普通のサラリーマンでも判る軌道傭兵
用語辞典編
松岡[武装ジャーナリスト]ゆきお
中野[戦略物資調達局・糧食班長]達郎
岩瀬[従軍魔法使い]史明
《凡例》
- この《用語辞典》は、『軌道傭兵』を、理系の専門知識・概念理解にくらい読者にも楽しんで読んで貰うためのガイドブックである。従って用語解説は、航空宇宙関係が中心だが、それ意外にも様々な
用語が含まれている。そのため、あらゆる甲州ファンにもお徳用な記事……になっている……ことを祈る。
- この《用語辞典》は、『軌道傭兵』を読みながら(読み返しながら)使われることを想定している。そのため、1巻から順に頁を追って並んでおり、本編未読の部分を読んでしまうと結果的に
ネタバレしてしまう可能性がある。
- この《用語辞典》は、松岡[武装ジャーナリスト]ゆきお隊員、中野[糧食班長]達郎隊員の記事を元に、岩瀬[従軍魔法使い]史明が追加・修正したものである。
追加・修正は、主に判り易さ及び『軌道傭兵』本編との関連指摘についてなされたものだが、結果的に不正確な記述となってしまった可能性が無しといえない。(本稿での岩瀬の立場は全体編集者ではなく、あくまでこの解説記事全体の文責・レイアウトの責任者であり、寄稿者である
)
- この記事には、一部執筆者として藤田[沖船長]雅人隊員、資料提供に田中[暗号兵]正人隊員、落合[生物資源担当]香月隊員、小野内隆氏、用語ピックアップに天羽[司法行政卿]孔明隊員、岡田[スイカ太郎]恭典隊員、柏谷[King
of BRITEN]のぞみ隊員、段垣[ススムくん]直世隊員、藤井[足軽]泰三隊員、イラストで落合[生物資源担当]香月隊員、佐藤[イラストを描く佐藤さん]伸子隊員、段垣[ススムくん]直世隊員のご協力をいただ
た。
- なお、本編の主題は、決して『谷甲州は間違っている』ではない。5巻の後書きによれば『軌道傭兵』は『実在するいかなる人物、団体、国家、ハードウェア、物理法則、それから航空宇宙軍史、さらに設計思想、ついでに「三六〇〇〇キロの墜死」とも無関係』だそうだ
。
- この《用語辞典》は1993年発行の「こうしゅうえいせい正」に掲載されたもので、一部註釈を追加したもの以外
の内容はは当時のままである。
英略語一覧
ここでは、略語に対応する原語とその訳のみを掲載した。
解説文が必要と思われるものは本文でしているので、そちらを参照されたい。なお、頁は1巻の初出頁である。
- SRB
- 10頁 : 固体ロケットブースター : [Solid ROCKET BOOSTER]
- ET
- 11頁 : ET 外部燃料タンク : [External Tank]
- RCS
- 13頁 : RCS姿勢制御システム : [Reaction Control Subsystem]
- CRT
- 14頁 : TVモニタ : [Cathode Ray Tube]
- OSV
- 17頁 : 軌道作業船 : [Orbital Service Vehicle]
- NASA
- 18頁 : 米国航空宇宙局 : [National Aeronautics and Space Administration]
- OMS
- 23頁 : 軌道エンジンまたは軌道修正エンジン : [Orbital Maneuvering System]
- ASAT
- 44頁 : 対衛星攻撃兵器 : [Anti Satellite]
- SV
- 45頁 : スペース・ヴィークル : [SPACE VEHICLE]
- USAF
- 72頁 : 合衆国空軍 : [US Air Force]
- SDI
- 79頁 : 戦略防衛構想 : [Strategic Defense Initiative]
- NASDA
- 89頁 : 宇宙開発事業団 : [NAtional Space Development Agency of Japan]
- EVA
- 143頁 : 船外活動 : [Extra Vehicular Activity]
- FBI
- 181頁 : 連邦捜査局 : [Federal Bureau of Investigation]
<1巻>
7頁
- ジョンソン宇宙センター
- ヒューストンに所在し、NASAの管制センターがある。フロリダのカナベラル岬にあるケネディ宇宙センターは、打ち上げ基地である。NASAは業務を機能ごとに様々な基地で分担している。
- 『二十年あまり前に……』
- 1986年のスペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故のことを指すわけだが、ここで1巻の設定年代が2006年かその少し後くらいであることが示唆されるわけである。(
当然ながら2003年のコロンビアの事故に関してではない)
- ロケットブースター [ROCKET BOOSTER]
- ブースト(増速)するためのロケット、つまりロケット本体やスペースシャトル等を打ち上げるために使う、切り離し型の補助ロケットの事。取り付けかたは多段式(月ロケットのサターン5型を始め、各国で使われているダルマ落としみたいな形式)や、束ね式(メインのロケット等に巻き着ける、旧ソ連のソユーズ、日本のH-II、アメリカのスペースシャトル等の方式)がある。
ここでは、スペースシャトルの固体ロケットブースターを指す。(SRB参照)
- イントレピッド [INTREPID]
- 原義は英語の形容詞「勇猛な、大胆な」。
- 米国海軍
- 1943年バージニア州ニューポートニューズ造船所にて竣工。米国海軍航空母艦。エセックス級3番艦。1944年2月以来9回の作戦に参加。その間に、艦上機は日本の大小艦船80隻を撃沈。登録番号はCV-9。
戦後一時期予備艦となっていたが、1952〜54年にかけて近代化工事を受けた後、大西洋艦隊に編入される。のち1962年に“CVS”「対潜支援空母」となる。
- 惑星連邦宇宙艦隊 (from STAR TREK)
- 惑星ヴァルカン船籍のUSSコンスティテューション級パトロール船。登録番号はNCC-1708(“1631”説もある)。宇宙暦2437.1、月面ポート・コーパーニカス宇宙艦隊造船所にて竣工。船長名はサタク。のちにUSSエンタープライズによって撃退された巨大単細胞生物の犠牲となり、消失。のちに建造されたINTREPID
II はNCC-1730(ただ、1730はBUNKER HILL だという説もある。
- (機体の)ロール [ROLLING]
- ロール軸(進行方向)を中心として、機体を運動させること。串刺しバーベキューを焼くときみたいに機体が回転する。ここでは進行方向に「背中」を向けたのだが、空気抵抗の関係で、軌道まで斜めに上昇するとき、ETとSRBに「ぶら下がる」姿勢がもっとも安定するからである。
(姿勢制御参照)
8頁
- ミッション [MISSION]
- 蛮地でキリスト教を布教すること。転じて部隊に与えられた作戦上の使命を示す。(例:スパイ大作戦)
航空宇宙関係では、「フライト」と同じ意味。
- ペイロード [PAYLOAD]
- 宇宙船が乗せる荷物のこと。
積載可能重量、積載貨物、貨物室そのものなど、いくつかの意味で流動的に使われるがとにかく貨物室にかかわるものと考えればよい。ちなみに現在のシャトルが低軌道上に運べるペイロードは、23.5トン。
- 第一世代シャトル、第二世代シャトル
- 『軌道傭兵』では、現存シャトル(アメリカのと旧ソ連のブラン=エネルギア)を第一世代、その後継機種(アメリカのSV、 ESAのエルメス、日本のHOPEなど)を第二世代と呼んでいる。
第二世代シャトルは現シャトルよりも小型のものが多い。また、アメリカの第二世代シャトルは、有人小型のSV(スペース・ヴィークル)と無人大型の貨物シャトル(第一世代シャトルと部品等が互換可能)がある。普通の空港から水平離着陸可能な機種(スペースプレーン)が第三世代で、『軌道傭兵』ではシュピーゲルのみがそういわれている。
10頁
- Tプラス××秒
- 打ち上げカウントが0になった瞬間(発射の瞬間)をTとして、それから何秒が過ぎたかを表す表現。(カウントアップ参照)
-
オービター [ORBITER]
- 軌道上飛翔体。広義でいうなら、衛星軌道上にあるモノは、何でもこう呼ばれる権利は持っている。
狭義では、米スペースシャトルで軌道上と地上を往還する有翼のロケット機のこと。
-
固体ロケットブースター (SRB)
- スペースシャトルの固体ロケットブースターは、直径3.7メートル、全長45.5メートル、1基あたり586.6トン(推進剤込みで)。スペースシャトルの構造物の中で、1番重いそうである。
海上に落下した後、回収して数回ほど再使用される。
海面に落ちたSRBを、ソ連のトロール船が回収しようとしたことがあったらしい。
11頁
-
フライトデッキ [FLIGHT DECK]
- 操縦席などの有るフロア(デッキ)の事。デッキというくらいだから、宇宙「船」なのだろう。正副操縦士席と、ミッション・スペシャリストとペイロード・スペシャリストの席が置いてある。その後ろに後部作業区画があるが、仕切りはないようだ。
アメリカの第1世代シャトルは、船首(機首)部分は3階建てになっているが、その最上階(地球上に着陸した状態で)。2階はミッドデッキ。ちなみに最下階(ロウワーデッキ)は生命維持装置その他があり、航行中乗員は入れない。
13頁
-
姿勢制御システム (RCS)
- 反動制御サブシステムとも訳される。ロケット噴射によって機の姿勢をコントロールすること。大気圏内航空機は、翼端などの形状を変化させて空気抵抗による姿勢制御を行なえるが、宇宙ではそれができないため、RCSに全面的に依存している。(人工衛星などではジャイロ等による受動的制御もあるが
『軌道傭兵』には直接登場しないので解説は省略)
ちなみに、2巻30頁では「機位制御システム」という訳語をあてているが、同じものである。2巻ではシャトルの地上に対する「姿勢」を機位という言葉で表しているのでその関係か。同巻91頁では再び「姿勢」制御システムというルビをふっている。
-
- RCSは、3軸制御である。
進行方向と、機体重心でそれに直交する2本の軸を想定する。それぞれの軸を中心に回転することによって、あらゆる姿勢(機位)をとれるわけである。
軌道上の進行方向をロール軸とすると、地球方向(進行方向を「前」とすれば上下に伸びる軸)がヨー軸。そして、残りの方向(進行方向を「前」とすれば左右に伸びる軸)をピッチ軸という。
右手系であらわせば、右手の人差し指がロール軸、親指がヨー軸、中指がピッチ軸である。
シャトルが地上と同様の(腹を地球側に、主エンジンノズルを「後ろ」すなわち進行方向反対側にした)姿勢で航行しているとすると、ヨーイングは、前転ないし後転すること。あるいは船首を「上下に」振ること。ピッチングは、「水平回転」すること。あるいは首を「左右に」振ることである。
-
現実のシャトルオービタのRCSスラスタは、主スラスタ38と補助スラスタ6からなっている。これらは機首及び後部胴体左右に3グループに分けて配置され、各モジュールは加圧システムや推進剤タンクを内蔵した独立の機関となっている。各方位に向けた多重スラスタによって冗長性を確保している
。
14頁
- CRT (TVモニタ)
- Cathode Ray Tube 直訳すれば、陰極線管。航空宇宙軍史から一貫して、谷甲州の世界では、ディスプレイ装置はなんでもかんでもCRTという言葉が使われているような気がするが、ブラウン管以外の表示装置を「CRT」と呼ぶのは、原義から言えば誤りである。
まあ、コアメモリ使ってなくても、「コアダンプ」するぐらいだから、それほど目くじら立てるほどのものじゃないと思うけど…。もちろんなにか他の概念の略語かもしれない。誰かこじつけてみませんか。
- バンデンバーグ基地
- カリフォルニアにある、空軍基地。西部ミサイル試射場ともいい、衛星打ち上げ設備がある。
15頁
- フリーダムU
- 現在計画されているフリーダムと基本的に同設計、構成モジュールと主トラスも同規格だ、とある。(102頁)
ただし、フリーダムの予定軌道は高度460キロだが、フリーダムUは約500キロとある。細部も物語を展開しやすいように微妙にフリーダム計画と変えているようだ。
『軌道傭兵』の世界は、フリーダムがアメリカの財政赤字のため予算を削減され、規模縮小を余儀無くされるという1990年前後の現実とは並行宇宙の世界だ、と考えてよさそうである。縮小後の現フリーダム計画は主モジュールが6つから4つに減らされている(しかもさらに縮小する案が検討されている(涙))が、『軌道傭兵』ではフリーダムTのモジュール増設は限界に達し(少なくとも十個まで増設できる筈だが)、フリーダムUのモジュールも
6個ある。
-
- ヘッドセット [HEAD SET]
- 一般的にはヘッドホンとマイクが一体になった通話機で、ヘッドホン部分は(周りの音や状況を聞けるように)片耳だけにイヤースピーカーが付いているものが多く使われる。
オペレータ時代のセイラさんが、頭につけていたもの。
- 気閘 [AIR LOCK]
- エアロック。空気の閘門(こうもん)ということ。閘門とは、パナマ運河などに使われる、水位の違う部分を通るための通行ゲートで、水位の違う部分を隔てる2重以上の水門と水位調整のための機構を組み合わせて出来ている。これを気圧に見立てたのが気閘
。SFや科学解説書ではエアロックと表記されることが多い。
余談だが多くのゲートを使えば理論的にはヒマラヤの上に船を通らせる事も可能。
17頁
- 与圧服
-
『軌道傭兵』では、いわゆる宇宙服、特に船外作業用宇宙服のことをさしている。高々度航空機のパイロットにも与圧服が必要である。「与圧」とは呼吸可能な気体が密閉されて存在していること。宇宙服は与圧服でかつ気密服でなくてはならない。ここでは服内気圧についての言及があるため、この言い方を選んだのかもしれない。
- ライフサポートシステム[LIFE SUPPORT SYSTEM]
- 生命維持装置。酸素タンク、体温維持装置を始めとした人間を生存可能状態に出来る装置をひとまとめにしたもの。
- 軌道作業船 (OSV)
- 軌道上あるいは軌道間での連絡・運搬を目的とした小型艇。大気圏突入・行動性能はない。
NASAにはOTV [Orbital Transfer Vehicle]軌道間作業艇という構想があるが、ほぼそれに相当すると思われる。敢えて別の用語を使ったのは、現有計画とは違うかもしれんぞ、という虚構の自由度の確保のためだろうか。
- 『気閘のすぐ外にある暴露部の……』
- ここでいう「暴露部」とは、実験モジュールのうち、気密されておらず真空暴露の状態にある実験設備のこと。真空を必要とする実験や密閉与圧部では危険な実験などを行なう。フリーダム(1巻の主舞台であるフリーダムUではなく現有計画の)の日本の実験モジュール(JEM)にも真空暴露部がある。
18頁
- モジュール [MODULE]
- 装置・機器などのシステムを、交換可能な単位に分割したその一つ一つのこと。大規模なシステムの設計には、必ず使われる。モジュールの互換によって一つの装置に様々な機能を与えることができる。また、システムに故障が発生した場合、モジュールごと交換すれば簡単に直る。
ここでは、ステーションの1ブロックのこと。また、後にはシャトルのペイロードや部品などにもこの言葉が使われる。蛇足であるが、アポロ宇宙船の月着陸船は、ルナ・モジュール(LM)と呼ばれた。
宇宙ステーションのモジュールについて補足すると、軌道ステーションは円筒ないし箱型のモジュールをつないでいくことによって成立する。ソ連のミールはモジュールを
つないだだけのもの(もちろん太陽電池パドルやラジエータなどが突き出すのだが)で、単純だがそれだけに信頼性も高い。計画されているフリーダムは、モジュールや太陽電池パドルやラジエータ等を構造的に支える主トラスが存在するところがミールと違う。フリーダム計画には、日本の実験モジュール(JEM)も参加する予定である。
フリーダムUのモジュールは6つ。A実験モジュールはJEM同様暴露部と与圧部(と補給部)がセットになったもので、冒頭で加藤技官が死にかけた。居住モジュールは、米人二人が死んだ場所。その後は管制モジュール・B実験モジュール・観測モジュ
ールを舞台に話が展開し、巻末近くで補給モジュールがちらりと登場する。
- コミュニケーション・キャップ[COMMUNICATION CAP]
- 与圧服のヘルメット部分に組み込まれている通信機。性能は良い。
20頁
- エマージェンシー・バッグ [EMERGENCY BAG]
- 与圧服の予備がない場合、あるいは着せる時間が無い場合、人間を押し込めて避難させる気密性の袋のこと。事故などの緊急時に使う。
「山寺の和尚さん」を想い浮かべては、加藤技官が可哀想である。
- ゼロ・パスカル
- 要するに「真空」だ、ということ。
パスカル(Pa)は、国際単位系(SI)の組立単位の一つで、圧力の単位。ここでは気圧の単位。SI基本単位ではN/m2。また、1バール(bar)=100000Pa。従来、天気図などで使われていた1ミリバール(mb)は、100パスカルすなわち1ヘクトパスカル(1hPa)と等しい。
ちなみに標準大気圧(1気圧)は、760mmHg=101325Paである。
なお、「真空」といっても様々な程度がある。高度500キロの気圧はおよそ1千万分の3パスカル、地表気圧のおよそ1兆分の3。このレベルの『大気』でもステーションは若干の減速を受けてしまうのでフリーダムには軌道修正用のスラスターが取り付けられる予定である。この理由で198頁では、軌道の進行方向側が『オレンジ色に発光している』という描写がある。
23頁
- 軌道エンジン (OMS) [Orbital Maneuvering System]
-
オービタ(シャトル本体)が軌道遷移するためのエンジン。オービタの主エンジンは衛星軌道に上昇するために使いきられてしまうので、軌道上ではこれが事実上の主エンジンとなる。
24頁
- インディケーター [INDICATOR]
- 計器の表示装置。計器盤、表示パネル、あるいは運転席のメーター盤など。松本零士なら、時計のようなレーダーのような形になるだろう。
30頁
- プラットホーム [PLATFORM]
-
ここでは、真空暴露実験装置類の設置基盤である。暴露部付きのモジュールを外からみた光景を秋山は飛込台にたとえている。雑多なものをあれこれ置いたベランダがつきだしてい
るようにも見えるだろう。
原義としては教壇/演壇などの意味らしい。何かを乗せるための、乗り物/荷台/マシンの意味で、様々に使われる。客車後部の乗降段の意味もあるとか。よく聞くのは、鉄道の駅の乗り場ぐらいだろうか。ちなみにF-4ファントム戦闘機は、ミサイル・プラットホームと呼ばれていたらしい。
小規模な宇宙ステーションをプラットホームと呼ぶこともあり、また衛星や大気圏突入カプセルを搭載する場所をも指すが、これらの用法も後の巻に登場する。
32頁
- 太陽電池パドル[SOLAR CELL PADDLE]
-
宇宙空間に展開されている、太陽電池を実装したパネルのこと。
パドルの原義は、カヌーの櫂のことで長方形のパネルとその付け根全体を指した形状がパドルを連想するから。日本人なら羽子板を連想する形である。
ちなみに人工衛星の電源はたいてい太陽電池なので、人工衛星の一番ありふれた形は、『2枚ないし4枚の羽子板を広げた箱』である。
- ラジエータ [RADIATOR]
-
放熱器。宇宙空間では、接触伝導も空気による対流もないので熱を捨てることが大問題となる。熱容量の高い物質を捨てる……というのは緊急の場合以外考えるべきではなかろうから、普通は電磁波の輻射によって捨てる。輻射エネルギーは面積に比例するので、できるだけ広い表面積をもち、またせっかく捨てた熱輻射がまた戻らないよう、放熱面が向かい合わないように工夫する必要がある。
この辺りのことは、アクエリアス計画で触れられているはずなので、気になった方は、そちらをどうぞ。
- トラス [TRUSS]
-
一般的には「トラス構造」または「トラス構造物」の事。「トラス」とは、主に応用力学で使う言葉。
これは建造物の構造の1種。構造物を構成する部材が軸力のみを受ける場合(の骨組み構造)で3角に枠を組み合わせた形を基本とする。建造物に掛かる力(応力と言う)を、出来るだけ少ない構成部品で旨く分散し、軽量で頑丈な建造とする構造方法と考えればよいだろう。主に、橋などの建造に使われているので、気がついたら鉄道橋などを観察して欲しい。
フリーダムの構造を簡単にいうと、主要モジュールや太陽電池パドルなどを主トラスにとりつけたものである。
36頁
- アンカー [ANCHOR]
-
原義は錨。船外作業時の安全を確保するため、固定する部分。重力的に錨の役目をさせる重りなど(バランスウェイト)を指す場合もある。
ここでは「アンカーボルト」の略称である。アンカーボルトとは、命綱を引っ掛けるための部品で、つまり「輪」とか「コの字型取っ手」等の形をしていて、始めから命綱を引っ掛けるために用意されているものを言う。
- ガイドロープ [GUIDE ROPE]
-
行き先へ案内する為のロープ。このロープを手繰っていけば、間違うことなく目的地に行ける。
40頁
- コンソル [CONSOLE]
-
表示装置、計器、操作機器が並んだパネル。計器盤。非常に大雑把な言い方をすると、インディケーターは計器単品であり、コンソルは(インディケーターが色々いっぱい有る)計器盤と言えるだろう。飛行機や自動車の運転席のコンソルは、コクピット・コンソルとなるワケだが、略してコクピットと呼ぶほうが通りがよい。
- G(重力)
- 地球の重力(正確には地表面での重力加速度)を基本単位にした加速度の単位。ちなみに1Gは、約 9.8m/sec2となる。
44頁
- 対衛星攻撃兵器 (ASAT) [Anti Satellite]
- 広義では衛星攻撃兵器一般、狭義では成層圏で加速・上昇したF-15から発射されるべく開発された対衛星ミサイルを指す。『軌道傭兵』では主に狭義の定義で使われている。
45頁
- スペース・ヴィークル (SV) [SPACE VEHICLE]
-
広義には有人宇宙船を指し、狭義には滑空飛行帰還型、要するにスペースシャトルのような飛行機型の宇宙船(軌道往還機)を指す。しかし、『軌道傭兵』の中では、アメリカの第二世代シャトルのうち有人・小型のものを特に指しているようである。また、シャトルという言葉が軌道往還機一般を表しているようだ。60頁に「HOPEとエルメスはSVと同じクラスの小型シャトル」とある。
『軌道傭兵』中にはヤンキー・クリッパー、コンスティテューション、ダイナソアなどがSVの固有名として登場する。ちなみにスペース・プレーンというのも現在構想されているが、こちらは水平離着陸が可能なタイプで、ステーションへの人員物資補給・低軌道への衛星打ち上げ・大陸間の超高速輸送に期待されている。
『軌道傭兵』ではゼンガーUが唯一のスペースプレーンだが、ゼンガーのさらに次世代として、長大なカタパルトで加速して離陸する、母機のいらないタイプの構想も現存する。
50頁
- 貨物シャトル
- NASAの現計画にある「シャトルC」にほぼ相当すると思われる。アメリカの第二世代シャトルのうち、無 ・貨物専用シャトルのこと。シャトルCのSRBやETのサイズは現シャトルよりやや小型だが、無人であるだけペイロードはむしろ大きくなる。『軌道傭兵』の貨物シャトルのSRBはそのまま第一世代シャトルに流用可能(違うのは安全基準だけ?)になっているので、シャトルCと同一というわけではないかもしれない。
52頁
- ケーシング [CASING]
- 外装部分。船殻、外装、ケース、本体外殻部分などをさす。
53頁
- ヤンキークリッパー [YANKEE CLIPPER]
- SVの固有名の一つ。直訳すると、「アメ公のメチャ速い船」
- ダメージコントロール
- 損傷やトラブルに対する対策(システム)一般。実用的な意味で「優れたハードウェア」は、ダメージコ ントロールに優れていなければならない。
55頁
- ペイロードスペシャリスト(貨物要員)
-
ここでは『貨物要員』と訳語をつけているが、後述の事情で日本では『搭乗科学技術者』と訳されることが多い。現在、NASAはシャトル搭乗宇宙飛行士を三つに区分しているが、その一つ。それぞれを以下
に簡単に説明する。
- パイロット
-
スペースシャトルの操縦士。一千時間以上の高性能ジェット機の機長経験を持ち、また工学、物理学、数学、または生物学の学士、またはそれ以上の資格が必要。身体条件は大変厳しい。
- ミッションスペシャリスト(MS)
- シャトル運用の協調について全体的責任をもつ。また船外活動やマニュピレータ操作をおこなう。工学、
物理学、数学、または生物学の学士で、三年以上の学術経験が必要。医者やエンジニアがなったりする。
シャトルの業務=ミッションの運用管理責任者ということになる。
- ペイロードスペシャリスト(PS)
-
シャトル搭載ペイロードを扱う専門家。自分自身がただのお荷物(ペイロード)になってしまう人間を軌道に打ち上げるプログラムは今のところない。身体基準も前2者より緩いが、それでもけっこう厳しい。
なお、日本のNASA宇宙飛行士はいずれも宇宙実験を主任務にしているので、搭乗科学技術者と訳したりする。飛行士としての訓練は前2者よりずっと緩いが、限られた時間と空間そして未体験の環境・設備の中で最大限の実験を行なうための訓練は相当大変なようである。
59頁
- コンスティテューション [CONSTITUTION]
- 原義はUSAの憲法。ここではSVの固有名の一つ。新型機の1号機/艦には、この名前をつけるのが伝統らしい。例外としては、旧世代シャトルの1号機(結局、宇宙には出なかった)にエンタープライズが存在する。
- HOPE
- 日の丸シャトル。有翼回収機というらしい。
初期計画では無人機だったが、後の構想拡大で、数年間の無人運用で実績を積み上げたあと、有人化する計画になった。『軌道傭兵』4巻でも、その辺の事情がと反映されている。
- エルメス [HERMES]
-
原義はギリシャ神話のヘルメス、ゼウスの息子にして神々の使者、旅人と泥棒と商人の守護神。ここではフランスを中心とする欧州のシャトル。資料によっては「ヘルメス」と記されているものも。アリアン5型ロケットで打ち上げる垂直発射型である。現計画では1995年に初飛行の予定(だった)。
65頁
- カウントアップ [COUNT UP]
-
打ち上げカウント0、つまり発射時間より何「秒」経過したかを示す数字が一般的に使われて表示される。これにより、ロケットやシャトルのスケジュールが正確に進行しているか、例えば補助ロケットの切り離しやシャトルの到達高度などが正常かを判断する規準となる。単にカウントダウンの逆を行なっているのではなく、アップとダウンでは、その数字が指し示すものの意味が違う。
70頁
- 軌道要素 [ORBITAL ELEMENTS]
- ケプラーの法則にしたがって運行する、天体(人工物体も含む)の状態を示す6個の定数のこと。
73頁
- 遷移
- ある軌道から別の軌道へ移ること。
76頁
- 光学センサ [OPTICAL SENSER]
- 光(可視光線)を検出して、信号に変換する機器の総称。セレン素子・CCD等がある。
一番、身近な光学センサとは、人間の眼である。
ときには可視光線の他に赤外線や紫外線を含めることもある。双眼鏡からデジタルカメラまで様々だが、
センサと呼ばれるのは、その観測機器部分、例えばデジタルカメラとか高精度望遠鏡&フィルムとか暗視装置とかを指し、その映像を分析する部分(コンピュータ等)はセンサには含めない。含める場合は、「センサシステム」と呼んで全体を表す。
- キラー衛星 [KILLER SATELLITE]
- 軌道上の物体を攻撃するための人工衛星。
目標となるのは、多くの場合、敵対する勢力の持つ人工衛星である。
武装としては大別して自爆して破片で衛星の機能を奪うミサイル攻撃型と、化学レーザや中性子ビームなどのエネルギー兵器を使うビーム攻撃型がある。
- キャニスター [CANISTER]
- 格納容器。日常英語では茶・珈琲・タバコなどを入れておく缶などを指す。ここでは、レーザを反射させるためのミラーを折畳んだものを格納する容器。
『軌道傭兵』の世界では、地上から発射して衛星を破壊できるレーザが実戦配備されており、そのオプションユニットみたいなもの。はっきりいって『ヤマト』の反射衛星砲そのものである。
77頁
- 近地点
- 地球を焦点とする長円軌道上を運行する天体(人工物体も含む)が、軌道上で最も地球に近づく点。近日点ともいう。その逆は遠地点。
79頁
- ソ連 [USSR]
- いずれは、ロシアか、CISか、どちらかに差し替えるのだろうか。
ひょっとすると、全然違う名前になっているかも…大中華人民帝国ロシア自治区とか…。
しかし我々の世界との違いが他にもずいぶん出来てしまったので、『軌道傭兵』の世界はソ連の崩壊が20十年ほど遅いパラレルワールドだという解釈が最も妥当かもしれない。
- 戦略防衛構想 (SDI) [Strategic Defense Initiative]
-
ロナルド・レーガン大統領政権下、ソ連の「戦略核ミサイル」の攻撃を宇宙空間で全て防御するという構想を元に進められた計画。
ソフトウェア工学上の難問の一つだったが、完成を待たずに中止されたプロジェクト。完成する前に、肝心の敵が自滅してしまったので、その意味では成功と言えるのか
もしれない。ペーパープランのみで、同業他社を葬り去るところなんざ、かつてのIBMと一緒かも。
ところで、この付近をよく読むと、『軌道傭兵』の世界ではSDIが実戦配備されている世界だということがわかる。
83頁
- ファルコン
-
ジェネラルダイナミック社製の単発ジェット戦闘機F-16の愛称、ファイティングファルコンの事。軌道傭兵の時代も、コストパフォーマンスの良さが受けて、定番商品となっているらしい。
兄弟機のF-15(イーグル)に比べれば、多くの自由圏(そうくくると、語弊の出る国々もあるが、あえて無視)諸国に販売されている。日本のFSXは、F-16を原型として開発されるとの話だったが…。
ちなみにシティ・ハンターの戦友である、海坊主こと伊集院氏の別名ではない。
89頁
- NASDA (宇宙開発事業団)
- 1969年10月に、科学技術庁の主導で設立。
なお、日本のロケットは、東大系の機関である宇宙科学研究所(ISAS)でも打ち上げられているが、そちらはほぼ科学観測衛星専門。
90頁
- 『自衛官の海外派遣はできないことになっている』
- 『軌道傭兵』が書かれたころの話。
91頁
- 静止軌道 (静止衛星軌道)
- 高度36000キロの軌道は地球の自転と同じ24時間なので、軌道傾斜角が0(赤道上)ならば、この軌道上の物体は地上から
見て相対的に静止していることになる。
ここでは、静止衛星軌道が高度36000キロの地点にあり、地上から直接昇るには相当なエネルギーが必要であることに留意されたい。現有シャトルでいえば、低軌道打ち上げペイロードは29.5トンであるのに対し、静止衛星軌道は2.3トンに過ぎない。また、
低軌道から静止軌道へ到達するのに必要な速度増分は 3.8km/sec、月周回軌道までに必要な速度増分は4.1km/secとわずかな差しかない。
93頁
- マイクロ波レーダ
- いわゆる普通のレーダ−。
MU-2は、青緑色レーザ・センサを使った、最新式の潜水艦監視システムを搭載しているものと推測される。レーザ・レーダ(ライダともいう)は普通のレーダよりも狭い範囲を精密に観測できる。くわしくはアクエリアス計画参照。
99頁
- バイザー [VISOR]
- 兜の面頬が原義。
与圧服などフルフェイスのヘルメットの、顔を覆っている部分。ここを割られると、致命的である。
- 『バイザーが急速に色を変えた』
-
宇宙での日射は、大気による減衰がないため地上よりも厳しく、しかも短波長紫外線等の有害光線を含んでいるので、現在のバイザーは
金を薄く蒸着させている。『軌道傭兵』では光量に自動的に反応して透過光量を調整する素材で作られているらしい。従って、船外活動中はバイザーはたいてい真黒にみえ、着用者の顔はほとんど見えない。後にそんな場面も登場する。
100頁
- バックパック [BACK PACK]
-
背中に背負うもの一般が原義だが、宇宙では、酸素ボンベ・体温維持装置など生命維持装置群を背負う型式にまとめたもの。目的により色々と加わることもある。例えば無重力空間での移動用のロケットシステム(MMU)
など。
- 移動ユニット
- 無重力空間での移動用のロケットシステム。巨大なランドセルに、あらゆる方位に対応したガス噴射スラスター(噴射口)がついたもの。NASAではMMU(Manned
Maneuvering Unit)と呼んでおり、24個の窒素ガス噴射スラスターがついている。
- 格納フレーム
- ここでは移動ユニットの収納場所。
- 噴射ガスシリンダー
- 移動ユニットのガス銃に使われる、ガスの入ったカートリッジ。
101頁
- バーニヤノズル [VERNIER NOZZLE]
- 補助推進機のガス噴出口。
ちなみにバーニヤ[VERNIER]の原義は「副尺」、すなわち物差しの目盛り以上に細かく読み取るための道具で、考案者の名前をとったもの。(普通の辞書にはその意味しか載っていない)そこから転じて、機位変更や微妙な加速減速のための補助推進装置をこう呼ぶようになった。
- ヨーイングバーニア [YAWING VERNIER]
- ヨーイングは、「RCS」の項を参照。
104頁
- 主トラス[MAIN TRUSS]
-
一般的には、構造物の基幹となるトラス構造部分を言い、普通は強度的に一番強い、いわば大黒柱となる部分を指す。しかし、かなり長期間使って増設を繰り返した場合は、必ずしも強度が一番高い部分とは限らない。
ここでは、フリーダムタイプの、宇宙ステーションの基幹となるトラス構造。
105頁
- ピッチング [PITCHING]
- ピッチングは、「RCS」の項を参照。
108頁
- 連結ラッチ
- ラッチ[LATCH]は、かけがね、かんぬきの意。
ここでは宇宙服(あるいは背負ったバックパック等)と移動ユニットとの結合部。
120頁
- ブリーフィングルーム [BRIEFING ROOM]
- 作戦命令を伝達する部屋。この場合単に「会議室」と考えた方が判りやすいかもしれない。
136頁
- 『つっこんできた角度が深すぎて、レーザ発振機の死角に入っていた』
- フリーダムのレーザは、150頁で「飛来する人工物体を至近距離で破壊する」ためのものとされている
。隕石対策ではないのである。といっても本来は戦闘用でもない。
人類の宇宙開発が進むにつれて、軌道上にたくさんのゴミが浮ぶようになった。宇宙ではモノが腐ることもなく、そこそこ安定した軌道に載ってしまえば、大気圏まで落下して焼きつくされることもないからである。こういった微小宇宙ゴミをデブリというが、しばしば大変な相対速度をもつことになるので、その対策が現在苦慮されつつある。
『軌道傭兵』中のフリーダムUは、デブリ対策として、数が多い小型のデブリについては外壁の耐衝撃吸収構造、滅多にこないはずの大型のデブリに対してはレーザ狙撃して破壊する手段を選んでいる。
離心率の高い軌道をもつデブリは、近地点で減速されて墜落・消滅しやすいのでデブリとステーションの軌道が交錯する角度が軌道から深い角度を持つ確率はごく低い。つまり、地球側から、あるいは(地球を「下」として)上方から飛来する物体への迎撃は、必要性が非常に低いためにその性能をもたなかったわけである。
143頁
- EVA (船外活動) [Extra Vehicular Activity]
- 2巻8頁では「船外作業」というルビがふられているが同じ。宇宙での船外作業だから、当然宇宙服と生命維持装置が必要。
144頁
- ガス銃 [GAS GUN]
- 船外作業で支えのないところで移動するための装備。移動ユニットほどの自由度はない。
145頁
- カーゴベイ [CARGO BAY]
- スペースシャトルの貨物室の事。
初代シャトルの場合、長さ18.3メートル。直径4.6メートルある。カーゴベイは天井が二つに割れて開く、ガルウィング型の開閉をするが、軌道上では熱放射のため、原則として開放した状態で航行する。
シャトルには本来武装など存在しないので、ここではカーゴベイにレーザ発振機を取り付け、フライトデッキで制御している。
146頁
- ミッドデッキ [MID DECK]
-
シャトルのオービターの前部は、三階建てになっている。ミッドデッキは、その二階部分。乗員の居住区となっている。ちなみに、その上にフライトデッキがある。
149頁
- ミッション・スペシャリスト
- 『ペイロード・スペシャリスト』の項参照。
150頁
- 『……あのレーザでOSVを破壊するのは不可能だ。飛来する人工物体を、至近距離で破壊するための装備だからな』
-
もちろん不可能ではないわけだが、この台詞は別に谷甲州が迂濶だったわけでもノリス少佐が飛抜けて無能だったからでも無い。後書きにあるように、『宇宙が戦術的戦場として認識されていない』時代ゆえの、いかにも軍人らしい勘違いである。
近距離破壊用のレーザ光は、遠方まで狭い範囲に収束できる、貫通力の高いレーザは構造上発振できない。しかしある程度の範囲に高エネルギー照射できることに変わりはなく、出力自体が高ければ、外壁を貫通しないでも生命維持システムや動力部などに致命的な損傷を与えることは容易である。精密な制御システムは外壁そのものよりもはるかに熱に弱く、宇宙での放熱は地上のそれよりもずっと困難なのだ。
ただ、軍用に対レーザ外装(表面反射率を高めるだけで効果が大きい)なり機動力を高めた機体には、広範囲照射は効果が薄い。そのため(宇宙経験の浅い)軍人はかえって危険性を見落しがちだったのだろう。
167頁
- イントレピッドはほとんど垂直の姿勢で接近を続けている。機体の前方は、地球に対して上方となる。
-
主ノズルを地球側に向け、地球を『下』とするといわば直立姿勢で近寄っている理由は二つ。一つは、背面のレーザをフリーダムに正対させるため。もう一つは、軌道上でごく緩やかに接近する場合は、軌道の進行方向にそってでないと難しいからである(『後方』からなのはイントレピットが低軌道から昇ってきたため)。
171頁
- 指名排他通信
- 特定の人間、と言うよりは特定の通信機を指定して、それ以外とは通信できず、傍受もされない通信で、いわば秘話機能の通信。
172頁
- マニピュレータ [MANIPULATOR]
-
いわゆるマジック・ハンド。遠隔操作の人工腕・指。ここでは関係無いが、ごまかし屋という意味もある。操作端末機器には、人間が直接動かして、その動きを忠実に再現するものや、レバーやコンピューターなどで指令を出して動かすものがある。
177頁
- スラスタ [THRUSTER]
-
反動推進装置を指すもっとも一般的な呼称。ロケットエンジンでもジェットエンジンでも、主推進も補助推進でも、恒星間ロケットのでも個人用移動ユニットのでも、全部スラスタである。
ちなみに[THRUST]の原義はぐいぐい押すこと、転じて推進力の意。また、一般向けの辞書を引くと、[THRUSTER]の項には「ぐいぐいと人を押しのけるタイプの人」という意味しかのっていない。
203頁
- カウンターウエィト [COUNTER WEIGHT]
- 質量を使ってはずみをつけたり、バランスを取ったりするための重り。
ここでは、自由落下中(無重量状態)投げたことによる反動で、移動ベクトル(方向・速さ)を変えるために使われている。
223頁
- リペアキット [REPAIRING KIT]目
- 修繕用の道具のセット。ここでは(宇宙服などの)修理用機材を個人携帯用にコンパクトにまとめた物。
<2巻>
9頁
- アクセス孔
- フライト・デッキとミッド・デッキの間の通路。覗き穴のような小さなものを連想してはいけない。
10頁
- 『「……お前の親会社が……」(ハスミ)
「CIAでしたら……」(チャペック」』
-
この会話で窺えることは、チャペックがどうやらもともとCIAの人間であることだ。といっても、巨大機構であるCIAには様々な職分があるので、純然たる諜報畑……いわゆるスパイとは限らないし、描かれ方からするととてもそうとは思えない。
例えば4巻冒頭でハスミ大佐にくっついている義理はもはや無いはずだが、彼とCIAのコネクションを窺わせる描写はどこにもなく、お目付役を秘かに命ぜられているわけでもないように見える。ハスミ大佐に人生を変えられてしまった男だが、もはや開き直
って楽しんでいるみたいでもある。
11頁
- ドライフーズ [DRIED FOODS]
-
乾燥食品。燃料電池を使うときに水ができるため、飲食用の水にはあまり苦労しないそうだ。ちなみに宇宙で最初に箸を使ったのは、あのエリスン・鬼塚中佐であるらしい。
- コクピット
-
操縦席の事で、通常は、あくまでも操縦に直接かかわる席を指す。フライトデッキとは別である。ちなみにフライトデッキとは操縦席(コクピット)のある階層の事であり、操縦席の後ろに通信席があろうがシャワーがあろうがトイレがあろうがミサイル管制席があろうがカジノがあろうが、すべてひっくるめてフライトデッキとなる。
- ベルクロ
- マジックテープの事。ベルクロは商品名。糊も磁力もなしで簡単に着脱できるこれは、無重量状態での物品固定などに重宝する。
- フライトコンピュータ [FLIGHT COMPUTER]
-
航法用のコンピュータ。ちなみにシャトル運航はコンピュータ制御による部分がほとんどで、パイロットの仕事は算出された制御データを入力することが主。操縦旱を握るということはほとんどないらしい。とはいえ入力データをほとんど暗算でとっさにやってるシーンが『軌道傭兵』の随所にあり、これが『操縦旱を操る』に近いといえそうだ。
12頁
- エレボン
-
昇降舵。飛行機の翼についているフラップみたいな物。シャトルでは、主翼の後縁の部分。エルロン(主翼)とエレベータ(水平尾翼)を兼ねた大気圏飛行時の舵面。
エレボンがきく状態というのは、つまり大気圏に降下して、舵のきく状態である。こういう状況下でうどんを食おうと言い出すなんて、ものすごいおっさんである。
13頁
- ギャレー [GALLEY]
-
船・航空機の炊事室。地球上の飛行機(旅客機)では単なる調理場みたいなものだが、スペースシャトルなどでは食料貯蔵庫と調理場と食堂を合わせた役目を持つスペースのこと。単純に食堂と理解すればよい。ミッド・デッキの左横部分にあるそうな。
16頁
- クルー・モジュール
-
カーゴベイに積み込まれることのあるモジュールの一種。簡単にいうと汎用与圧・気密箱(部屋)で、カーゴベイの他のペイロード(このときはカメラなど)を制御するコンソルがついている。ミッドデッキとは連絡トンネルでつながっている。
23頁
- 表面ステルス処理
- レーダーに映りにくいような加工を施すこと。
おそらく、電波吸収塗料を塗布し、反射率を低下させるような表面形状をしているのだろう。
ちなみに瀬戸大橋のような大きい橋にも、船のレーダーの邪魔にならないような加工が行われている。
51頁
- 交渉開始価格(スターティング・プレイス)
- 売り手が最初に吹っ掛けてくる言い値。取り引きの際、まず値切るのが関西の常識・世界の常識である。
54頁
- 集熱パラボラ
- 太陽熱発電装置に使う太陽熱を集めるためのパラボラ(凹面)鏡。
太陽発電には、光電池をつかって直接発電する太陽光発電と、集熱パラボラと熱媒でタービンを回して発電する太陽熱発電の二種がある。前者の方がエネルギー変換効率は低いが駆動部がないために信頼性は高い。有人基地では、両者の特徴を生かして併用することになるであろう。フリーダムの現計画では、熱発電出力を
2/3、光発電出力を1/3としているようである。また、太陽光が食などで届かない時期もあるので、電力を貯蔵する為に燃料電池を使うが、これは化学エネルギーの形で電力を蓄え、必要なときに再発電するシステム。
56頁
- 軌道往還機
- スペース・シャトル類の総称。衛星軌道と地上を[往還]できる宇宙機。
あるいは、外部燃料タンクやブースターロケットなどといった附属品(補助部品)以外は、いっさい切り離さないで機体丸ごとを宇宙(軌道)と地上を往復させられる宇宙船のこと。アポロやソユーズやアリアン等は、機体本体を切り離してしまうので軌道往還機にはならないが、サンダーバード3号は一般的なロケットの形をしていても軌道往還機に含まれるかも知れない。
63頁
- ソ連のバルソフ
- 『軌道傭兵』にはソ連(ないしその後継国)の記述がほとんどないので、現在ロシアが開発所有しているエネルギア/ブラン(エネルギアがSRB、ブランがオービター本体)との関係は判らない。
- シュピーゲル [SPIEGEL]
- ドイツの開発した第三世代シャトル。『未来の名機たることを約束されている』。
キャプテン・ウルトラの愛機。
ちなみに原意は「鏡」。
どれくらいのサイズか、『コンパクトな機体』としか本文には記述が無いが、母機を同じくすることころからみて、現計画の子機よりさして大きくはないだろう。
シュピーゲルは機種名らしいのだが当初の固有名は作中に登場していない。読者にとっては固有名はあくまで「イントレピッドU」なのである。(ゼンガーU参照)
68頁
- 十勝宇宙センター
-
現実には存在しないが、計画が無いわけではない。東北なども候補地に挙がっている。しかし我々の宇宙では広大な敷地を擁する基地が日本につくられるのがいつになるか見当もつかない。
93頁
- ブースター [BOOSTER]
- 宇宙関係では、主に増速用の補助エンジンの意に使われ、ふつう切り離し可能である。
より一般的には、ブーストするもの、直訳すると押し上げたり吊上げたりするもの。それから生じて飛行機や宇宙ロケットなどの離陸を補助するエンジン(ジェットやロケットなど)や切り離し式の機体をブースターと呼ぶ。また、何かの圧力等の上昇を補助する機器を指す場合もある。ちなみに、自動車のターボ(ターボチャージャー)の過給圧を、ブースト圧力という。
94頁
- 軌道傾斜角
- 軌道要素のひとつで軌道面と地球赤道面の交叉角度。
- 離心率
- 軌道要素のひとつで、軌道面の長円がどの程度ひしゃげているかを表わす。
95頁
- 昇交点
- 軌道要素に関係した概念のひとつで、軌道面と地球赤道面の交点のうち、軌道飛翔体が南から北へよぎる方の点をさす。
- 『ミールの軌道要素はフリーダムより低いから、軌道周期はフリーダムより長かったはずだ。』
- ここはケアレスミスだと思われる。軌道要素が低いほど軌道周期は短くなる。次の段落以降は正しく、「フリーダムはミールに追い越される」等となっている。
139頁
- デジタイザ
- アナログデータをデジタル化してコンピュータ処理可能な形にする装置のこと。
ここでは、TV画面に送られる画像情報をデジタル化して機載コンピュータ内の画像処理ソフトが処理可能なデータに変える装置。
143頁
- ファランクス・バルカン
-
アメリカ海軍や海上自衛隊の水上戦闘艦艇が装備する、レーダー連動自動迎撃式の20mm口径ガトリングガン。飛んでくるミサイルを、弾幕で叩き落とすために使われる。照準などは、艦艇とは独立した自己搭載レーダーによるので、母艦の被害に余り左右されずに作動が出来る。
- 多銃身機銃
- ガトリングガン。1862年米国の発明家が特許を取っている。
銃身を束ねて回転させることで、螺旋状のカムにより、それぞれのボルト(遊底)を前後させて、順番に装填、撃発、排莢を行うことができる。(クリント・イーストウッドが、棺桶の中に入れて引きずっていたのが、手回しのガトリングガンだったと思う)
その後、ガス圧や反動を利用して、ボルト(遊底)の往復を行う、単銃身の機関銃が登場したため、外部動力を必要とし、機械的に複雑なガトリングガンは、すたれてしまったのだが…
その後、回転数を上げることで、どんどん発射速度が高くなるなどの特長を再評価され、バルカン計画の名のもとに、再デビューを果たした。
現在の活躍状況は、御存じの通りである。
- トルク
- 回転力。
支えの無い軌道上で、重心を通る軸線上以外の向きに質量を投射すると、必ず回転運動が始まってしまう。宇宙で固体弾を投射する兵器を使う場合、特に短時間に連発したい場合、もっとも問題になるのはその点で、これでは照準ができない。ここでは、正対方向にまったく同じ運動量の物体を投射する……要するに、『常に正反対方向に同時に同じように撃つ』ことによってその問題を解決したのである。当然、狙った側の反対側はまったくの無駄となる。なお、真空でもほとんどの火薬は爆発する。化合すべき酸素などは火薬内に含まれており、そうでなければ爆発=極めて急速な燃焼反応は起り難い。
- 支持架
- 銃などを取り付けるための台座のようなもの。
195頁
- 後部に有る作業区画
-
シュピーゲルの後部作業区画はアメリカのシャトルと違って、コックピットと気密隔壁でしきられている。作業区画の代替制御機能をいかすためにはそれが必然といえるかもしれない。
200頁
- 気密服
- 空気が密閉されている服。ここではいわゆる宇宙服。
202頁
- ライフライン
-
命綱、生命線(と言っても手相ではなく補給線とかの意味で使われる)。例えば石油や、その輸送ルートは先進国のライフラインと言える。「軌道傭兵」では通常は命綱の意味で使われている。
3巻
11頁
- 環境支援システム [ENVIRONMENT SUPPORT SYSTEM]
-
宇宙船内部の船内環境の維持を行うシステムの総称。なお、シャトルで[システム]と呼称されるものは、コンピュータ制御部とそれが統御する様々なハードウェア(RCSならスラスタ、環境支援システムならラジエータやガス交換部や空調などなど)全体を指しているようだ。
13頁
- ヒートカッタ [HEAT CUT]
- 熱による切断器。ここでは、カルロス君のお手製の改造スイス・アーミー。
22頁
- 熱防護シート
- どうやら、反射性のコーティングを施された高分子製のシートらしい。
宇宙空間で外部から与えられるほぼ唯一の熱源は太陽光である。食にならない限り宇宙に『夜』はないし『曇り』にもならないから、太陽光を全部吸収すると、毎分2cal/cm2の熱量が増加する。表面反射率によってずいぶん違うわけである。
35頁
- 搭載モジュール
- 実験設備、プラント、生命維持装置等、シャトルのカーゴベイに搭載されたモジュール。(モジュ ール参照)
36頁
- スペースラブ (軌道実験室) [SPACE LAB]
- シャトルの荷物室に搭載される、宇宙実験室の愛称。NASAの予算が足りなかったので、実際の開発を担当したのは、ESA(欧州宇宙局)だとか。
- ゼンガーU [SANGER 2]
- ターボラムジェットエンジンで滑走路から水平離陸する、シュピーゲルの母機。
ドイツのゼンガー計画は、母機とその「背中にしょわせる」子機のセット(子亀をしょった親亀型)からなる、水平離着陸できる完全回収型宇宙機……つまりスペースプレーンである。
子機を背負った母機が滑走路から水平に離陸(普通の航空機同様に)し、成層圏で子機が母機から発進する。母機はそのまま地上に戻って水平着陸する。子機も航空機型フォルムをもっており、地上帰還は水平着陸である。つまり、母機・子機とも水平離着陸によって完全回収されることになる。
命名の由来は、第2次世界大戦中、ドイツで有翼ロケットの研究をしていた、オイゲン・ゼンガー博士から。大気圏外に出て、上層大気でジャンプしながら飛ぶ、飛行爆弾の設計をしていたらしい。ところでその『異常兵器もどき』がゼンガーTなのである。だから、単にゼンガーというときも、たいていゼンガーUと同一と考えてよい。
現計画においては、有人子機をホールス、無人子機をカーグスという。『軌道傭兵』では既にこれらの子機は運用されている旨記述がある。シュピーゲルは既存子機の機能・出力を最新技術や互換モジュール採用により大幅に向上させたものと思われる。
アメリカにもスペースプレーンの計画は現存するが、『軌道傭兵』の世界では実現していないようだ。つまりシュピーゲルは『軌道傭兵』の世界における唯一のスペースプレーンなのである。
38頁
- 余剰熱廃棄システム
-
機内に発生した熱や外部から受け取った熱量のうち、適当な量を回収してラジエータ(船外に突き出した放熱パネル)から捨てるシステム。機内の熱バランスのコントロール(異常高温部や低温部をつくらないようにする)もしているはずで、コンピュータ制御されている。
39頁
- 耐熱ブロック
-
シャトルの外壁は、大気圏突入時には場所によっては1500度近い高温にさらされるが、この高熱に耐え、しかも内部に熱を通しにくい素材として、特殊セラミックのブロックをしきつめてある。しばしば耐熱タイルともいわれるが、タイルというにはぶ厚すぎるかもしれない。ちなみに正式名称を高温再使用可能表面耐熱材、略称HRSIという。
41頁
- 指向性 [DIRECTIVITY]
-
スピーカやアンテナからの放射の強さが方向によって異なる性質、またはそのばらつき具合い。受信側にもいう。『指向性が強い』ということは、特定方向との電波などのやりとりの効率が高いが、その反面、方向がずれると役立たずになるということ。
42頁
- トラッキング装置 [TRACKING DEVICE]
- 追尾装置。ここではアンテナを通信対象の方向に自動的に向けさせる装置。
57頁
- モハベ砂漠
- ロサンゼルスの東に広がる砂漠。
58頁
- ルウェンゾリ共和国
-
この部分から、ウガンダとザイールとタンザニアに国境を接し、4巻冒頭から、国境線の東はビクトリア湖の西をやや内陸に入ったところを南北に走っていることがわかる。
なお、名前の由来に違いないルウェンゾリ山の標高は5110m、ウガンダとザイールの国境にある。
59頁
- テレックス [TELEX]
- 電信写字機。商標名なのだそうだ。
61頁
- ハイブリッド軌道
- いくつかの長円軌道を組合せた軌道。この軌道をたどるには、軌道修正を繰り返さなければならない。
69頁
- IDカード [ID CARD]
-
身分証明書の役目をするカード。ただのカードから、磁気テープにデータを記録するもの、メモリーチップ(記憶素子)、マイクロプロセッサを埋め込んだものなど、構造や記憶能力は様々。
71頁
- トランジット・ビザ [TRANSIT VISA]
- 一時滞在用の査証。
- イミグレーション・オフィス [IMMIGRATION OFFICE]
- 入国管理事務所。
80頁
- ムスリム
- イスラム教徒のこと。
87頁
- 朔日
- 太陰暦では月初めの日。いわゆる新月にあたる。イスラム教暦は太陰暦である。
98頁
- 長円軌道
- 離心率の高い楕円軌道。近地点と遠地点の高度差が大きい。
140頁
- 高利得アンテナ [HIGH GAIN ANTENA]
- 利得の高いアンテナ。アンテナの利得というのは、特定方向への放射電力が、同じ電力を供給した基準ア
ンテナと比較して、何倍になるかを表した値。つまり、指向性の度合を数量化したもの。高利得アンテナというのは、指向性が良い……つまり同じ出力でも、遠くまで効率よく強い電波を届けられるアンテナ。
141頁
- サイドローブ
- アンテナが指向している方向以外に、周囲に拡散する電波のこと。どんな高利得アンテナにも若干のサイドローブは生じてしまう。
148頁
- 春分点 [VERNAL EQUINOX]
- 天球上で、黄道と赤道が交わる二点のうち、太陽が年周運動によって、赤道の南側から、北側に横切る点。
151頁
- カプラ
- 連結装置。
152頁
- アポロ [APOLLO]
- NASAによる月軌道ランデブー方式の有人月面探査計画。人類が他天体に足を踏み入れたミッションはいまだにこれだけである。。
185頁
- ツインオッター (BOEING CANADA DHC6 TWIN OTTER)
-
ボーイングカナダ社(旧デ・ハビラントカナダ社)の開発した双発、肩翼式の小型汎用輸送機。発表は1964年であるから、エアタクシー、コミュータ用途の機体としてはかなり早い時期に企画されたものに属する。ベースとなったのはDHC3オターという単発レシプロの機体で、エンジンをターボプロップの双発とし、機体の一部を改良したもの。離陸距離400メートルという高いSTOL(短距離離着陸)性能をもち、機体も強く、搭載量も大きい。反面、胴体が細いため有効スペースや快適性で、後発の同じクラスの機体にやや劣るとされている。
ちなみに米軍でのカタログナンバーはV-18。Vは高官輸送機とのこと。
189頁
- ホバリング
- ヘリコプターなどの、空中一点静止飛行。
主ロータの発生する揚力と重力が、つりあった状態である。地面に近いところでは、ロータから吹きおろした空気がクッションのように働くため、必要出力が小さく
てすむ。これをグランド・エフェクトと呼ぶ。
ヘリの操縦は、「ホバリングに始まって、ホバリングに終わる」ものだそうな。
208頁
- サルベージ [SALVAGE]
- 辞書によれば、海難救助・貨物救助・救助貨物(財産)・(再生品原料としての)廃物などの意。
ここでは、沈んだ船を引き上げて、再生すると言う意味だと思えば良い。
つまり、シュピーゲルが放棄されてるので、我等がハスミ社長は、拾ってきて自分のものにしようと言
うこと。放棄させる計画をたてたのがハスミ社長であったことを思い出すと……。
<4巻>
7頁
- パイロン
-
翼から張り出した短翼形状の支持架で、様々なものを搭載する。例えば爆弾、ミサイル、補助燃料タンク、ロケット弾、電子妨害装置、観測機器、その他モロモロ……。
8頁
- エア・インテーク
- ジェットエンジンの空気取り込み口。
「軌道傭兵4」の序章に出てきた飛翔体はアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」みたいな形状をしているので、発進時はロケットブースターによる初期加速の邪魔にならないように機内に収納されていて、ジェットエンジンを始動するに十分な速度になってから開くようになっている。
9頁
- ビクトリア湖
- 東アフリカにある湖。ウガンダとケニアとタンザニアの間にある。九州と四国がすっぽり入るくらい広い。
15頁
- C-130輸送機 (ハーキュリーズ)
- 1954年に発表された輸送機の定番機種。
快速とはお世辞にもいえないが頑丈で信頼性が高く、輸送効率が高い。ベトナム戦争でも(輸送にも撤退にも)大活躍した。自衛隊も採用しており、カンボジアにも飛んだ。
ちなみに、ペイロードは19,356kg。兵員輸送の場合、トループシートで92名まで、空挺隊員なら64名まで。以上、長胴型(英国空軍用のC.3仕様機。合衆国空軍ではC-130H-30と呼称)の場合。
21頁
- ドローグ
- 空中給油用の器具で、給油ホースと(相手機体の給油装置との)連結器具が組み合わさった物。
38頁
- 慣性誘導装置
- 加速度計と、ジャイロで構成されている。加速度と姿勢の変化を検出し、このデータより位置情報を算出して、制御情報に使う制御システム。
44頁
- 軍官複合体
- 『軌道傭兵』世界における『悪の世界組織』。といっても世界征服や支配を狙っているわけではなく、ただ自分たちの地位等の保全のために動いている。
詳細については、44頁以下を読んでいただくしかないが、ここでは、闇雲に戦争を起すことを目的としていない点が、谷甲州のリアリズムであることを指摘しておきたい。「戦争」では監視機構が働いてしまうため派手に動けないので、「内乱」を起させてコントロールしようというあたり、地味だが実にリアルで渋い。
なお、軍事産業と政府官僚が癒着したものをさす「産軍複合体」という言葉はよく聞くが、「軍官複合体 」という言葉は、谷甲州の造語かもしれない。
72頁
- テルミット系手榴弾
- 通常の手榴弾は爆発した本体の「破片」で人を殺傷するものだが、テルミット系手榴弾は焼夷弾の様に、強力な燃焼力で車両や人員を破壊・殺傷するもの。
101頁
- フライトジャケット
-
航空機パイロットやシャトルの乗務員用の上衣のこと。スラックスと合わせてフライトスーツという。シャトル乗員のフライトスーツ(船内作業員)はブルーのソフトコットン製。
また船内宇宙服は非常脱出機能等も備えたものをさし、フライトジャケットとは別である。
<5巻>
7頁
- 『ヘルメットをはじめ各ジョイントの閉鎖は完全で』
- 要するに、どこも空気漏れをしていないから、内部が急に真空になって人体が減圧破壊をしたわけでは無いと言うこと。
- 軌道往還機「飛鳥」
- HOPEの改良後継機だが、HOPE同様、機種名はあっても固有名は出てこない。まさかとは思うが、 1機ずつしかなかったりして……。
- 主任搭乗科学者
-
NASAでいうミッションスペシャリストにあたる。HOPE同様自動化率が高いので、機長以外はとりたてて操縦訓練の必要が無いと思われる。(ミッションスペシャリストは一応訓練を受ける)
15頁
- ハーネス
- ワイヤーハーネスの略。固定用ロープの事だと思えばよい。
27頁
- インスペクター [INSPECTOR]
- 警部。
- スーパーインテンダント [SUPERINTENDENT]
- 警視。
46頁
- スタッフバッグ
- 袋状のバッグ。
- メモライザ
- 記録装置。電子手帳みたいなもの
54頁
- マウント [MOUNT]
- 固定装置。カメラやスコープなどを別のものに固定するための「台座」。
59頁
- 掩体
- 銃弾とか砲弾の破片を防ぐためのバリケード。麻袋に土を詰め込んだ「土嚢(どのう)」などが良く使われる。
61頁
- マーキング [MARKING]
- 識別記号。文字・記号だけでなくイラストを併用するのも一般的。
97頁
- フォーマット [FORMAT]
- 形式・書式。この場合、手紙の儀礼的な書式をあらかじめ組み込んだプログラムで、用件のみ入力するだけで簡単に電子メールが出せる。
100頁
- シミュレート [SIMULATE]
- モデルを操作して、現実に起きるであろう結果を類推すること。
大量のデータを高精度に処理する必要があるため、コンピュータの得意技の一つである。
101頁
- ホワイトサンズ [White Sands Missile Range]
- 米国のロケット試射場。
109頁
- (発射台は)起倒式
- 横倒しで運搬されてきたロケットを発射時に立てて、打ち上げる方式。
アポロを打ち上げたサターン5型ロケットとか、アメリカ第1世代スペースシャトルは、発射台への移動時も、ロケットが立ったままである。
111頁
- トーチカ
- 小型の要塞様の建築物。防空壕か何かみたいな頑丈な建物の俗称。
- ケロシン [KEROSENE]
- 灯油、あるいは白灯油(精製度の高い灯油)。サターン・ロケットの一段目の燃料は、ケロシンだった。
液体水素に比べると、比推力は低いが、比重が高く、取り扱いは、はるかに容易である。
139頁
- 属地主義
- 法律用語。法律行為が行われたとき、行われた国の法律に従うべきとする考え方。
対する概念として、属人主義(いかなる国で行われた法律行為も、その者の国籍のある国の法律に従うべきとする考え方)がある。
178頁
- 爆破ボルト
-
爆薬を仕込んで遠隔操作で外れるようになっているボルト。より正確に言うと、小量の爆薬の力でカッター刃を動かして連結ボルトを切り離す機構の事。人工衛星とロケットエンジンなどを連結するのに使用されている。またシャトル打ち上げの時にも使われている。
196頁
- 滅菌システム [STERILE SYSTEM]
- 殺菌をするためのシステム。加熱したり紫外線を当てたりするのが一般的だが、「軌道傭兵5」で出てきたものはマイクロ波を照射して殺菌する。
229頁
- 蒸着 [SPATTERING]
-
水蒸気にたとえると判りやすい。水が蒸発すると、窓ガラスなどに「水滴」とか「曇り」として付着する。これは、水を噴きかけたり、布などで塗り付けたりするのに比べて、はるかに細かくて均一な水滴をガラス全面に平均させて付着させる事が出来る。これを金属などに応用したのが「蒸着」だと思えば良いだろう。
参考資料(順不同:著者名は省略)
- 「宇宙開発と設計技術」大河出版
- 「宇宙建築居住を可能にする技術」彰国社
- 「風は偉大なる者を燃え立たせる宇宙飛行士エリスン・オニズカの生涯」PMC出版
- 「宇宙で食べるレタスの味ソ連宇宙ステーションミールの秘密」同文書院
- 「宇宙機メカニズム図鑑」グランプリ出版
- 「理科年表平成4年度版」
- 「Astro/Space Frequently Seen Acronyms」sci.space
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