第三十四話

笠原一晃

 盛り上がってるようなので、私の怪異体験もお話ししておきましょう。
 まず最初に断っておきますが、私は霊感とか、そういう類のものは、ほとんど持ち合わせていません。友人には、「見える」とか、「居たので結界を張った」とか、「葬式で死んだ本人と話をして帰ってきた」とかいう楽しそうな体験をする奴は何人かいるのですが、私にはそのようなある意味で羨ましい体験はほとんどありません。
 それはさておき、舞台は国立W高専の学生寮です。当時この寮には、現隊長もいました。
 当時私は、この寮の二号館の二階の一番西の部屋に住んでおりました。寮の立地条件は、東が山、西が海、北と南を畑に囲まれ、ちょっと大きな本屋に行くにしても、バスで20分かけなければならないというド田舎でした。当時のW高専生の楽しみといえば、国道沿いのゲームセンター(当時はオートスナックと言った)で遊ぶか、下宿をやってる先輩の家に転がり込んで飲ませてもらうか……。
 私の部屋は三人部屋で、この事件があったのは土曜の深夜。私と、同室のAは何かの都合で実家に帰らずに寮に残っており、もう一人のKは帰省していました。
 私のベッドは入り口の左手前、Aのベッドは左奥、右側のベッドはKのもので、もう一つ奥に空きベッドがありました。
 ここから話が現実臭くなるのですが、帰省しなかった私は、この夜は当時入部していたW高専アニメ研の他の部員の部屋(確か一号館)に行き、夜遅くまでボードシミュレーション・ゲームに興じていました。やっていたのは、多分バンダイから発売されていた「宇宙戦艦ヤマト」のものだったかもしれませんし、ツクダの「ダンバイン」か、「ガンダム」あたりのものかもしれません。その辺は記憶が定かでありません。
 ついでに書いておけば、参加メンバーはいたって真面目にゲームに興じる人達だったので、一滴の酒も出なかった事は記憶しています。
 さて夜もふけて二時を回った頃、疲れてきたのでお開きという事になりまして、私は寮の部屋に帰りました。当然出かけるときには、部屋に鍵を掛けていました。部屋の扉を開けると、Aらしき人物が寝返りをうっています。
 「ああ、気持ちよさそうに寝とるわぁ」と思って、私もそのまま床に就いて、ぐっすり眠りました。
 翌朝になりましてAが、「わし、昨日飲みに行っとってなあ」と言い出しました。
 なぜここで、こんな事を聞く気になったのかはもはや覚えてもいませんが、私は、
 「そんじゃあ二時ごろ、どないしとってん」
と聞くと、Aは、
 「二時ごろ…。わし**のオートスナックで酔いざまししとったわ」
と答えるのです。このオートスナック、寮から2キロは南に下った場所にあり、Aはほとんど朝帰り状態だったのです。
 果たして、あれはいったい誰だったのか? ついでに書いておくと、二号館の私の部屋の下は使われなくなった風呂場で、「昔自殺した奴がいた」とかいう噂のあった場所でもありましたっけ。



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