虚構と冒険・第3回

第三勢力:竹林[Nina]孝浩

 水温む3月というわけで、今回のテーマはダイビングについてである。
 スキューバダイビングは簡単には宇宙空間へと行けない我々にとって、無重力状態を疑似体験できる貴重なレジャーである。われらが甲州さんも一家でダイビングを楽しまれているそうであるし、私も始めようかと思っている人もいるであろう。 
 しかし、ダイビングを行うためにには、Cカードを取得し、様々な機材を用意する必要がある。通常必要となる機材というと、マスク、シュノーケル、フィン、ブーツ・グローブ、ウェットスーツ(またはドライスーツ)、BC、ウエィト、レギュレータ、オクトパス、ゲージ・コンパス、タンクなどである。もっともこれらの機材はダイビングにどうしても必要というわけではなく、水中での安全確保と快適さのためにだけに必要なのである。ということは、安全性とか快適さなどという面倒なものを気にしなければ、必要なものはひょっとするとそんなにないかも知れない。だいたい、たかが海に潜るぐらいでこんな面倒なものを揃える必要はないのではないだろうか。というわけで以下、最小限の機材で行うお手軽ダイビングについて考えて見よう。

 まず最初に、各機材ごとの必要性を検討してみよう。

Cカード  機材じゃないけど何故か必要と言われ,俗にライセンスなどと呼ばれている。実体は単なる講習終了の証明書であり、法的なものではない。普通に山に登ぼる分にはなんら資格や免許を必要としないように、海に潜るのにも誰の許可を得る必要もないのである。では、なぜCカードが必要とされるかというと、ダイビングサービスなどが素人さんお断りになっているからである。Cカードをもっていないと機材やタンクのレンタル、ガイドなどをしてくれないからである。素人さんにはせいぜい体験ダイビングしかやらせてもらえないのである。「俺は素人じゃない!ちゃんと一人でダイビングできるよ。」ってことの証明がCカードなのだ。要するにダイブサービスなど頼りにせず、自力で何でもする気になればCカードは不要となる。
マスク  要するに水中メガネである。水中で見えにくいのさえ気にしなければなくても困らない。
シュノーケル  なくてもがんばって息継ぎすればいいので不要。どうせ水中ではつかえない。
フィン  足ひれ。単に泳ぐのが楽になるので皆付けているだけである。なくても泳げないわけではない。気合と根性があればもちろん不要である。
ブーツ・グローブ  靴と手袋。怪我の防止と保温のために着用する。俺はそんなに軟弱じゃないという方は当然不要である。
ウェットスーツ
ドライスーツ
 ウェットスーツとドライスーツの違いは中に水が入ってくるかどうかである。ドライスーツはもちろんスーツの中には水は入ってこないがウェットスーツは水が入ってくるのである。その代わりウェットスーツは取り扱いが楽で値段も安いというメリットがある。もっともこれは、比較の問題でウェットスーツを着なければ取り扱いも気にしなくていいし、コストもかからない。これらのスーツの目的は体温の維持と怪我の防止である。もちろん真冬の北極海あたりにスーツなしで潜ればすぐに死んでしまうが、ある程度温暖であればスーツなしで潜ることは可能である。ただし、30度程度の水温でもじっとしていると冷えてくるので、スーツなしで潜るのであれば、なるべく体を動かしつづけることが望ましい。熱き血潮と根性さえあればこれも不要な機材である。
BC  正確にはBCD(Buoyancy Control Device)つまり浮力調節器である。よくダイバーが着ているジャケットのようなものがこいつである。BCの目的はその名のとおりこの中に空気を入れたり出したりして浮力を調節すことである。だいたい一昔前はこんなもの無しで皆肺で浮力の調節をしていたのである。昔の人ができたんなら、不要でしょう。ちなみにタンク支えるハーネスとしても使われるがタンクぐらい抱えればOKという人には当然不要である。
ウェイト  ただの重り。だいたいウエットスーツとかドライスーツに浮力があるために、それを打ち消すために必要となるのだ。スーツ類を着けなければ、なくてもなんとかなる。
レギュレータ  ダイビングの写真などでダイバーが口に加えている奴である。空気タンク内には高圧(約150〜200気圧ぐらい)の空気が入っており、このままだと吸いにくいので適当な圧力に調整する必要がある。タンクのバルブの所につけるファーストステージで気圧をある程度下げ、口に加えるセカンドステージで最終的な圧力になるように調整する。さすがにこれが無いとダイビングはできないのでどうしても必要となる機材である。
オクトパス  予備のレギュレータ。予備なんだからなくてもOK。
ゲージ・コンパス  ゲージとは残圧計、水深計のことである。残圧計は空気の残量を知るために必要なのだが、エアが十分あるうちに、水面に戻ればなくても問題なし。水深計は自分の現在の水深を知るために使う。ということは現在の水深がわかれば不要。水深を調べることぐらい何とかなる。コンパスは水中での方位を知るためのものである。方向感覚が優れているとか、あるいは、コンパスがあっても迷子になるという人にはまったく不要のものである。結局ゲージもコンパスも不要。
タンク  空気を入れておくためのもの。さすがに空気がないと健康にはよくなさそうなので、こいつは必要であろう。もっともタンクだけあっても空気を充填してもらわないと何の役にも立たない。したがって普通の人は自前でタンクを持つことはせず、ダイビングサービスで空気の充填されたタンクをレンタルすることになる。だがダイビングサービスに頼らないお手軽ダイビングをするには購入する必要がある。
その他の機材  これ以外にも、ダイブコンピュータとかダイビングウォッチとかナイフ・フロート・水面着色剤とかいろいろな機材があるが、これらもほとんど安全のためにだけ必要なだけのものだからこの際なしでいこう。

 つまり、タンクとレギュレータさえあればダインビングは可能なのだ。ちなみに空気を呼吸することをあきらめればこれらの機材も不要となるが、これでは単なる素潜りになってしまうので、これぐらいは残しておこう。
 では、以下タンクとレギュレータだけで始めるお手軽ダイビングの実践方法について説明する。もちろん通常のダイビングに比べてはるかに少ない機材で始めるのであるから、若干の手間がかかったりするが、お手軽さのためである。多少は我慢していただきたい。
 また、世の中にはお節介な人が多く、「そんなのは危険だ」とか「おまえはダイビングを甘く見ている」などと難癖をつけてくる人も多いので、お手軽ダイビングを楽しむためにはそういった人からは距離をおく必要がある。
 まず、最初に機材の入手から。普通のダイビングではレンタルするという手もあるが、ダイビングサービスやショップと言ったところはお節介な人の代表みたいなもんであるであるから、さすがにレンタルは困難であろう。となれば購入するしかない。量販店などでとっとと入手してしまおう。それから、普通買ってきたタンクにはエアは充填されていないので、エアを充填する方法を考えなければならない。といってもどうせ詰めるのはその辺りの空気だけなので単なるコンプレッサーさえあればOKである。ほんの200気圧程度入れば十分なので、思い切って買ってしまおう。ダイビングサービスなどで使っているものだって、ほんの小さ目の倉庫に十分入るぐらいである。もちろん、その後は自転車の空気入れ代わりにつかってもいいし、エアブラシなども買っておこう。
 全ての準備が整ったら、いよいよダイビングである。ところで、ダイビングの基本は中性浮力―つまり浮きも沈みもしない状態―を保つ事である。この状態を保てるようになればあとは呼吸の加減だけで沈んだり浮いたりが自由自在となるわけだ。海に入った時に手足をバタバタさせない状態で眉毛のあたりまで沈むぐらいが目安とされている。普通のダイビングではウエィトの量を調整してこの様な状態にするのであるが、ウエットスーツなどを着ずに、タンクを抱えて潜れば大体問題ないであろう。もし沈みぎみだったらブクブク太って脂肪を増やせばすむだけであるし、浮き気味だったら運動でもして筋肉質になって脂肪を減らせばいい。運動すれば健康にいいし、飯食ってごろごろするのはとっても楽だ。どちらに転んでもいいことだらけ、なんて楽なんだろう。
 ちょうどいい浮力になったら、大きく息を吐いて海の中へ潜って行こう。
 ちなみに最初のうちはあまり深いところやボートから離れたりするのはやめといたほうがいいだろう。エアがなくなればレギュレータから呼吸するのが困難になるのですぐわかるが、この時、深いところにいたりするとちょっと不便だからである。もっとも何本かこれで潜ればどれぐらいエアがもつかは判断できるようになるはずである。それから少しずつ深度を増やしていけばいいだろう。ちなみに普通のダイビングではフィンを使ったりしてなるべく体力を使わないようにして、エアの消費を減らしているところがあるので、ちょっとしたストレスや興奮などで、あっと言う間にエアを消費してしまうことがある。だから一般には残圧に注意が必要なわけである。もちろんお手軽ダイビングをする人はこんなことは気にする必要はない。スーツがないので寒さ防止に動き回るし、フィンなんて軟弱なものも使わないから、それ以上呼吸が激しくもならないだろう。したがってエアの消費量もほとんど変動しないはずである。だから時間感覚だけでエアがなくなる前に浮上できるようになるであろう。

 シンプルな機材で楽しいダイビング。さあ、お手軽ダイビングを始めよう!

第三勢力:竹林孝浩



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