天ちゃんの・色々食べてみま戦課
十五夜

天羽[司法行政卿]孔明

 いやはやなんとも、困ってしまいました・・・。と言うのも、九月って、ほんとなんにもないんですよね・・・。でもまぁ、困った困ったと書いていてもしかたがないので、まぁ、なんか考えてみましょうか・・・。

 んーと、九月で最初に思い浮ぶのは、なんといっても「敬老の日」なんですが、さしものぼくも、おじいちゃんや、おばあちゃんを食べた経験はないんですよね(まぁ、そんなもん、食べたいとも思わんけどさ・・・)。それに、「敬老の日」と食べ物にまつわる変な話しってのも聞いた事がないんですょ・・・。
 んでもってもう一つが、お彼岸ですか・・・。でも、彼岸の話しはたしか、春の彼岸の時に書いてしまったしなぁ・・・。
 最後は「秋分の日」なんですけど、さて、「秋分の日」って、なんかあったやろうか・・・?。
 と、色々考えていたら、そうそう、ありましたよ。はい。ちょうど秋の彼岸の中日、秋分の日の前日。十五夜こと、仲秋の名月がね。
 まあだいたい十五夜っていえば、旧暦の八月十五日の事なので、とっさに思い浮ばなかったんです。そういえば、土地によっては九月の十五日を十五夜ときめてお祝いをする所もあると聞いています。また、月見とくればつきものなのが、すすきとダンゴですかねぇ。このダンゴもまた、地方によって色々種類や工夫があるんですよ。でも今日は、すすきの話しでもダンゴの話しでもありません。
 さて、十五夜ですが、なかなかいい語呂ですよね。ぼくは、好きなんですよ。この、月見ってやつが・・・。ずいぶん小さな頃から、父親の影響で、夜空を見上げるのが大好きだったので、いまだに月や星を見ていると、気分が落着くんですわ。ところが最近は大阪の空も汚くなってきたので、なかなか星がみれなくなり、大変悲しい思いをしております。幸い大阪にはプラネタリウムが結構あるので、星のほうはなんとかそれで間に合わせる事ができるのですが、いかんせん。月はプラネタリウムでは見る事ができません。そこで、月見だけはちゃんと夜を待ってから見るようにしてるんです。そんな月見にまつわる、こんな話しがあります。

 えぇーっと、あれはたしか、いまから四年程前の仲秋の名月の日。その日も月を見るために、深山菊っていう飛騨の名酒と、塩もみしたきゅうりを三本ほどもって、家の近くを流れている大和川の堤防まで行ったのです。
 この川の堤防からみる月はなかなか綺麗なので、月見のための穴場にしているんですが、この日はとりわけ空が澄みきっていて、星もまた沢山見てとることができました。
 さて、月見を始めて一時間もたった頃、川の中からザブザブと上がってくる人影がありました。はて? 時間は午前二時。こんな時間に水泳でもないだろうに・・・。などと考えていたら、なんとこの人影、まっすぐにぼくのほうに近ずいてくるではありませんか。そのうえ、やたらと親しげに、水のしたたる右手を上げて挨拶なんかしながら・・・。はて、誰かいなぁ? と目をこらしてびっくりしました。なんとそいつは、河童だったんです。
 実はぼく、変な話しなんですが、河童ならば、一匹だけ知り合いの奴がいるんです。そいつは、この大和川に百年ほど住み着いていた奴だったんですが、ここ二十年程前から、めっきり汚くなってきたこの川に嫌気がさしてきたのと、同じ理由のために川で遊ぶ子供がずいぶん少なくなったため、子供と相撲をとったり、大好物の子供の尻子玉が食べれなくなり、色々考えた結果、遠野村へと引越していきよったはずなんですが・・・。
「どうも、天羽さん。おひさしぶりです・・・」
 やっぱりあの時の河童でした。
「なんやおまえ、遠野村へ引越ししたんとちゃうかったんかい? ほら、ぼくとタコス屋の兄ちゃんの二人で送別会ひらいたったやんけ」
「はい、その節はおせわになりました。えぇ、えぇ、向うでは、結構楽しく暮らさしてもろてます。」
「ほたら、今日は又何でこっちへ帰ってきてんねん。誰ぞの墓参りか?」
「いえ、そうじゃなくって、わたしももう年ですから、最後にもう一度この大和川の堤防から月見がしたかったのと、天羽さんに恩返しをしておきたかったんですわ・・・」
「なんや、そんなもん気ぃつこてもらわんかてええのに。かえって悪い事したなぁ」
「いえいえ、こっちこそ気ぃつかわんとって下さい。ひさしぶりに天羽さんと一緒に酒が呑んでみたくなったと言うのが本音なんですから・・・。今日ここに来たら、かならず天羽さんと逢えると思っていましたし・・・」
「そうか、うれしい事を言うてくれるやんけ。まっ、ちょうどここに塩もみの胡瓜もある事やし、一杯呑むか?」
 そんなこんなで、うだうだとよもやま話しなんぞをしておったんですわ。
「ねぇ天羽さん。一つ変った月見をしてみませんか?」
「変ったって、いったいどんなん?」
「はい、わたしの頭の上にある皿の中に水がはってますでしょ。その水に月を写して見て下さい」
「ほっほー、こりゃあなかなか風流やないかい。でも、ここは河童の急所やないんかい?」
「そうです。その通りです。よほど信用しないとここを見せる事なんてないですよ。で、その月が写っている水をすくって一口呑んで見て下さい。仲秋の名月の晩に、河童の皿の中の水に写った月を呑むと、日本中の妖怪が呑んだ人の味方になるんです」

 まぁその時ぼくがどうしたかというと、もちろん呑みましたよ。はい。おかげさんで、妖怪の友達がたくさんできてしまいました・・・。


 付録 天ちゃんの、浪速うまいもん巡り

 今日はひとつ、おいしいカレー屋さんを紹介しようと思っているんですが、さきほどからいくら考えても店の名前が思いだせないんです。
 場所は、大阪梅田・阪急カッパ横町の一番奥。インドの人が経営している店なので、行けばすぐにわかると思います。
 本格カレーをおひとつどうぞ。

 



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