ジャカルタからの手紙7

川崎[漁師]博之

 今年の日本の梅雨はいかがですか? このところ、どこもかしこも異常気象とはいわないまでも例年通りとは言えないようで、ジャカルタにしても例年ならばすでに乾期に入っている5月にも結構雨の降る日が続きました。

 先日、5月27日から6月4日までホノルルに行ってきました。第17回太平洋科学会議に参加するというユネスコでの出張だったのですが、ジャカルタ事務所の上司達とも一緒だったということもあり、ワイキキの浜辺で可愛い女のことお知り合いになれる機会もなく、怪しげなアメリカ人のおっさん(ホモとちゃうか)に声掛けられたぐらいで、何となくもの寂しいお仕事の毎日ではありました。会議に参加するといっても、私の場合何かを発表する訳ではなく、毎日20程行われるセッションのいくつかに、上司達との毎朝のミーティングによってこれとあれに顔出して話聞いてこいというやつでして、気楽と言えば気楽、おもろないと言えばおもろない出張でした。
 そこで、Dr.前野[いろもの物理学者]さんばりに、『レポート:ホノルルで出会ったいろもの学者達』ちゅうのを報告しようと思いましたが、いかんせんそこまでの理解力、英語力が無い。どこまでいろもの度があるのかちゅうのを聞き取る以前の問題でした。まあ中には受けてた″u演もありましたが、これはドイツからの特別参加の学者さんで題は「木に学ぶ」というやつでして、植物の生存システムに対して人間のそれは空間的、効率的に無駄が多すぎてなんちゃらかんちゃら、木のその生命システム及び寿命の長さはどうで、宇宙にでていくにはどうたらこうたらと、とにかく笑いはとってましたから、ひょっとしたら結構いろものっぽかったのかもしれません。
 日本の学者さんたちもかなり参加されてまして、驚いたことに私が10年前に大学の卒研やった時に(ちなみに内容は、ベラ類の性転換と生殖腺変化の研究でした)引用させていただいた参考文献を著された某教授があるセッションで講演されてまいした。ひぇー奇遇じゃねぇーと(むこうはそんなこと思うはずもないでしょうが)期待して講演を聞いたのですが、その内容が卒研時の参考文献の内容と同じ。いまさらそれはないんじゃないと、少々憤ってしまった勝手な思い込みちゅうやつですか。ベラ類の産卵行動が毎年変わるもんじゃないことがぐらいわかりますが・・・。
 まあ、それぞれのセッションには何人かの発表者がいるわけですが、参加者は自分達が興味無い講演だと遠慮無く席をたち別のセッションのところへ行ってしまいます。私が出席したセッションのなかで3人の日本人の方の講演を聞きましたが、みんなびしばしと席をたち、私は席を離れるに離れられなくなりました。同朋意識ちゅうやつですか。ちょっとぐらい色物でもいいからうける話≠して欲しかったと思うのは、まったく無責任な言い方なんでしょうけど・・・。

 ホノルルからジャカルタに帰る際、日本に4日間立寄りました。6月5日の昼過ぎに成田に着いたのですが、通関済ませて出迎えロビーにでようとすると、出口のところに女子中・高生がわんさかと群れてまして(制服姿の女のこも多かった)、まあどなたかアイドルと呼ばれる方のお出迎えなんでしょうが、そのため出口のところが混雑してましてなかなか通り抜けられない。その時、女子学生の人達にあっけにとられてぼーっとしていた私も悪いんですが、後から荷物を乗っけたカートを左足の踵のうえ、アキレス腱のところにぶっつけられまして、あやうく跪いてしまいそうになりました。さごど若いとも思われぬ日本女性ふたりがそのカートを押してたのですが、ぶつけてから何と言ったと思います。「あー、あたった」。私は日本語の聞き取りも出来なくなってしまったのかと思ったほどです。ごめんなさいとも、すみませんとも、大丈夫ですかとも、あら失礼とも、なんともかんとも、あたった≠フ一言だけです、彼女達から発っせられた言葉は。あの人の足にあたったみたいよどうちゃらこうちゃらという、ひそひそ声は聞こえましたが。目の前がくらくらっとしましてたね。後ろを振り向いても、しっかりしらんぷりされてしまいました。出口でおたおたしてるやつが悪いってか。どっと哀しくなってしまった日本の玄関口でした。

 日本に立寄り帰国したのは、実兄の結婚式に出席するためでした(こんな身内話を甲州画報の原稿にしていいんだろうか)、久々に地元に帰ってきました。ちなみに出身は兵庫県は西播の相生市です。東京でなにかとごたごたしてまして(結局のところ飲み会のお付き合いなんですが)、地元に帰り着いたのが式の始る2時間前。駅から大和殿(これだいわでん≠ニ呼ぶんですね。やまとでん≠ヘどこですかと道を尋ねた時にあほかちゅう顔されました)という結婚式場へ、大きなダイビングバッグを担いでジーパンにバティックの半袖シャツを来て素足にデッキシューズという親父達に言わせるとぱっぱらぱーの格好で行ったものですから、式場の玄関を入った瞬間みょーな間が空きまして受け付けの人も声を掛けるでなし、ロビーに居たうちの親類もしらんぷりしてました(なんや今回はひがんでるなあ)。
 しかし、しばらくぶりの帰郷というのも具合い悪いもんがありますね。おばさん連中からは、「ひろゆきちゃん、今なにしとってん?」(30過ぎの男がこう訊かれるんですぜ)。おじさん連中からは、「ジャワちゅうたら年中暑いにゃろが。そのわりに色黒うなってへんやんけ。なにしとんど」(色の黒さは漁師やってるおじさんたちにはかないませんて)と言われ、「へぇ、まあユネスコちゅうとこでしょうもない事務仕事してますわ。そやさかいお日さんにもあんまりあたらへんし、色も白いままですわ」。こんな会話でいいんだろうか。

敬具



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