『ドクター中松の常識破りバンザイ!』(KKベストセラーズ)
副題が“1%の汗で成功する方法”である。なんともこわい本ではないか。
はっきり言ってこの本、売りものになるような本ではない。何せ、ほとんどのページが自画自賛でうまっとるのだから…。
前書きで、テスラ学会が古今東西の偉大な五人の科学者としてアルキメデス、マリー・キュリー、ファラデー、テスラ、中松義郎を選んだという話にはじまり、何やかやと自慢をしてくれる。テスラ学会というのがどういうものかよくわからんが、いきなりこの5人を偉大な学者だなどと言うあたり、何やらうさんくさい。“ナカマツを三○○数名のトップ・サイエンティストたちが選んだのである”なんて書いてあるところを見ると、会員数三○○人ほどの学会らしい(副理事はドクター中松自身らしい)。
面白いのでその後に書いてあるドクター中松の経歴書を引用しよう。
ドクター中松の全貌を知るための経歴書 |
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「序「ピョンピョンおじさん」の凄い素顔を知っているか」では、「私は吉田学校の一員だった」、「都知事選に出たら、アメリカの新聞の一面に載った」、「カリフォルニア州知事に『アメリカ大統領選に出れば』と言われた」とか、よくもここまで自分をほめられるものだ。こう次々出てくると、信じるも疑うもなくなってしまいますがな。
ドクター中松の主要発明は、例の醤油チュルチュルからはじまって、最近のドクター中松エンジンまで、いろいろとあるようだ。適当にピックアップしてあげよう。
ドクター中松はここ二十数年、ずっと食事の写真を撮っているという。で、頭がすっきりしない日があると、その4、5日前の食事が「頭によくない」という事がわかるのだそうだ。タマネギ、カレーライス、牛丼などは頭に悪いそうである。タマネギが頭や体に悪いという事は「タマネギの入った料理を犬に与えると、お腹をこわすことが多い」という事からわかるんだそうな。
と、そういう研究の中から生まれたのが「頭においしいスナック」、「目においしいスナック」、「TVにおいしいスナック」なんだとさ。どうやら世界中の人間が人種性別体質年齢を問わず、食い物に関してドクター中松と同じ反応をしなければいかんらしい。
この中のTVにおいしいスナックは摩訶不思議な事に「テレビ映像が立体的に見えてくるのだ。ウソだと思ったら、一度試してみるとよい。テレビのおもしろさが倍加する筈である」というのである。ほんとにそうだったら、これは麻薬に指定すべきだ。
ドクター中松パター[どうでもいいが、ドクター中松は名前に困るとドクター中松○○とつけるようだ。フロッピーがドクター中松ふにゃふにゃ円盤という名前でないのは幸運である。あたりまえか]は要はサーボモーターで照準を合わせてパターと打つ方向が直角になるようにしてから打つ、というほとんど反則のパターである。これで百発百中で入る、と言っている。この本のこの部分を読んだ人外協隊長の阪本氏は言った「こいつ、グリーンはまっ平らだとおもってるのか!」。もっともである。
さて、問題のフロッピーディスクである。ドクター中松は最初、薄くて軽くて割れないレコードができないだろうかと考えたそうだ。さらに四角いジャケットに入れたままプレイヤーにかけられないか、と考え、フロッピーを作ったら、IBMが買いにきた、とこの本には書いてある。
どうもドクター中松が実際にパテントとしてもっているのは、「レコードをジャケットに入れる」というアイデア特許のたぐいのような気がする(確かな事はわからんが)。製造の部分の苦労話が全然書いてないからである。ドクター中松に言わせると、日本のフロッピーを製造している会社は全部ドクター中松の特許を侵害しているのだそうだ。裁判に持ち込んでも二、三十年かかるのでもちこまないのだそうだが。
そしてさらに問題の「エネレックス」。水を入力、水を出力とするという、どこからエネルギーが出てきているのかわからんエンジンである。本人の説明によれば『これはたとえていえば、水道の蛇口をひねったときの水の噴出エネルギを応用しようというものであった』との事。いうまでもないが、水が蛇口から噴出するのは水道水に圧力がかかっているからで、元をただせば重力であると思う。そこらへんの水を持ってきても水自身にエネルギーはないぞぉぉぉ。
最新の問題発明「ドクター・ナカマツ・エンジン」。これまた本人の説明を引用しよう(頭痛いぞ、わたしゃ)。『このエンジンは永久機関である。永久機関は過去だれも実用化していない。これは熱力学第二法則に反するので不可能であるとされていた。だが、この法則に反さなければ、理論上成立する[あたりまえである。法則に反さずに作るのが難しい(というか、不可能)だから誰も永久機関を作れないのだ]。しかし、どうすれば完成できるかという理論的裏づけはない。そこで私は「ドクター・ナカマツ・バーチャル・パーペチュアル・エンジン・セオリー」[だからなんなんだ、この名前は]という新理論を確率、熱力学第二法則に反さない、永久機関理論を構築して米国学会で発表した[学会で発表といったってあてになるものではない事は読者諸氏はご存じの事と思う。たいていの学会は発表するだけなら誰でもできるのだ。聞いて貰えるかどうかが問題]。つまり、「スジ」を貫く事ができたのである』
あんたの「スジ」って、この程度か???
聞くところによると、このドクター・ナカマツ・エンジンを作る前に、ドクター中松はマイケルソン・モーレーの実験をやり直し、「当時の実験の精度ではわからなかったらしいが、光速は変化する。よってアインシュタインの相対論はまちがいだ」と結論したそうである。マイケルソン・モーレーの実験以来、光速の変化の実験を誰もしてないとこのおっさんはおもっているのだろうか?
実際には、最近の学会誌でも光速不変の問題についての実験の報告はちょいちょい載っているのだ。もちろん、高い精度で実験が行なわれ、未だ相対論を否定する結果はない。
たぶん、このおっさんの実験の精度はマイケルソン・モーレーの実験の精度より低いと思うが。
さて、最後に「またか」を出そう。といってもユダヤではない。超科学屋さんの大好きなアイテムの一つであらせられる……あの、ノストラダムスだっ!
「真説ノストラダムスの大予言」(加治木義博著)を読んだナカマツのおっちゃんは、こうのたまう。『では、その救世主は誰なのか。「黒い髪の毛の日本人であり、その日本人はミカヅキの水(石油)を使わないエンジンを発明する」とある。(略)はたして、私が救世主なのかどうかはわからない。私の意志を継いだ若い人たちが偉大な発明をするかもしれないからだ。そういえばアインシュタイン博士が書いた手紙の中に「日本から偉大な救世主が現れる」ということが書いてある』
ええいっ!都合のいい所でだけアインシュタインのご威光にすがるんじゃねぇぇぇぇ(よそでは相対論は間違いだと言っておいて)。私が救世主なのかどうかはわからないなどと一歩ひいたような感じを見せるあたりが、実に醜い。ぐおおおおお。
このドクター中松、今度は「政治の発明」をめざしているという。だから都知事選にも出たのだ。東京都民はしばらく退屈しない事であろう。
さて、この本の最後には巻末特別資料―人間関係方程式なるものがついている。これが抱腹絶倒ものなので、いくつかを上げる。
[仕事ぶりを上司の目にとまらせる方程式] W=Fα/a W
F
α
a=
=
=
=見掛けの仕事量
実力
仕事の加速度[なんじゃ、こら]
上司の評価係数[夫婦生活のかたまり具合いを測る方程式] H=1/2MV2 H
M
V=
=
=夫婦のシェル(殻)形成度
夫婦生活の質量
夫婦生活の持つ速度Mを正確な因数に分解すると H=1/2(aI+bC+cm)V2 I
a
C
b
m
c=
=
=
=
=
=収入
収入係数(収入へのウェイトの置き方
子供の数
子供係数
その他の夫婦生活の質量
夫婦質量係数[恋人の裏切りを許す、許さないを測る方程式] C1=C2−Lα C1
C2
L
α=
=
=
=あなたの愛の許容量[これがわからんでみんな困るんじゃないか]
かって彼に抱いていた信頼の量
彼が他の女性に与える愛の量[こんなもん判れば苦労するかっ!]
彼が他の女性に愛を与える加速度
もはやコメントする気も起きないこのおそろしさ…。
これも「1ピカ2スジ3イキ」の発明のうちなのでしょう。
中松義郎 生年月日 昭和3年 6月26日 |