第六十話

阿部和司

 「映画」にまつわる怪異の話しは、それこそ古今東西枚挙にいとまが無い程あります。
 撮影したフィルムに「何か」が映っているなんて朝飯前で、撮影現場で謎の事故が連続して起こったり、スタッフが原因不明の病に倒れたり…。
 そんな「映画の怪異」を題材とした「映画」に、「女優霊」という作品があります。映画版「リング」、「リング2」を撮った監督・脚本コンビの初期の佳作で、私の好きな映画の一つです。ビデオが出てますので、未見の方は是非どうぞ。
 さて、これは私が自主製作映画にいそしんでいた頃の話しです。
 当時の私は「映画とはフィルムだ!」などという狭い了見を持っていて、無謀にも8ミリフィルムで映画を撮っていました。器材はレンタル。費用は当然持ち出し。
 貧乏な学生、社会人どもには、かなりキツいモノがありましたし、映画と呼ぶにはあまりにお粗末な代物でしたが、まあ、それでも、映画を作っていく快感はナニモノにも代え難いなどと思っていたりしました。
 当時、つきあっていた彼女に「『映画』と『私』、どっちを取るの?」と迫られた私は、間髪おかず「映画」と答えてグーでブン殴られた事があります。
 で、そんなある日。
 鉄道のガード下で、主人公たちが会話をしていると、ガー! と上の線路を列車が走り抜けていく…。という有りがちなシーンを撮った時の事です。1カットで撮りたかった私は、ややロングショット気味の構図で、上半分に線路を入れ、その下やや右寄りに主人公たちを配して、列車の通るタイミングを待ちました。
 昼間だったので、列車はすぐやってきました。
 撮影は滞りなく行われ、フィルムはその日の内に現像に回しました。スケジュール的にも予算的にもかなりキツキツになっていたからです。
 1週間後、上がってきたフィルムを取り敢えずチェックしようという事になりました。
 先述したシーンがスクリーンに映し出された時です。
 僕らは、我が目を疑いました。
 そこには、あの時、通過していった筈の列車が映っていなかったのです。
 私たちは、お互いに顔を見合わせ、恐れおののきました…。
 「何だよ! 撮り直しかよぉ……。」



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