第九十二話

天羽孔明

 大阪府の千早赤坂村に、常巖寺というお寺があります。その寺の住職の息子はぼくの高校時代の友人です。この彼、寺の息子だけあって(という言い方は変なのですが)、怪異には慣れているらしく「幽霊なんて怖いもんとちゃう。幽霊になってしまった向こうも同じように幽霊が怖いんやで」なんて言います。またこの友人と一緒に歩いていると、交差点やビルの死角になっているようなところで、時々ポケットから数珠を取り出して、手を合わせて拝み出すのです。ぼくも幽霊を怖いとは思いませんが、この友人の事は本当に怖くなる事があります。
 さて、高校時代の事。
 この友人と一緒に、仲間何人かで富田林にある、有名なお化け屋敷へと行きました。まぁ、肝試しのつもりやったんです。で、その家の前に付いた時、件の友人が一言。
 「あかん、ここは洒落にならんわ」
 結局、入らずに帰りました。



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