検証機動爆雷
−弾頭について−

林[艦政本部開発部長]譲治

 まずは機動爆雷の弾頭について。
 機動爆雷については、五年くらい昔のアクエリアス計画で田中[暗号兵]さんの考察があります。結論から言えば、核爆弾を使用するということになります。ただ問題は単純な核弾頭でいいのか?と言うこと になります。
 まず、人外協では昔から常識となっていますが、単純に宇宙で核爆弾を爆発させただけでは破片効果は期待できません。これは当然で、真空で核爆弾の熱エネルギーを媒介してくれるものはありません。また、あったとしても、破片は飛び散るよりも先に熱により蒸発してしまう ことになります。破片を飛ばすのに必要なエネルギーは、核でなければ実現できませんが(例えば化学反応の燃焼ガスの膨張速度は最大でも毎秒四キロほど)そのためには、核エネルギーを何等かの方法で破片の運動エネルギーに変換しなければならない ことになります。
 このための一番単純な方法は、核爆発の際に生じる荷電粒子の運動を、コイルにより誘導電流として回収する方法でしょう。なにしろ核弾頭の設計さえうまくやれば、必要なのは電力回収用のコイルだけですから。それではどんな核発電機が考えられるだろうか(もっとも航空宇宙軍史のどこにもこんな事は書いてないが)。
 弾頭のサイズは、田中[暗号兵]さんの考察から、80トンという数字がでています。広島・長崎の原爆でも20キロトンですから、広島・長崎の原爆の二五〇分の一の威力とな ります。しかし、核分裂型の核爆弾でTNT換算80トンの出力の装置は設計・製造がかなり難しいと思われます。放射性物質の臨界量などの制約がありますから。そこで考えられるのが核融合ペレットの利用 でしょう。
 すでに宇宙船の機関として核融合が実用化されている社会ですから、核発電機に(専用に設計した)ペレットを用いることはさほど不思議ではない。これも色んな構造が考えられるでしょ うが、単純なのはレーザー発振機とペレットの組み合わせ。レーザー発振チューブを束ね、光学系によってレーザー光線をペレットに誘導、全周から同時にペレットに照射すれば爆縮によって核融合が起こる。磁場により、この時に生じる核融合プラズマを超伝導コイルで回収すれば、単純な核弾頭の爆発より、はるかに高い効率で核エネルギーを破片の運動エネルギーに転換できる。電力はコイルガン(磁場で物を打ち出す装置の一種。レールガンとは違う)に送って、それで破片を飛ばせば、ある程度の指向性も確保できるでしょう。
 レーザー発振チューブへのエネルギーは核融合に使うのですから、それなりに考える必要がある。これも一番単純なのは、機動爆雷の機関出力のプラズマをコイル(設計をうまくすれば、コイルは弾頭電力の回収用と共有できる)で回収し、その電力を充電し、弾頭の爆発の時に放電、パルス電源として使用する方法でしょうか。
 ここで問題となるのはペレットの組成でしょう。核融合燃料としては、重水素(D)、三重水素(T)、ヘリウム3(He)などがあり、反応としてはD−T,D−D,D−Heなどが考えられます。これらの反応の生成エネルギー(J/Kg)は概ね同じです。D−T反応はエネルギーの大半が中性子にもっていかれますが、D−He3は荷電粒子しか生成しないので発電機に使うには最適の反応です・・・が。実はD−T反応の臨界条件はD−Heよりかなり緩やかです。荷電粒子への変換効率は低いものの臨界条件も低いので、投入エネルギーと出力の利得を考えると、じつはD−Tが一番高い。どうせ無人の使い捨て兵器、高速中性子の問題よりも利得の高いD−T反応がたぶん採用されるでしょう。



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