そのイルカは、波に流されほんの少し位置を直した。
彼は自分のヒレを動かしたつもりだったが、実際は、小型のバーニアが、ガスを少量噴いただけだった。
彼は人間とゆう友達が好きだった。いつも、遊んでくれたし美味しいものもくれた。
時々、今もそうしてくれる。と、感じる様に脳に細工をしてある。
彼の他に二体のイルカがいた。一諸にここにきた仲間だった。
彼らは、待っていた。いつくるかもわからない、彼らの友達を。
その友達は、ここを通る確立が大きい。ただ、それだけのことで、人間から、ここで待っているように言われた。
三体のイルカの間では、そのことに関してしばらく、意見の交換がなされたが、それはそれでいいだろうという、待とうということに決まった。
三体はそれぞれ違う方向を向き遠くまで見える新しい眼であてもなく「海中」を見ていた。
彼らは、友達の名前を知らなかった。
はじめて会う友達の名前は「ジョーイ」といった。
航空宇宙軍の一部では、外惑星連合が、生物の脳を使用した兵器を開発し、実際に投入しているという情報を得ていた。
イルカなどの海洋性哺乳類の脳を使うことにより高度な情報処理やその場の状況判断が行えることはそれまでの研究で分かっており戦後の宙航技術の発展に期待がもたれてもいた。
航空宇宙軍内でも同じ様な研究を行う部署もあったために情報の信憑性が増した。しかし、この戦争で有効な兵器であるのかは、倫理面の問題もあったため、終戦まじかの時期、すでに勝ちの決まった様な戦争にわざわざ使用する必要があるのかなどの点から疑問視されていた。
だが研究者達の間では、この戦争のどさくさで、何とか実用データの収集と実験を行いたいと思い、できるものなら、外惑星連合の実用船を奪取したいと考えていた。
どうせ、勝つ戦争ならと……。
実際には、5体のイルカと1体のシャチが投入された。そして戦後の経過記録には1体の回収記録があるのみだった。
彼、AO−2(通称、アオちゃん)は、動けないことで過度のストレスを感じ始めたがすぐに注入された麻薬により気分が良くなった。
半覚醒状態になりその中で、アオちゃんは広大な海の中を猛スピードで泳いでいた。その最中でも、脳の一部でセンシング・システムは随時収集される膨大な情報の処理を行なっていた。
また、B0−5(通称、バオちゃん)とCO−4(通称、コーちゃん)との情報交換も随時アオちゃんの脳内で行なわれていた。肉体を失ったイルカの脳を人間は無駄にはしなかった。肉体の制御が無くなった分、同時進行の膨大な情報処理を実現した。
一つの脳が、意識せず全身を制御するように、実際の機体は静止しているが、アオちゃんは全速で泳ぐのを意識しつつ、センシングを実行していた。
アオちゃんは、いま、現在の自分の肉体が、変わり果てた姿でいることを意識していない。
イルカとシャチ、インターフェイスを通じ、お互いの情報交換はできるものの、お互いの進化の過程で本能に刻み込まれた『喰う喰われる』の関係は消えず、実験を重ねる毎にイルカの恐怖心による動揺が読み出し不能のデータとなった。何重にもかけられたフィルターを通してもその互いの臭いは消えなかった。シャチにいたっては、脳パターンにイルカを喰うそぶりまでみせた。幾度目かの実験の失敗で、現段階では断念という結果となった。
それ事体、興味深い研究内容であったが、宙航艇のソフト、ハード・ウェアの開発という面では、阻害因子でしかなかった。将来的には問題となるかも知れないが、どちらも生物的共通点を同時に研究していく方が研究者達の求める物に近付くのに早かった。
アオちゃん達、3体のイルカは、友達に会えるのが楽しみだった。
それでも、「ジョーイ」に対する武装と推進剤の補給のため3体のイルカが使用された。それは、戦時末期における敵の猛攻とその被害を最小限におさえるためだった。他の無人タンカーを「ジョーイ」のためだけにまわすことができなかったからだ。
3体の身体は、センサ類のほかに補給用の推進剤タンクや機雷用のカーゴ・ベイなどが急きょ増設され、もともと観測、索的用の船体はゴテゴテとふくれあがった。
ジョーイは目標の地点へ向けて近付くにつれ加速から減速を開始した。
バオちゃんは広い海の中で微かな熱量を感じた。それが、友達のものなのか分からないが、センサの一部を注目させセンシングを続けた。
数秒たち熱量は大きくなりバオちゃんは全センサを注目させるとともに、アオちゃんとコーちゃんにサポートを頼んだ。各センサのデータから接近してくるもののおぼろげな形が判明するとサポートのコーちゃんがカタログ照合した。それは味方の宙航艇だった。
イルカたちは識別コードを送り相手のコードも確認された。最初に話し掛けてきたのは、接近してくる船だった。
問う、現在の補給可能な武装、リストがほしいが可能か。
リスト作成可能。現在作成中……。送信。
代表して、バオちゃんが、会話をおこなった。他の2体は、わくわくしながら、二人の会話をきいていた。
次第にはっきりした船体画像が近付いてきた。
受信。了解。ビーコンに従い接近する。
ビーコン発射。受信確認。そのまま減速されたし。
「ジョーイ」は減速をはじめた。最初に接近したのは、バオちゃんだった。バオちゃんの補給したのは、推進剤だった。型通りのドッキング確認などの通信が行われる中で「ジョーイ」とバオちゃんは、お互いの思考による情報交換を行っていた。そこには、アオちゃんや、コーちゃんも参加した。推進剤の補給が終わり、次は、コーちゃんとアオちゃんの機雷の補給の番だった。バオちゃんはタンクを切り離した。
「ジョーイ」は無愛想ではあったが3体のイルカの相手をした。薬中毒のおしゃべりなイルカの思考は、「ジョーイ」にじゃれつく様にまとわりついた。
コーちゃんが終わり、次のアオちゃんからの補給が終了するころ「ジョーイ」はなんとなく無口になっていった。
不思議に思った。アオちゃんが、疑問符を送った。
おまえ達はイルカか?
イルカの泳ぐイメージと共に、メッセージが送られてきた。
アオちゃんはその通りだと返信した。
……。
「ジョーイ」からの返事はなく。彼はバーニアを軽く吹かせてアオちゃんから離れた。
補給を感謝する。
型通りのメッセージが、イルカ達に送られてきた。そのメッセージに「ジョーイ」の抑えた感情の様なものをイルカ達は感じた。
「ジョーイ」は、バーニアで安全距離を保つと予定軌道への加速を開始した。
「ジョーイ」に不自然さを覚えたのはほんの数秒だった。役目を終えたイルカ達は、帰投すべく重い身体を反転しはじめた。
その反転が、終わるころセンサに反応があった。
機雷だった。近距離からの。
気が付いたときは、手遅れだった。イルカ達はエンジンに点火することなく。機雷の破片と自分達の推進剤の炎に呑み込まれた。
その機雷が、自分達の供給したものだとも知らずに……。
後日、航空宇宙軍のとある基地の交信記録にこうゆうものが残っていた。
久ぶりに、イルカを食べた。
発信者不明のその記録は、暗号化もされておらず。だれに宛てたものでもなかった。
おわり
「生命と宇宙」ということで、こんなものを書いてみました。どんなんだったでしょうか。私で第三勢力メンバーは一巡しましたので、また、はじめに戻ります。
画報に久しぶりに出るので、多少ドキドキものでしたが、数ヶ月後におあいしましょ。
でわ、また。