天ちゃんの・徒然草子
ショート・ショート・3

天羽[司法行政卿]孔明

 というわけで特例の『ショート・ショート−3』です。では、さっそく始めましょう。

 


『へんしん』

「あんなぁ、ボク、女になってもてん――」
 ある日、友人(もちろん男)から、突然電話でこんな事を言われた。
「嘘ちゃうで、ほんまにボク、女になってもてんから……」
「おいおい、ちょっと待て。今からそこに行くから、早まったらあかんぞ!」
 何を『早まる』のかは、俺にも解らなかったが、とりあえずそう言って電話を切り、車で彼の家まで行った。
 厚手のコート姿で出迎えてくれた彼は、なんと、その下は素っ裸だった。
 なるほど、たしかに彼は、女になっていた。とても綺麗だった。でも、なぜ女になったのかは、彼にも解らないらしい……。
 昨日の夜までは、まだ、男だったと言う。
「おまえ、取り敢えず明日にでもここを引越しした方がええで」
「ど、どうして?」声まで女になっていた。
「だってここ、男子寮やろ――」


『ろくろっ首の時代・ショートバージョン』

 ある朝目がさめて、ベッドから上半身を起こしたら、頭はまだ枕の上にあった。
 あれっと思って目線を下げたら、自分の背中と、そこからニューッと伸びている首がみえた。どうやら、『ろくろっ首』になってしまったらしい……。
 頭をおこそうと思ったのだが、馴れていないのでうまくいかず、しかたがないので、右手で自分の頭を小脇に抱える事にした。
 街に出ると、俺と同じ様に、自分の頭を小脇に抱えている人が結構いた。
 恋人同志などは、お互いの首と首とを絡めあって、仲よく街を闊歩していた。
 みんな、『ろくろっ首』になったのだ。
 楽しい一日だった。
 次の日目がさめたら、今度は手や足も伸びていた。動く事もできないので、日がな一日ベッドの上で過ごした。その日は静かな日で、何時もなら聞えるはずの車の音もしなかった。
 今夜はなんだか、寝るのが恐い……。


『むじな』

 とある夏の夜の事――。
 家の近くの川沿いの道を散歩していたら、柳の木の下の所で一人の女性がこちらに背中を向けてシクシクと泣いていた。
「もし、お嬢さん、どうしましたか?」
 と、こちらを向いたその女性の顔には、目も鼻も口もなかった。のっぺらぼうである。 あんまり恐かったので、持っていたマジックを使ってその顔に、『へのへのもへ』って書いてやった。
 顔ができた嬉しさのためだろうか、『の』の字の目に涙をいっぱいためながら、川上の方へ向って走り去ってしまった。
 その後、近くにあったたこやき屋の屋台の兄ちゃんにその話をしたら、それまで下を向いてたこやきを焼いていた兄ちゃんは、
「その顔は、こんな顔じゃぁ、なかったですかぃ?」と、顔をこちらに向けた。
 その兄ちゃんの顔には、『へのへのもへ』って、書いてあった……。


『BOX!』

 ポケットベルが鳴ったので、車を止めて、電話BOXに入った。でも、故障中で、どこにも電話をする事が出来なかった。
 しかたなく、そのBOXからを出ようとしたのだが、扉も故障中なのか、開かなかった。
 BOXの前の道は結構人通りの多い道なのに、内側から扉を叩きながら「誰か、開けてくれ!」と大声で叫んでも、俺の姿が見えないのか、誰一人として気付く者はいなかった。
 扉を壊そうとしたが、それも出来なかった。
 BOXの中で、三日が過ぎ去った……。
 BOXの前の俺の車の所に、警察がやってきた。妻もきた。今年五才になる娘もきた。 どうやら俺は、蒸発してしまった事になっているらしい……。
「ここにいるぞ!」と叫んでも、空しいだけだった。
 あれからいったい、何度朝と夜を向えただろう。今、このBOXは、道路拡張のため、取壊されようとしている……。


『人を食った話』

 むしゃむしゃむしゃむしゃ……。


 いやどうも、いかがでしたか? 今回は今年最後なので、いつもよりちょっと長目になってしまいました。一応すべて原稿用紙ちょうど一枚分の長さになっています。あっ、もちろん最後の分はオマケなので、その限りではないんですけどね(って、見ればわかるわな……)。もしよかったら、また感想なんかを聞かせてもらえれば、天ちゃんとってもうれしいです。

 で、来年なんですが、このまま《天ちゃんの徒然草子》を続けさせてもらう事にしました。そんなわけで、一月分のテーマは、『変』です。
 それでは皆さん、よいお年を迎えて下さい……。

 LP版、『ディズニー名曲集』を聞きながら・・・。

1993.11.14, AM,11:53,



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