第六十九話

落合香月

 私は叔父叔母とほとんどあったことがありません。
 離れたところに住んでいると、親類というのは冠婚葬祭の時にしかあわないものです。
 「福井のうちの方の子供らと仲ようなったわ」
 祖父の弟の子供(母のいとこ)の家から帰ってきた母は、嬉しそうにその時の話をしてくれました。
 「落合のおばさんて面白い人だねーって、ゆうてたって親が皆ゆうとったわ」
 「全員がそれぞれの親にそういうほど、もれなくバカ話したんかい」
 「そらもう、わろた、わろた…」
 「通夜の席ぐらい、しんみりせいっ!」
 まったく、困ったものです。
 さてこの亡くなった叔父というのは医師会の役員をしていたそうで、その日も、医師会の会合だかパーティだかの帰りだったそうです。
 「麻雀していこか」
 仲間3人に声をかけたのは、叔父だったとか。
 「おう、それじゃあ、いつものところで」
 といった人がいたのかどうか。母が聞いてきた話の又聞きなので、どのような会話がなされたのかは、正確にはわかりません。とにかく一同はとある麻雀屋に入り、卓に着きました。そして、『順番』を決めようと、みなが一枚ずつ牌を引いたのだそうです。
 「誰からだ?」
 といった人がいたかもしれません。
 叔父は一枚の牌を手にしたままその場に突っ伏して、死にました。
 死因は本当に突然の心停止。医師会の偉いさん仲間3人が総出で蘇生に手を尽くしたのですが、だめだったそうです。働き盛りの突然死なので葬式はその葬儀場ができて以来の盛大なものだったという話でした。
 母は麻雀はまったく知りません。だから私も聞くことができませんでした。でも、私はなんとなく気になって仕方がないのです。
…叔父が引いた牌は、いったいなんだったのでしょうか?
 「で? 次は誰だね?」



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