第五十八話

林譲治

 私はいま3LDKのマンションに一人で住んでいます。というか一人で住んでいることになっています。なぜ住んでいることになっているかというと、どうも、もう一人住んでいるらしいから。
 私は普段から時間通りに仕事をしているので、行動は読みやすいはず。だからその人物も家の中で私をさけて生活することは可能だろう。なぜその人物の存在がわかるかといえば、電気・ガス・水道の使われ方がおかしいからに他なりません。私が留守の日でさえ、それらが使われた形跡がある。決定的なのはベランダの空き缶。俺はベランダで缶ビールなど飲んだことは無いし、4Fにあるわが家のベランダに空き缶を投げ込むことも不可能だ。
 その昔、猫足という怪盗が家人に気がつかれないまま三年住み着いていたという話があるが、わが家に住んでいるその人物も、きっとさぞ名のある泥棒に違いあるまい。



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