雄岡山、雌岡山

中野[日本以外全部沈没]浩三

 前回「山、高いが結えに尊からず。その姿をもって善とする」なんておおげさなことを書いてしまったが、「されど雄岡山(おっこさん)は、されど雌岡山(めっこさん)は・・・・」

 世間では振替休日だったので、悪友Kとハイキングに行くことになった。午前11時に阪神電鉄の梅田駅を出発し新開地で神戸電鉄粟生線に乗り換える。地元の住民にしてみればただの通勤手段の電車かも知れないが、初めて乗った我々にしてみれば急高配を登って行く電車は、ローカルな駅や周りの景色とマッチしてちょっとした高原列車的な雰囲気をあじわえた。12時30分に緑ケ駅に到着。
 駅の案内板に駅の標高157メートル、雄岡山(241メートル)南西1キロ、雌岡山(249メートル)南西3キロとあった。標高差がなんと、たった90メートル程。山というよりは丘なのだが近くに山らしい山はなく、付近よりもたった90メートル隆起していても一目でそれと分かる。
 駅から近い雄岡山から登る。県道を西に行くとグランドがありそこで南に折れて確かこの辺に山頂への道があるはずなのだが。国土地理院二万五千分之一にも山頂への道は記載されていない。井戸端会議をしていたオバさんに道を聞き民家の横を擦り抜けていくと雑木林の中に西に向って立派なハイキング道が付いているではないか。目印の為だろう木の枝に赤いビニールテープがついていたのには笑ってしまった。わずか10分程の緩やかなな登りで山頂に付いてしまった。雑木林を切り取ったちょっとした広場のようになっている真ん中に社があって御稲荷さんが祭ってある。「お供え物はお持ち帰りください。賽銭選は無用です」との立て札がある。愛想のない神様である。
 見通しはあまり良くはないが雑木林の隙間に瀬戸内海や淡路島が見える。一組のアベックがビニールシートを広げて弁当を食べていた。我々もここで昼食にする。ビスケットにチーズにサラミソーセージ(今井通子さんをモデルにした新田次郎の小説にこんな行動食があったので食事だけでも真似をしてみただけである)それにエスビット(固形アルコール燃料)に火を点けて珈琲を湧かす。「この欠けた石、もしかしたら三角点やないか?(後日判明したが一等三角点だった)」などと言いながらの昼食。
 掃除の行き届いた山頂を後にして一路雌岡山を目指す。西に向っての緩やかな降り道を過ぎると再び県道に出て歩道を西へ行く。アスファルト道路を歩くのは、しらけるが我慢して歩くと前方に雌岡山が見える。何の特徴にもない屁みたいな山(と言うより岡です)だが、他に山らしい山はない。右の池は大皿池と言うらしい。ガイドブックには美しい池だと記載されているが釣池になっている。大皿池の隣に金棒池がありその池の過ぎた辺りにハイカラと言おうかモダンと言うのか、変った歯医者さん(宮本歯科だったかな?よく覚えていない)を右に曲がる。その後ろに古びてぼろぼろになったヨットが置いてある。あるいは廃棄してあるのか。
 ここからが雌岡山の登り口である。その登り口には「おめっこ山」と書かれた古びた標識がある。なんとも。公衆の面前にこんな標識出してよく検閲に引っ掛からなかったものだ。岩瀬さんによると関西の方言らしい。意味はと言えば、(中略)と言うことだ。
 標識にしたがって登りだすと、すぐそばに養豚所があり豚の鳴き声が聞こえ風向きによっては臭ってくる。そのまま登ると育ちの悪い梅林があり、季節はずれの花が咲いていた。鶯でもいれば風流なのだが。かなり開けているので雄岡山や六甲山さらには瀬戸内海や淡路島がよく見渡せるのどかな場所である。しばらく行くと都市交園を思わせる広場があり、ゴミ箱からゴミが溢れだしていて非常に見苦しい。だいたい出したゴミは持ち帰るのが常識であってゴミ箱を置くことは間違いである。広場の階段を登ると神社があり頂上になっている。
 「神出神社」と言うらしい。由緒が彫ってあるので読んでみると素盞鳴命(すさのおのみこと)と奇稲田姫命(くしいなだひめのみこと)そして大己貴命(おおなむちのみこと)の御三人さん祭ってあって、「神代に素盞鳴命と奇稲田姫命とが雌岡山に降臨し薬草を採取して住民の病苦を救い農耕を指導された。二神の間には多くの神々がお生れになり、そのうち大己貴命はこの地で誕生されたと言う。このことからこの地を神出と言うようになった(後略)」とある(写真を撮っておいて良かった)。神の存在なんてここでは感じられなかった。境内の隅に高松宮殿下が植樹された木があったが、ものの見事に枯れていた。バレない間にさっさと植えかえておいたほうが善いと思う。

雄岡山、雌岡山  瀬戸内海が良く見え赤いワイン城もみえる。ワイン城では神戸ビーフや神戸ワインの神戸ヌーボを飲ませてくれたり、ワインの製造工程も見せてくれると聞いた。機会があったら行ってみるのもよいだろう。

 ここから北へ少し降ったところに裸石(らいせき)神社と姫石神社がある。裸石神社では一組のアベックが参拝していたので、姫石神社の参拝をする。神出神社に比べると自然石がごろごろしているだけのひどく簡素な神社である。裸石神社へ参拝しようとすると先ほどのアベックがまだ拝んでいる。「えらい熱心に拝んどるで」などと思っているとやっと立ち去ってくれた。御神体を見てびっくり。花崗岩でできた巨大な男性性器と女性性器がごろごろしている。性崇拝の神社だったのか。流石に撮影する気にはなれなかった。人外協の隊員諸君も後学の為に参拝されるのも一興だろう。無理にとは言いません。
 元来た道を登りなおして東へ少し降ると北へ降る広い道に出る。そこからのどかな田園風景の中を北へ神戸電鉄志染(しじみ)駅を目指す。
 志染駅で新田次郎を買って帰る。ペリー・ローダンを5冊も溜めてしまって呑気に新田次郎を読んでいて良いのだろうかと思う筆者であった。

 中村<不明>隊員曰く。
「心配するな、ストーリーあれから進んでへん」



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