私は人の顔を覚えるのはあまり得意ではないのだが、人には覚えられやすいらしい。一度などは道を歩いていたら宅配便のトラックが止まり、「えーと、林さんですよね。あなた宛に荷物があるんですが」と路上で荷物を渡されたことさえある。
そういう私であるが、妙に印象に残る顔がある。小柄な男性なのだが、顔が異様に赤黒く、なおかつなんとなく犬を連想させるのだ。彼を最初に見かけたのは札幌に住んでいた頃だから二十年ほど前になる。大通りの地下街などで何回かすれ違っていた。
ところが小金井に引っ越してからも、彼と街中で会うことが頻繁にあった。たいがいすれ違ってから彼だとわかるので、見失ってしまい、声のかけようもない。小金井から大和市に引っ越しても彼とはすれ違った。
大阪に来て梅田や難波の街中を歩いてもすれ違うことがある。じつは今日も新大阪駅ですれ違った。それだけでなく先日の旅行でもメルボルン市内でも私は彼とすれ違っている。
彼に関する限り、他人の空似はありえない。もちろん単なる偶然の可能性は否定できないだろう。ただ私はいつか彼に声をかけ一つだけ確かめたいことがある。
「あなたはこの二十年間、どうして少しも歳をとらないんですか?」と。