検証・機動爆雷
−愛の結晶の反乱−

林[艦政本部開発部長]譲治

三回目にして、はやくも当初の目的を見失いつつありますが・・・。さて、前回は不毛なセックスで子供がグレるという事を説明致しましたが、今回はグレた子供の行く末について。主人公は不幸な出生の秘密を知った中性子であります。
 核融合炉から生じる中性子と、宇宙船の居住区との関係を親子に例えるなら、対処の仕方は二つある。一つは軍人の家庭式、もう一つは普通の家庭式である。
 まず軍人の家庭を見てみよう。実は軍人の家庭と言うのも、家長の教育方針によって中性子との接し方が二つに分れる。
 まず、これは大概において古い軍人(旧式フリゲート)に多いのだが、グレた息子の中性子と真正面からぶつかるタイプ。もっとも真正面からぶつかるように見えて、その実は居住区の父と機関部の中性子である息子の間には、放射線遮蔽板という母親が緩衝剤として入っているのだが。まぁ、ともかくこのタイプの家庭では自分らが生んでしまった中性子は自分らで解決するしかない≠ニ親が体当りで中性子を受け止めるわけですね。
 このタイプですと、親と子の間に距離がありませんから、家族一丸となって動き易い(専門的には船体のモーメントがどうこうという表現になるんでしょうが……)
 もう一つの軍人の家庭のタイプは、子供を最初から作らない。ゾディアック級なんかこれで、ヘリウム3と重水素という中性子の発生が非常に低い、つまり子供が家庭にいない。子供が生まれないから、子供がグレる事を心配する必要もない道理。このタイプは居住区・機関部夫婦揃って手を取り合って、やはり一丸となって移動ができる。こういう家庭と言うのは同じ軍人の家でも、最初のと比べるとモダンなタイプですね。
 ところでセックスは楽しみたいが、子供の非行には煩わされたくないと言う普通の家庭ではどうするか。本来なら家長の居住区としては父親の権威を見せねばならない所ですが、それを実行に移すのは希。大抵の父親が選択するのが逃避です。機関部で生まれた息子がグレてるらしい、ならばできるだけ機関部には近寄らないでおこう。できれば他人様(貨物船の貨物)が弾避けに成ってくれるとうれしいな、というのがこのタイプですね。
 こういう一家の大黒柱が問題から逃避しようとする態度は良くありません。軍人の家庭なら、何かあって急加速しようと思えば居住区と機関部の距離が近い(から船体の剛性が高い)ので急加速もできる。ところが父親が家庭のごたごたから逃避した結果、居住区と機関部の距離がありすぎると(船体の剛性が低くなるから)急な加速には耐えられないという事態を招いてしまう。
 もっともこういう家庭であっても、急に加速して軌道を変更しようとさえしなければ、とりあえず親子の間に距離があっても、同じ方向に進んでいるから家庭内の軋轢は表面化しない。他人から見れば仲の良い家族に見えたりしてしまうわけです。
 外惑星連合の仮想巡洋艦が悲惨なのは、本当は家族がバラバラなのに、仲の良い家族を演じなければならない点にありまして、一撃離脱が成功する作戦ならボロもでませんが、ちょっとした手違いで激しい機動が必要になると、とたんに積木も崩れてしまうのでありました。
 貨物船が重水素・重水素核融合反応などを用いるのは経済性故ですが、その中性子処理を居住区と機関部をとおざけるという単純かつ経済的な方法で解決しているため、軍艦のような激しい機動は出来ないのであります(そもそも貨物船に激しい機動は必要無い)。仮装巡洋艦も同様です。



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