ジャカルタからの手紙6

川崎[漁師]博之

 みなさん、お元気ですか。この手紙が付く頃は、日本じゃ満開の桜の下で宴会真っ盛りといったところでしょうか(甲州画報に載る頃にはとっくに終わっているでしょうけど)。
 こちらは、いま PUASA=ラマダン、断食の最中です。今年は4月16、17日の「Idul Fitri」の前日まで続けられます。断食の行事はイスラム教徒の人達のものであり、他宗教のインドネシアの人達や我々は特に断食を強要されるわけでもなく、普段通りの生活をしてかまわないわけでして、多くの飲食店も何時も通りの営業を続けています(中には、外から中が見えないように、つまり食べているところが覗けないうようにカーテンなんぞ付けた店もありますが)。
 「Idul Fitri」の日はラマダン明けの安息日でして国の祝日ともなってます。この時期、日本の年末年始のように休暇をとって田舎に帰る人も多くいます。店も閉めるところが多いです。ジャカルタの人も少なくなるようです(東京でも見られる程の《人口移動》はないでしょうが結構街は静かになります)。
 昨年のこの時期は、ジャカルタに着任して1ヶ月ということもあり、何もせずに(上司の仕事に付き合わされましたが)ジャカルタで過してしまいましたが、今年は先手を打って4月5日から23日までの休暇を取ることに成功?しました。休暇中はバリ島とスラウェシ島のメナドへ行ってひたすらダイビングの日々を送ることにしています(この手紙が届く頃は、フッフッフッ、編集さん、バリだ!バリだ!ダイビングだぁー!!)。

 えー、閑話休題(…といっても、本当は今回の手紙はなんのことはない、単にこの休暇のことを言いたかっただけなんですが…)。
 志水辰夫さんの「散る花もあり」(講談社)を読まれた方も多いと思いますが、おもしろいと思います。甲州さんの「低く飛ぶ鳩」の主人公・吉岡さんと立場も背景も全く違っていますが、「散る花もあり」の主人公・越智さんもフィリピン、フィリピンの人と関わりをもって事件に巻き込まれていく人物です。
 両者に共通しているのはフィリピン及びフィリピンの人に関わりを持っているということだけかもしれませんが、「低く飛ぶ鳩」の吉岡さんが「マクダレーナ」に登場した時に、公安にも追われている状況であることになっていますが、○ヤさんからみの事件だけで公安に追われる立場になるかどうかと考えますと何かその間に政治的な事件にも関わったのではないかと思えるわけでして、そうしますと「散る花もあり」の越智さんがモロ解放戦線のゲリラ闘士であるフィリピンの人と関わったような話があってもいいような気がします。
 まあ、あの吉岡さんがどう政治的な話に首を突っ込むことになるかとなれば、「散る花もあり」のような話にはならないでしょうが。吉岡さんの場合、どういう成り行きで巻き込まれるのがいいんでしょうか。

 例えばこんなのはいかがなもんで。
 「低く飛ぶ鳩」で○暴関係の刑事さんと関わりができましたから、その筋からある日フィリピン人容疑者の通訳を頼まれる。大麻を持ち込もうとした船員の取り調べの際、彼が英語を話せないということで吉岡の所へ依頼というかまあ引っぱり出される。その取り調べ中船員から伝言を頼まれる。大麻の受け渡し場所の近くでクラブに勤めているフィリピン女性への伝言で、内容はまた別の人へのもの。もちろん供述書には記述しない。好奇心からか成り行きで言われた場所近くをうろつくフリーライター吉岡。当然そこの○ヤさんや内偵中だった麻薬取締官等とトラブったりする。結局女性は見つけられなかった。そこの○ヤさん達に手入れがはいり、その際に強制売春させられていたフィリピン女性も保護され、また吉岡は事情聴取に付き合わされる。その時探していた女性を保護されていた女性の中に見つける。吉岡は伝言を伝える。しかし彼女達は強制送還されることになる。吉岡のアパート(マンションか)に成田に送られる直前に逃げ出してきた彼女が飛び込んでくる(名刺を渡していた)。成り行き上、彼女に変わって吉岡が伝言を伝える役をする。その人物は、最近フィリピン駐在事務所長がゲリラに誘拐され身の代金を払ったとされる商社に勤めていた。彼はフィリピン駐在経験もある。彼が誘拐側のシナリオを作った。彼から一方通行の連絡で、フィリピン側からは例の女性を通じてしか行なえない。政治色の強い誘拐であったことや日本側の状況に詳しいことから、公安警察もその商社の調査をおこなっている。吉岡は政治的なことに関わりたくもなく、彼とも関わりたくはないのだが、かくまっている彼女を放り出すわけにもいかず、彼との接触をやめるわけにはいかない。やがて彼は公安に目を付けられる。逃走。彼女も○ヤさんに見つかる。公安の手が吉岡にも延びてくる。○ヤさんから彼女を逃さねばならない。で何やかんやとありまして、吉岡は彼女を連れて大阪へ。「低く飛ぶ鳩」の相沢組を訪ねる。玲子さんと再会(組のあねさんになっている)。相沢組に玲子さんを助けたという義理からみでフィリピン人の彼女を密出国させる。しかし吉岡はしばらく東京に戻れる状況になく大阪にもとどまれずに何処かへ流れていく。
 とまあ、こんなふうになれば「低く飛ぶ鳩」から「マクダレーナ」へ流れていくような気がしますが、どんなもんでしょう?

敬具



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