第六十一話

林譲治

 この話の信憑性はかなり疑問があるのだが、ある種の疑問には答えてくれるので一概に嘘とも言えない。とりあえず判断は読み手の方々にお任せするとして。
 どこの誰ということは伏せます。北海道の知人であります。高校時代からの友人で、とうぜん、もう中年ですね。
 彼の趣味はアウトドアなのですが、結婚し子供が出来るとそうそうアウトドアにも出かけられない。だからいまは主に夏休みに札幌近郊の山にキャンプに行くだけになっている。
 札幌から石狩の方に出ると、夜空も美しい。星も明るい。明るいと思っていたら、急にその星が動きだした。気がついたら彼の頭上に直径二〇メートルほどの飛行物体がいた。
 次に彼が覚えているのは、ベッドのようなところに寝かされて、妙な機械に取り囲まれているところ。周囲には矢追さんの番組でお馴染みの生き物が三人ほどいたという。
 「あぁ、北朝○の工作員に拉致されたんじゃなくて良かった」
 彼は、真っ先にそう考えたそうです。よほど金さんは信用がないようで。やがて彼は採血されたり、妙な機械を腹部に当てられたりしてまた意識を失う。気がついた時はテントの中で横になっていた。寝袋にも入らずに。しかも五〇メートルほど離れた空き地には直径二〇メートルほどの円形の跡があったそうです。
 しかし、彼は大人ですから宇宙人に誘拐されて身体検査されたなどと周囲に吹聴はしなかった。なにより家族を心配させるのを恐れたんですな。彼はだからそれを誰にもいわなかった。むろん私にも。その気が変わったのは、彼宛に一通の手紙が届いてから。彼の記憶が正しければ近所のダイエーで安売りしていたキティちゃんの封筒と同じ物で、彼宛の宛て名がその封筒に明朝体で描かれている。レーザープリンタの類いを使ったらしい。差出人の名前は無い。
 そして中には一枚の書類が入っていた。
 「先日の検査結果です。あなたの健康状態は概ね良好ですが、脂肪肝の兆候が見られます。野菜を摂取し、適度の運動を心がけてください」
 彼が最近受けた健康診断の類いといえば、キャンプでのあの円盤による物しか無い。どうやら宇宙人はその検査結果を送ってくれたらしい。何が目的かは不明ではあるが、健康診断をするために身体検査をするというその行為は確かに不自然では無い。
 彼は私が医療関係者だったからメールをだしたそうです。そしてメールの最後にこう書いていた。
 「で、やはり食事に気をつけて適度の運動をしたほうが良いのでしょうか?」
 いま彼は晩酌も控えているそうです。



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