とっておきのキス・第36回

第三勢力:阪本[初代]雅哉

キンチャクダイ
 みなさんは、「タテジマキンチャクダイ」という魚をご存じだろうか。
 サンゴ礁の回りに生息するキンチャクダイ科の魚で学名が「Pomacanthus imperator」、標準和名が「たてじまきんちゃくだい」。成魚は全身に青と黄色の縦じまが鮮やかで、非常によく目立つ。沖縄だけでなく、四国や南紀などで潜っていると比較的目にする機会の多い魚ではある。
 しかし、魚屋に並ぶことはないし水槽で飼うにはけっこう大型なためか、熱帯魚として売られているのを見たこともない。(幼魚が売られているのを見たことはあるが、成魚とはまったく見た目が異なるため知らないと同じ種だとは思えない 。と書いた直後に近所の熱帯魚店で生魚を見かけた。)
 ゆえに熱帯魚に興味を持っている人以外には「タテジマキンチャクダイ」なんていう魚を知らない人が大半ではないだろうか。
 私も、この文を書いている数日前まで知らなかった。
 たしかにダイビング後のログ付けの際に同行者が「キンギョハナダイ」だの「サザナミヤッコ」だのとそのときに目撃した魚を確認しているときに「タテキン」と言っているのも聞いたことはあった。だから自分が「タテジマキンチャクダイ」を目撃しているであろうことは知っていた。
 また、何度も「青と黄色の縦じまの魚」の魚を見かけたことは有った。それどころか写真にも撮ったこともある。

タテジマキンチャクダイ(成魚) タテジマキンチャクダイ(幼魚)
タテジマキンチャクダイの成魚(左)と幼魚(右)

* ちなみに、魚の場合は頭から尾にかけて水平に縞があるのを「縦じま」、背びれから腹にかけて垂直に縞があるのを「横じま」という。

 おそらく私に見分けがつく魚は、秋刀魚や鰯、鯖に鯛など。切身になった鮭や刺身のハマチやマグロもわかるだろう。
 魚の分類に特別の興味はないのだから、普段見かけることの多い魚だけ分かれば十分ではないだろうか。
 だいたい海に居る魚の大半はスズキ目で、**ダイ科とベラじゃないかと思えるほど、キンチャクダイ科やスズメダイ科の魚で溢れている。(その他にもブダイ科、ニザダイ科、フエダイ科、テンジクダイ科、キントキダイ科などがあるし、**タイ科じゃなくても**タイと呼ばれる魚は多い)
 そのうえ魚類は千差万別、環境によって見た目が大きく変わる種類も珍しくない。
 だからTVで三菱のCOLTのCMが流れたときに画面を横切っていく文字の書かれた魚を見て、どこかで見たことがあると思い、「これはなんという魚?」と聞いたとしてもさほど不思議はないと思うのだがいかがなものだろう。

クマノミ
 イソギンチャクとの共生で有名だし、魚屋に並ぶことはないが熱帯魚として売られていることもあるので知っている人も多いだろう。
 スズメダイ科-クマノミ属の魚で学名が「Amphiprion clarkii」、英語では「anemonefish」、漢字では「隈魚」と書くらしい。
 世界では30数種類、日本国内にも6種類生息しているが本州周辺ではクマノミ以外を目撃することは滅多にない(と思う)。
クマノミとミツホシクロスズメダイ 私も名前は知っていたし、始めて体験ダイビングをしたときに、クマノミを見て「これが理科の授業で習ったクマノミか」と感動した記憶もある。
 イソギンチャクと共生しているので他の魚と間違えることもない、はずなんだけど白黒で判別しにくいが右の写真で数多く映っているのはミツホシクロスズメダイの幼魚で、クマノミではなかったりするので少しだけ注意が必要である。

* ミツホシクロスズメダイは幼魚はイソギンチャクに共生しているが、成魚になるとイソギンチャクから離れる。

 南部の海には通称「クマノミ畑」と呼んでいるクマノミの群生地があり、一面のクマノミが観察できる。

カクレクマノミ トウアカクマノミ
カクレクマノミ(左)とトウアカクマノミ(右)

グルクン
 沖縄では知らない人はいないだろう。たしか沖縄の県魚らしい。

* 県魚てのは沖縄で始めて聞いたけど、調べてみると結構多くの県で制定されているらしい。なんでも宮城では12種類、京都では20種類も登録されているらしい。

グルクンとカスミチョウチョウウオ
グルクンと カスミチョウチョウウオの群

 沖縄に行くと毎日のようにグルクンの唐揚げは食べていても唐揚げになった姿から元の姿はなかなか想像できない。しかも沖縄周辺で、ガイドの人が「あれがグルクンだ」と説明してくれることはまずない。
 グルクンという魚がいること、潜ったときに何度も目撃していること、どちらも間違いない。つまり名前も姿も知っているはずだが、「どの魚がグルクンかは知らない」し「見ていてもなんという魚か知らない」というどこかで聞いたような状況がここでも発生していたのだ。
 ちなみにグルクンとはタカサゴ科のウメイロモドキ、タカサゴ、クマザサハナムロなどの総称で、図鑑にはグルクンという名前の魚は載っていない(はず)。
 数年前に与論島(は沖縄県ではないが)に潜りに行った際の最終日、ガイドの人に「なにが見たい」と聞かれて「グルクン」と答えたときにはかなり呆れられた。
 またタカサゴは沖縄だけではなく、和歌山などでも目撃することは多い。

カスミチョウチョウウオ
 白に黄色の非常に鮮やかな魚で、数十から数百匹で群になっているため、一度見たら二度と忘れることはないだろう。
 サンゴ礁の外縁の潮通しの良い場所によく見られるチョウチョウウオ科の魚で学名が「Hemitaurichthys polylepis」。沖縄では非常に良く見かける魚である。
 昨年の西表島へ潜りにいった際に始めて目撃した。
 ただひとつ不思議なのは、ダイビングを始めてから毎年は沖縄に潜りに行っているのに、過去にカスミチョウチョウウオを見かけたことがなかったことである。
ハタタテハゼ よほど縁が無かったのだろうか。

ハタタテハゼ
 前部が長く伸びた背びれを立てて、海底からポッカリと浮いている姿が美しいハゼ科の魚で、驚くと海底にある巣穴に隠れてしまう。
 和歌山では比較的珍しいのでスターのようにダイバーが写真を撮っているが、沖縄などではどこにでも居るので誰も注目しないかも。
 

ミギマキ
 下の写真の右がミギマキで左がタカノハダイ。どちらもタカノハダイ科の魚で、よく見ると比較的容易に見分けがつく。和歌山の魚屋やスーパーではタカノハダイを見かけることもある。
 ちなみにヒダリマキという魚はいない(タカノハダイをヒダリマキと呼称する場合があるらしい)はずである。

タカノハダイ ミギマキ
タカノハダイ(左)とミギマキ(右)

キス
 ダイビング中によく見かけるのはトラギスで、珍しくもないし綺麗でもないうえに、気まぐれで写真を撮ろうとカメラを構えると気配を察して逃げてしまうので、あまり写真に残らない。
 というわけで、今回はとっておきのキスの写真を捜し出すことができなかった。



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