◆『宇宙の始めにビッグバンはなかった』
この本、タイトルから、「おっ、ホイル先生の定常宇宙論の解説かな?」と思って手にとってしまったりする場合があろうかと思われるが、内容はホイル先生とは無関係である(もちろん、作者は定常宇宙論にも言及していますが)。
作者の主張は『現代の科学技術のレベルは、神秘的な古代の科学技術のレベルには遠く及ばない』という文章にもっともよく現れている。つまり、歴史的な伝承には全てなんらかの真理が隠されている、という立場である。
では、なぜそれが『ビックバンはなかった』という結論を生むかというと、『宇宙の起源に<ゼロから出発したビッグバンのようなものがあった>という、明確な古代からの伝承は見あたらない』という理由である。古事記の書き出しをビッグバンと結び付ける解釈もあるが、あれは太陽系創世なのだと言う。
それにしてもこの人の書いているビッグバンについての文章は「ド・ジッターの宇宙モデルがそもそもの出発点」だとか「ドップラー効果の矛盾を解消するために考えられた宇宙項」だの、どうも事実とちがう記述が多くていちいちひっかかる。
それはさておき、この人の理論を本人の言葉を借りて概略を述べると、『赤方偏移は宇宙空間にほぼ均一に存在するエーテルの湧き出しにもとづく現象であり、均一背景放射は太陽系のすぐ外側の宇宙空間物質(のちに詳述する“オールト雲”と我々は推測する)から放射されるものだということである』のだそうだ。北欧神話の“エッダ”を読むと、ちゃんと書いてあるのだそうである。
例によってこの人もエーテルは存在するという立場をとっているようで、「地球がエーテルを引きずっている」という理由でマイケルソン・モーリーの実験は説明できる、という考え方をしている。そうだとすると地球のまわりにはエーテルの渦ができている事になるんだが。
さらにこの人によれば、般若心経には定常宇宙論を説いているのだそうだ。
第1章でビッグバンをかようのごとくあっさりとかたづけた著者は、第2章では古事記やエッダなどを使って太陽系創世の話を展開する。その後は惑星科学に文句をつけ、石油天来説を展開し、「日本海には石油がある」と結論する。なぜこれが発見されないのかの理由は例によって「情報が何処かでコントロールされている」からである。
ほかにも皆神山ピラミッド説など、いろいろと出てくる。
どうでもいいが、この人の究極的な主張は『間違った科学理論は間違った社会思想をはぐくむ』なのだそうだ。
どうでもいいが、この人は『私が天文学について話をしたような事は中学時代以外はない』のだそうだ[ようそれでこんな本書いたな]。
この本のもっとも、「どっひゃー」だったのは最後の一文です。
『科学者に告ぐ、「いまからでも遅くない」
勅命が発せられたのである。すでに天の勅命が発せられたのである。(中略)
このうえ、汝らがあくまで抵抗をしたならば、それは勅命に反することになり、逆賊にならなければならない。(中略)
いまからでも遅くない、直ちに抵抗を止めて神秘科学の旗の下に復帰するようにせよ。そうしたなら、いままでの罪は許されるのである。
汝らの父母はもちろんのこと、国民全体もそれを心から祈っているのである。
速やかに、現在の位置を捨てて帰ってこい。』
う〜む。私は科学者のはしくれのつもりだが、一度でも神秘科学の旗の下にいた事はないし、うちの両親がそれをのぞんでいるとは思えんが。
◆悪魔が生んだ科学(光文社カッパサイエンス)
「永久機関工学の栄光と悲惨」が副題。この本の一部分はまともな永久機関批判の書かと思わせる処もあります。しかし、だまされてはいけません。
いきなり、1章「『神の知恵』を自然科学に」から、この人一流の「古代人がいっちゃんえらい」のオンパレードです。
有名な処では皆神山ピラミッド説、カタカムナ文書はコンピューターのビットパターンであるという説、八尺の匂玉はロータリーエンジンであるという説、古代ヘブライ文字(4組の神聖文字列から22組文字のアルファベットができるのだそうだが)がDNAの暗号である、という説など、いちいち書いていられないほどである。この匂玉エンジンについては、後ろの方に設計図までついている。太鼓などについている三つ巴のマークのような形でエンジンを作れ、という事のようだ。他にも万字型に磁石をならべた永久機関なども図が出てくる(名前はマホロバ1号!)。
2章は古今の永久機関についてのお話しなのですが、オルフィリオスの自動輪がコリオリの力を使っている、と断言し、著者達の計算と記録に残っているオルフィリオスの自動輪の出力が一致した、というあたりが圧巻です。さらに笑ってしまうのが、この機械を使えば使うほど地球の自転が遅くなっていく、という指摘。これに気付いていたオルフィリオスが「地球の回転を止める男」という評判を立てられるのを嫌ってこの機械を叩き壊してしまったのだ、という推理。この時代に、地球の回転自体、常識じゃないというのに。
この後2章では熱力学第2法則に関してたわけた事を言ってますが無視して、次の3章へ行きます。
永久機関との苦闘の歴史をつづりながら3章は続くのだが、やがて例によってアインシュタイン批判が始まる。この手の人達に多い論理なのだが、
「アインシュタインの相対論はローレンツのとどこが違うのか。ローレンツの考え方の方が正しいのだ」という理屈でアインシュタインはローレンツの理論を悪用した悪者にされてしまいます。実際にはローレンツとアインシュタインが仲がよかった事は例によって無視されてます。そして、またも例によって、E=MC^2を見事に誤解して、「きわめて小さな質量から、巨大なエネルギーが導き出せる。これは後に述べるように、まさに第一種永久機関である」と来るから悲しい。ついでに、証拠も見せずに「現在では一般相対論は否定されている」と書いてあるから更に悲しい(そのような事実はない)。
他に、この章では電磁気に関する誤解から永久機関が作れると結論したり、イオノクラフトを「イオンで推力が出るのではなく、空間に発生する張力による反重力だ」と書いてあったりします。
さらにエマモーターの話(代表的永久機関詐欺。もちろん山田氏は詐欺と思ってない)などの話の後、磁石の組み合わせで永久機関が作れる、と無邪気に主張し、この本は終ってしまいます(いったい何だったんだ、これは)。
全然内容がわからん、とこの文章を読んだ人は思うでしょうが、私にも結局この本の主張したい事がなんなのか、よくわかりません。
山田久延彦 1937年満州生れ。 |