第七十五話

清水宏祐

 タクシーなんて物に乗ってると、色々と奇妙な話と云うか、不気味な体験が多いようです。やはり、昼間よりも夜の方がその手の話というのは多いのですが…。
 夜中に車を走らせていると、時々とんでもないものが人の形に見えてしまう事があります。例えば、郵便ポストに木立の影が被さっているのを見ても、なんとなく、人が背中を丸めて立っているように見えたり、道端に立っている芸術作品(なんか最近は、オブジェとか云うようですが)が何やら異形の者に見えたりなんて云う事がよくあるんです。
 まあ、それらの大半は、じっくりと見ればその正体が判るわけで、所謂、目の錯覚で説明出来るものなんです。
 ただ、中にどうしても錯覚と云いきれないものがあるんですね。中でも私が一番気になっているのが、「立っている影」と勝手に名付けているものなんですけどね。夜、走っていると道端に人が立っているような影を見る事があるんです。で、さっきも云いましたように殆どは近づくにつれてそれが何であったのかがはっきりするんですが、これは近づくにつれて影か濃く暗くなって行くんです。そうして、さらに近づくと不意に消えてしまったかの様に見えなくなってしまうんですね。
 どうやら、幻覚では無さそうだっていうのは、それが見える場所がだいたい決まっているみたいなんです。私はだいたいいつも神戸市内を走っているんですが、神戸の中心部だけでも最低四箇所はあります。徹底して捜せばもっといくらでもあるんでしょうが、今現在、私の目にはそれだけは見えているようです。
 詳しい場所を知りたい方は、菓子折持って遊びに来るように。



back   next