愛の仕掛け人・第39回

第三勢力:黒川[師団付撮影班]憲昭

デートの朝はいつも早おき。
 目覚ましなんかかけなくても、いつもよりもずっと早おき。
 シャワーを浴びて。
 朝ご飯をたべて。
 いつもよりしっかり歯を磨く。
 髪を丁寧にセットして。
 お化粧に時間をかけて。
 デートが決まった日に買ったかわいいルージュを試してみようかと悩んでいるうちに。
 朝のとけいはすぐに8時30分になってしまう。
 あわてて、きのうのゆうべ時間をかけて選んだ服を着ると。
 なぜかスカーフが子供っぽくみえる。
 ブローチは大きすぎるし。
 帽子をかぶるとばかみたい。
 こまっているうちに時間がすぎて。
 アイツはもうでかけたのかな。
 携帯電話の時計がせかせる。
 デートの朝。
 これが恋する乙女の朝。
 僕はお化粧はほとんどしないけど、かわりにひげを安全カミソリで剃ります。
 それ以外、デートの朝には似たように、早くゆきたい、でもいろいろ気になる、ウキウキ、ドキドキ、ソワソワしています。
 どこか誰かが噂してそう。
 でも気にしない気にしない。
 だって今日はデートだからー。
 なんかこう書いているだけで、本当に噂が聞こえてくるような気がしてきた。
 大丈夫、僕はまだ正気。
 恋は盲目なんていうど、そんなことはありません。目がつぶれるくらいで済むならおやすいこと。
 頭から二つ目が生えてきて、世界が逆立ちしてステップしているような、端からみてほとんど理解できないものになってしまう。
 時も、場面も、お約束も、すべてちゃらにして、歌い踊るミュージカルが、世界の真実であることを教えてくれる。
 世界はスクリーン、太陽と月と夜空の星が照らすスポットライトに浮かぶ恋人達は主演スター。地球が回る音をオーケストラにして踊る。
 とんでもなくばかげたすばらしいこと。
 それが、
 こぉー、いー
 なーー、
 のーーー、
 でーーーー、
 すぅーーーーーーーーーーーーーーーー。

 劇団・大讃勢力「デートの練習」

 第三勢力が恋をテーマに舞台をつくったら、ということで勝手に書いてみたが、なかなかに面白いものになりそう。第三勢力の歌と踊りはなかなかにいけるので、舞台化すれば噂になることはまちがいないだろう。
 そして究極的には谷甲州の世界をミュージカル化する、というのが目標となるのはとうぜんだろう。
 しかし、あえていえば航空宇宙軍の世界は、ミュージカルというよりもオペラ、それもワーグナーのニーベルンゲンの指輪のような重低音で凄みのきいたものがイメージされる。
 かといって、歌い踊りながら7000メーターの高地を登るというのは、ある意味とても危ない世界で正気の沙汰ではない。
 ハスミという名前はミュージカルにふさわしいが、回りの連中がついていけるかははなはだ疑問だ。
 演歌、ブルース、ジャズなどそれぞれに合いそうな場面はいろいろと思いつくが、ブロードウェイとかハリウッドでやるようなミュージカルが似合うようなものは案外に思いつかない。もし思いついた方がおられたらぜひご連絡して下さい。
 どうも甲州作品をつくるためには、「漢(おとこ)」のミュージカルというものをつくる必要があるだろう。
 宇宙飛行士、軍人、登山家、そして現場作業員が歌い踊る、「筋肉(マッスル)ミュージカル 」よりも汗くさく、男臭いミュージカル。これはたぶん世界初の試みとなるはずだ。
 お客がくるかどうかはわからないがとにかくインパクトだけは負けはないだろう。
 そうたとえば。

 デートの朝はいつも早起き。
 班長に蹴りをいれられなくとも、夜勤明けの時間よりもずっと早起き。
 シャワーはなく。
 コップ一杯の水で歯磨き洗顔をすまして。
 いつもより一杯多く飯をたべる。
 伸びて半分固まった髪の毛をばっさり剃って。
 傷跡を絆創膏で隠して。
 最近タバコと交換したかわいいカミソリを襟に隠していこうかと考えているうちに、あっというまに交代のサイレン。
 あわてて昨日の夜更けに選んだ「獲物」を身につけると。
 なぜかバールがよく目立つ。
 ドライバーでは心細いし。
 山刀は見つかると犯罪者みたい。
 こまっているうちに時間がすぎて。
 奴はもう出発したのか。
 雪解けがせかす。
 デートの時間。
 これが恋する「漢(おとこ)」の朝。
 デートかヤクザの出入りかわからなくなってしまったが、でもなんとなく甲州世界に近づいたように感じるのは気のせいか。
 漢たちが、極寒、熱帯など生きのびることすら難しい環境で、マズルフラッシュを照明がわりに歌い踊る。
 さしずめ劇団・大惨勢力「デートの練習 Apocalypse date」といったところか。やはりどうころんでも使う音楽はワーグナーになってしまう。
 大体にして、山男が踊るのアルペン踊りくらいなもので、歌うのも雪山賛歌とか下界の女子供にはとても聞かせられないようなものしか思い浮かばないのは想像力が貧困というかなんというか。
 宇宙飛行士が無重力で踊る姿にいたっては想像すらしたくない。
 どうも甲州作品とミュージカルは似合わないようなきがしてきた。
 ただ、どうもなにか忘れているような気がする。
 いま思いだしたがミュージカルというのはアメリカやイギリスだけでつくられるものではなかった。
 デートの朝はいつも早起き。
 イスラム教聖職者にいわれなくても、朝の祈りよりもずっと早起き。
 沐浴して。
 口を清めて。
 モスクから一番にかえってカレーをたべて。
 髭を切りそろえて。
 念入りに乳香たく。
 巡礼にいったときにてにいれた、黒い帽子を被っていこうかと考えているうちに、赤道の太陽はあっという間に昇る。
 あわてて月が傾くまで選んだ服を着ると。
 なぜかターバンがよく目立つ。
 頭布・頭輪はベドウィンみたい。
 なにも着けないと背教者みたい。
 あのひとは待っているのだろうか。
 ラクダがせかす。
 デートの朝。
 ひげ面のくせになぜかつぶらなまなこをした中年男が発作的に踊りまくる。インドミュージカルは意外と甲州作品によく似合う。
 というか本気でインド映画の脚本に使えると思うのは勘違いではないはずだ。
 劇団・ダイサンスクリット。これもいい感じだ。
 もちろんタイトルは「恋の練習 踊る建築技師」。
 むやみに大勢の人間がでてきて、あげくのはてはゾウも登場して踊りくるう。アジアのパワーを凝縮したようなミュージカルこそがふさわしい。
 なんでもありなのだから、建築技師も、坊さんも、軍人も、イスラム聖職者も一切合切ひっくるめて踊らせてしまったらいい。
 ODAで造ったダムなどの巨大建築物を舞台につかえば、なんでもかんでも放り込んでも、そう簡単には壊れないはずだ。
 アジアン・ミュージカルこそふさわしい。
 甲州世界もミュージカルであるのとおなじく、どんな世界、人生でもミュージカルにならないはずがない。
 他人からみればあほらしいかもしれないが。
 あほらしいと思う奴も、なあにミュージカルの出演者なのだ。
 ミュージカルは恋がテーマ。
 これも人生と同じこと。
 歌い、
 踊って、
 恋をして、
 たまにゃ、しくじることもある。
 だけど最後はハッピーエンド。
 いつだってハッピーエンド。
 それがミュージカル。
 それが人生。
 世界は劇場、
 人は踊る影、
 みんなおなじ影ならば、
 踊らにゃそんそん。

劇団・第三勢力「デートの練習」おわり。



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