大学の危ない人が猫を遠心機分離機に入れた話を書こうかと思ったが、猫好きの人も多いだろうから、この話はパスしましょう。もっとほのぼのする話。
数年前のこと。ちょっと手違いがあって、クリスマスだというのに千葉まで打ち合わせに行かなければならなくなった。
「○○と言われても、私、千葉の地理なんかわかりませんが」
「すいません、こちらの手違いで、タクシーで来てください。領収書をもらっていただければこちらで清算します」
ということで指定された駅からタクシーで現場にむかう。そこはどうやら海の見える高級ホテルとか言う奴らしい。もういちど繰り返すが、それはクリスマスなのよクリスマス。
タクシーの運転手はいかにも駄洒落が好きそうな、中年の運転手。クリスマスの海の見える高級ホテルに向かっているから完全に何か誤解しているらしい。
「いいねぇ、若い人はクリスマスに一泊できて。こちとらクリスマスでも稼がないとねぇ」
何か悪いTVの影響か、完全に別のことを考えているのはありあり。ただ私は普段着で乗っていたためか、運転手はしきりにバックミラーでにやけながら後ろを見ていた。百物語別として、接客業としてどうかと思うぞ。
やがて諸悪の根源、クリスマスの夜の海が見える高級ホテルに到着。
「すいません、領収書ください」
「領収書ですかぁ」
クリスマスの夜にこんなホテルに来る奴がどうして領収書なんかいるんだ、みたいな目で運転手は私を見る。車から降り、金を払って領収書を受け取る。ドアが締る直前、彼は言った。
「お客さん、年増は情が深いからね、今晩寝かしてもらえないよ。あぁいう和服の清楚な美人に限って凄いんだ」
彼の主観では、私の隣にそういう女性がいたらしい。私は編集さんと打ち合わせを終え、彼らは取材のためにそこに残り、私はタクシーチケットを受け取って駅に戻った。よほど小金井までタクシーで帰ろうかと思った。
ちなみに帰りのタクシーには、その清楚な和服の美人は乗っていなかったようです。いくぶん期待したんだけど、夢の中にも現れませんでした。
あぁそれは、間違いなくぼくです。
いやね、クリスマスの夜に一人で海の見えるホテルに行くのは淋しかろうと、ちょっと生き霊になって横に憑いてあげたのです。
和服の美人になっていたのは、男が横にいるよりも、女性の、それもとびきりのべっぴんさんがよかろうと…。なぁ〜に、思念体ですから、姿は自由自在です。それもこれも忍者修行時代に身につけた簡単な技なんですよ。
あと、そぅ、夢の中へ出なかったのは、そこまでする義理を感じなかったからです。
あぁ、夢の中に和服美人では無く天羽さんが唐突に現れたので、変だなとは思っていたんですよね。でも、天羽さん。クリスマスの夜に海の見える高級ホテルに普通の女性は和装では現れませんよ。
やはり昨今は忍者もやりにくくなりましたね。