検証・機動爆雷
−装甲板の周辺−

爆雷片と装甲板の禁じられた抱擁・不倫妻がそこで見たものは!

林[艦政本部開発部長]譲治

え〜、タイトルは何かと言いますと、要するに思考実験でして、機動爆雷の破片が宇宙船の装甲(外壁)に当ったとき、もしもそこに『観測者』として不倫妻がいたとしたら、彼女はどのような情景を観測する事になろうか、それを考えようということです。 思考実験とは要するに、実際に実験を行わずにある限定された条件の下で、構成要素がどのような振舞いをするかを純粋に理論だけで検討するものです。有名なのでは不確定性理論でおなじみの、箱の中に放射性同位元素と毒ガス装置と猫を入れて生存確率を考える、シュレなんとかの猫などがあります。むろんこれは思考実験ですから、趣旨さえ正鵠を得ていれば、例えば猫と毒ガスのかわりに、箱の中に不倫妻と愛人と亭主を入れて、愛人の生存確率を考える・・・でも不確定性理論の思考実験は可能です。
 さて、爆雷片と装甲板の問題は、実は人外協では発足当時からの問題でありまして、私の記憶によればダイナ☆コン・EXの夏期甲州の時代からすでにその存在が知られております。ところがその結論はいまだに出ておりません。何故でしょう?理由はその衝突条件にあります。
 固体を音波が伝わる速さはだいたい4〜6キロ毎秒という所。もっとも速そうなベリリウムでも12キロ毎秒程度です。固体中の音速とは情報が伝わる速さとも解釈できます。つまり固体が衝突したと言う情報は音速以上では伝わらない”筈”です。だから装甲板は音速以上では裂ける事が出来ない”筈”なのね。
 ところが航空宇宙軍の宇宙船は場所にもよりますが毎秒100キロのオーダーはざら。これが音速以下ならば、衝突した爆雷片は素直に装甲板の中を進んで行けば良い。例えば対戦車砲やなんだといっても初速は装甲板内部の音速以下ですから、これはそれほど悩む事はない(とも断言できないけど)。でも機動爆雷と宇宙船の場合はこうはいかない。破片と装甲の相対速度差は音速の比では無いのである。
 しからば何故ここで破片と装甲の相対速度差にこだわるのか。一般に不倫妻の悪評は情事の回数に比例し、物体の運動エネルギーは速度の自乗に比例する。だから相対速度差の大きな破片ほど持っているエネルギーは大きい。これは事実だ。だから機動爆雷の破片が宇宙船の装甲(外壁)に当ったとき、もしもそこに『観測者』として不倫妻がいたとしたら、運動エネルギーの大きい衝突ほど、破片が装甲に多大なダメージを与えるのを観測する・・・と信じれるなら話は単純。『何も変わった事は無かったわ』妻の言葉を信じることができたなら、ああ、夫はどんなに幸せであることでしょう。
 が、ここで夫は妻の言葉に疑惑を抱いてしまうのだな。ここで夫が抱く疑惑とは、破片と装甲との相対速度が大きけれ大きいほど、装甲のダメージは大きいのだろうかと言うこと。例えば、ある速度以上で衝突した破片は、あまりにも高速のために装甲と相互作用をする間もなく、宇宙船を付き抜けてしまわないだろうか?あるいはある速度以上で衝突すると破片が完全弾性を起こして元来た方向へ飛び去ってしまわないか。はたまた、ある程度以上の速度になるとプラズマ化した破片により装甲が受けるダメージは頭打ちにならないか(プラズマになっても破片の運動方向は変化しないはず。成形炸薬弾のガスのように)等など。
 つまり機動爆雷レベルの速度になって、仮に物性的理由から破片の威力が運動エネルギーに比例しないとしたら、『機動爆雷が使用できる相対速度には、ある範囲が存在する』ということになります。
 これ、どういう事かと言うと、戦闘において機動爆雷が使える領域と使えない領域が存在する可能性を意味する。相対速度をある範囲に収めねばならないとしたら、フリケートや仮想巡洋艦の運用や戦術は非常に影響を受けるわけです。夫ならずとも不倫妻の証言が気になる理由が、これでおわかりいただけることでしょう。
(次回は愛人の立場を考えてみましょう(^^;))



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