動物のお医者さんで、有名になったH大学の応用電気研究所は、札幌地下鉄北十二条駅から降りて、すぐのところにある。薬学部の隣りがO電だ。
さて、H大学は観光の名所で中を歩いていると「すいません、クラーク博士の像はどこですか?」と観光客から尋ねられることも希ではない。余談だが、クラーク博士が指差してる像はH大学では無く羊が丘にあるんです。
このH大学は札幌という大都市の中にありながら実に奇妙な事実がある。校内に野良犬がいないのだ。その理由はO電にある。ここを通ると、時々、中からキャインという声が聞こえるのである。そうなんだ実験用のハツカネズミだって購入すればけっこう高いのだ。
で、O電で野良犬で何をやっているのか? 幾つかあるがその中の一つに人工心臓の実験がある。野良犬を手術して、人工心臓を装着するのだ。遺伝の系統を調べると言うような実験では無いので、野良犬で十分と言うわけね。
ただ実験動物には高いには高いなりの理由がある。どれも由緒正しい血統で、健康体なのである。それに引き換え、野良犬は血統不明、健康かどうかも不明のことが多い。
この野良犬で人工心臓の実験をしていたN教授は当時、研究が進まないことにかなり苛立っていたらしい。なぜかといえば手術する犬、手術する犬、どいつもこいつも心臓にフィラリアを持っていたからだ。フィラリアとは細い素麺のような寄生虫で、犬の心臓などに寄生する。心臓の一部を人工物に置き換える実験なのに、心臓全体が使い物にならないのだから、実験もすすまないわけだ。
そのうちこのN教授、フィラリアのいる犬をあえて苦しみが長引くように殺すようになった。具体的な方法は……省略。
しかし、犬を苦しめても実験が進むわけもなく、ついにN教授はストレスがたまったのか、自分が心臓麻痺で急死。
葬儀の後、納骨の段になって火葬場から台が引き出される。
「あっ」
遺族を含め、関係者は息を呑んだ。まれに起こるのだが、死体の一部が燃え残っていたのだ。しかも場所は心臓らしい。
「身体の悪い部分が燃え残るっていいますわよね」
そんな声が聞こえるなか、N教授夫人はまず燃え残った心臓をつまむ。だがやはり炭化していたのか、臓器はもろくも崩れ去った。そしてその中にはやはり炭化した無数のフィラリアの塊が残っていたそうであります。