史明

 慧眼な読者諸兄諸姉は既にお気づきのことと思いますが、先月のわたしの記事には重大な間違いがありました。申し訳ありませんでした。
 今月の記事は、間違いを指摘して下さった林[艦政本部開発部長]隊員とのメールの応答を掲載させていただくことで、間違っていた点を訂正させていただく……予定だったのですが、紙面の組立の勘違いを入稿ぎりぎりになってようやく気付いたので一頁以上削らなくてはならなくなりました。今月は間違っていた部分の結論のみかかせていただきます。

 要するに、『間違い』なのは木星からの脱出速度を無視してしまった点です。
 木星本星からの脱出速度は、各衛星の軌道速度×2の平方根……となるので、木星の重力から逃れるために必要な速度増分は必ず木星に近付くほど大きくなります。従ってエネルギー・コストはやはり内側ほど大きくなります。
 結局、エウロパ・エクスプレスは文字通り幻だったわけです。

 と言い切っていいかどうかというと、それもまずいかもしれないのですが。
 というのは、エネルギー源たる重水素を現地調達できるので、輸送トンあたりの理論的エネルギーコストが実際にどれくらいコストに対する割合を占めるかというと、けっこう低いかもしれないわけです。ただ、航空宇宙軍史の計画経済的開発設定からすると、理論値の通りに開発計画をたてて遂行していくという姿はごく自然なように思われます。
 また、木星大気からの汲み上げについては、これも射ち出しに必要なエネルギーは木星本星からの脱出に必要なエネルギーが大変大きいことになりますから、エネルギー的には不利です。ただ、重水素コンテナを分離したあと減った運動量を回復するための加速は木星大気内でもよいので、推進剤に木星大気そのものをつかえるわけで、その点電磁カタパルトなみ(あるいはそれ以上)の効率は得られると思われます。初期投資は電磁カタパルトに比べて少なくすみそうですし、軌道設定や速度設定の自由度は極めて高いですから、ベンチャービジネス的な軌道プラントはやはり充分ありえるように思います。
 なにせ電磁環境の大変悪い所ですから、多少違法行為があっても航空宇宙軍査察隊も苦労するのではないでしょうか。実は海賊まがいのこともやってたりして。
 もしそういう軌道プラントが存在すれば、SPAの残党が潜伏場所に選びたがるのではないでしょうか。とーぜんタナトスの面々もいた……かもしれない……と思うのですが、いかがでしょう……

別れても好きな人ヴァレリア&レティ

 

今月の結語
『谷甲州は今月も無謬だった。しかし従軍魔法使いは有謬である。えっへん(をひをひ……)



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