本物の色物物理学者列伝

前野[いろもの物理学者]昌弘

−事例研究:猪俣修二編−

 今回は、既に何度か紹介した事のある、「複素電磁理論」の猪俣修二先生の本を紹介しましょう。
 先生は74年、ユリ・ゲラー・フィーバーの時に吉祥寺の行きつけのバーのママさんに「スプーンが曲がったのよぉ」と言われ、自らも挑戦。それ以来超常現象研究にめざめ、10年の研究によって打ち立てた複素電磁理論は多くの色物物理学者たちの引用する処となり、現在は日本意識工学会会長として色物たちをたばねるお方です。

「超常現象には“絶対法則”があった!」(KKロングセラーズ)

 同じくKKロングセラーズから出た、「超常現象には“法則”があった!」の新版である。
 第1章で、猪俣博士自身のスプーン曲げ体験と、それ以来超常現象の研究にたずさわってきた、といういきさつが語られる。ユリ・ゲラーに感化されてやってみたスプーン曲げでほんとうにスプーンが曲がったから研究を始めた、と言う。そして、必然的にこれまでの科学にアンチ・テーゼを提示することになった、と言う(そういう事を言うのは現代の科学では超能力は絶対に解明できない、と納得できてからでよいと思うが)。
 猪俣先生は言う。唯物論的な科学では説明できない現象はたくさんあると。その例が触媒反応や摩擦電気だというのである。触媒作用の原因は化学的に解明されていない、と猪俣先生はおっしゃるのだが、もちろん、そんな事はない。摩擦電気だって、電子の分離、捕獲で充分説明できる筈である。
 さて、そうやって研究した結果の理論だが、当然、妥当な物とは言えない。
 その理論こそ、「複素電磁理論」である。この理論ではマックスウェル方程式を下のように複素化する。

複素化したマックスウェルの方程式 複素化したマックスウェルの方程式
複素化したマックスウェルの方程式 複素化したマックスウェルの方程式
複素化したマックスウェルの方程式 複素化したマックスウェルの方程式
複素化したマックスウェルの方程式 複素化したマックスウェルの方程式

 この複素部こそ“影の電磁場”であり、これこそ超能力の正体だ、というのですが。
 よく見て下さい。実数の部分と虚数の部分(iのついた式、つまり後ろ二つ)は全く独立な式である事がわかるでしょう。つまり、実数の電磁場は虚数の電磁場に影響を及ぼせないし、逆もまた真なりなのです。つまり、この式だけ見ていたのでは、影の電磁場は実在の電磁場と全く関係ないものなのです。こんな式でなぜ「“影の電磁場”がかき乱される事によって“実の電磁場”の領域に突出する」などという現象が起こる事がわかるのか、全く理解不可能です(ちなみにこれが摩擦電気の原理なんだがそうだが…)。
 ところで上の式のρmは磁価です。虚数の方の方程式に入ってますね。これがモノポールがない理由です。
 さらに注意すべきは虚数の式と実数の式は符号がひっくり返っている事ですね。この事から、虚数の“影の電磁場”では時間が逆転している事までわかるのです。“影の電磁場”は意識を表わすので、意識の世界では原因と結果が逆転するわけですね。いやぁ、参った参った。こりゃ一本とられたなぁ。
 この人に言わせると触媒作用というのはこの“影の電磁場”の作用なので、正触媒(反応を活性化させる触媒)のある場所では物理的な時間の流れが促進され、負触媒(反応を不活性にする触媒)のある場所では時間の流れが抑制されるのだそうです。そんな事言われてもなぁ。
 反応速度が温度による為、温度も複素でなくてはいけません。
 かくて温度まで複素にしてしまった今、熱力学の法則を破るのも簡単です。猪俣先生は言う。「ことに生物現象においては、熱力学の第二法則はかなり日常的に破れていると言える。割れたガラスのコップは元にもどらないが、たとえばトカゲのシッポなどはどうだろう。簡単に生え変って元に戻る[簡単に、と言ったらトカゲが怒るぞ]。また、われわれが、傷を負った場合も、それが致命傷でなければ、回復して元の状態にもどる。このような現象も“時間反転”といえるだろう[ほんとに時間反転だったら、致命傷でも元にもどさんかい、と言ったらきっと、「そういえば、念力で生き返った例もあります」という答えが返って来るのだろうなぁ]。」
 このように、“意識”という影のエネルギーさえあればなんでもできるというのがこの本の主張なのである。
 さて、この本の他の部分にはあまり“色物物理”はなく、どちらかというとこちらの超能力者は何を予言したの、あちらの超能力者はテレポートができるだの、という話が多い。例によって「この理論はアインシュタインを超えた!」と叫んでいるが、相対論の事はちっともわかってない。もちろん、エーテルの正体は“影の電磁場”である。これは「気」に近いものなのだそうだ(もう溜息しかでてこん)。
 この本の最後にはNマシンが紹介されています。Nマシンというのは何かというと、要は直流発電機です。つまり、永久磁石にはさまれた銅の円盤をくるくる回すと電圧が発生する、という物です(これ自体は電磁気の教科書にも載っている、普通のこと)。猪俣先生によると「重大な問題は、Nマシンの場合、その特長的な構造からみて、回転するNマシンから電力を取り出しても、そのクドウトルクが増加しない事が予想される」というのだが、もちろんこれは駆動トルクが増加する、と予想される。さらに「銅の円板中に電荷が無から創成されていると考えざるをえないことだ」とあるが、もちろんそんな事は考える必要はない。
 これでエネルギー問題は解決だぁ、と無邪気に叫ぶ辺りは色物学者の色物学者たるゆえんであろうか。
 一方、この時電圧が発生することにより、円板の回転がわかるので、これは相対論の主張する、「絶対座標はない」という事に抵触する、と述べられているがこれも間違い。相対論の本を見ると逆に、この電圧発生を相対論から導き出せる事が書いて有るのだから。

 この本のこの部分の結びの言葉は「大書店にはマルクス・レーニン主義の書物が満ちているが、ソ連、東欧圏のマルクス・レーニン主義体制は崩壊してしまった。同様に書店は相対論の本がいっぱいだが、実際の相対論はすでに崩壊してしまった! ここに現代日本の情報化社会の巨大な断層を見る想いがするのである。」である。
 書店にはこの本に代表される超科学の本がいっぱいであるが、これら超科学の本は最初から崩壊しっぱなしである! ここに現代日本の情報化社会の巨大な断層を見る想いがするのである。

猪俣修二

 1933年新潟県生れ。電気通信大学電波工学科卒業。電子技術総合研究所主任研究官。工学博士。
 74年、ユリ・ゲラー・フィーバーの時に吉祥寺の行きつけのバーのママさんに「スプーンが曲がったのよぉ」と言われ、自らも挑戦。それ以来超常現象研究にめざめる。その後10年の研究によって打ち立てた複素電磁理論は多くの色物物理学者たちの引用する処である。日本意識工学会会長として色物たちをたばねる。「ニューサイエンスのパラダイム」(技術出版)、「超常現象には法則≠ェあった!」(KKロングセラーズ)などで知られる。1991年、米国ボストンにおける第26回エネルギー変換国際会議に日本からの唯一の論文提出者として発表を行なった。



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