第七十四話

清水宏祐

「トントン」 最近、私、思うところあってタクシードライバーなんて事をしておるのですが、さすがにタクシーなんてのは怖い話の宝庫でして、「幽霊を乗せた」とか「消える乗客」とかいういわゆる怪談話の他にも、別の怖い話として、「乗せた客が薬物中毒患者だった」だの「客が突然刃物を振り回しだした」だのという話がごろごろしてます。まあ、私はその程度の事ではどうという事もないのですが…。
 タクシーを走らせていまして、ある程度夜遅くなってきますと、やはりそこは人間ですから眠くなってきます。そういう時には交通の邪魔にならない所に車を止め、仮眠を取る必要があります。その日も夜中の3時を過ぎまして、眠気を催してきたもので、仮眠を取ろうと人通りのあまりない場所に車を止めシートを倒しました。実際は、仮眠とはいえある程度人通りのある場所に止めた方が所謂「乗車の申し込み」があることもあり良いのですが、私の場合睡眠を邪魔されたくないので、もっぱら人通りの殆どない場所を選んで仮眠場所としていたのです。
 うとうととしだした頃、突然後ろの方の屋根をトントンと叩く音がしました。
 「人が、寝ようとしてる時に不粋な客やな」と、起き上がって後ろを振り向きましたが誰もいません。人通りが少ないとはいえ、かなりの道幅もある一本道です。勿論人が隠れ込めるような場所もありませんし、第一、今タクシーに乗ろうとして、ノックをした人が突然気を変えたとしても、隠れなければいけないような理由は思いつきません。
 「あれー、空耳かなー」
 思った途端、誰もいないのに後部の屋根の上でトントンとノックの音が響きました。
 ちなみに、これを体験したのは、「猫の顔」の話の「荒田公園」のすぐ北側の道でした。きっと、どこかへ行きたかったんでしょうね。
 あれ、それとも天ちゃんかカーリーさんでした?

林譲治

 たぶん私ですけど、こーすけさんの横の席にいた五歳くらいの女の子は誰なんですか?亜美ちゃんではなかったようですけど。



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