第二十七話

村田健治

 果たしてこれを霊感と呼ぶのが正しいのか、あるいは第六感、はたまたテレパシーなのか、いややはりこれは虫の知らせと呼ぶのが最も相応しいのでしょう。
 それはまだ、私が子供の頃の話です。
 夕食も終わり、家族揃ってテレビを見ていたとき、母が不意に「線香の匂いがする」と言い出したのです。
 しかし、そんな時間に線香を焚いているはずもなく、気のせいではないかという家族に、母は真剣な顔で「誰か亡くなった」というのです。
 その頃の私は知りませんでしたが、母は我が家で一番の霊感体質で、今までにも同じような体験をしていたらしく、それから間もなく電話がなり、父の従兄弟の死の連絡が入りました。
 その後も2、3度同じようなことがありましたが、いずれも 分としない内に電話がなっています。
 ただ、不思議なことといえば、線香の匂いがするのは「誰かが亡くなった」時ではなく、常に「死の知らせ」が入る直前だということなのです。
 この辺も、僕が「死霊」でなく「生霊」を信じる理由でしょうか。
 そんな母も、ここ 年ほど不思議なことを言わなくなりました。
 今考えるとそれは、何の霊感も持たなかった僕が、何かを感じるようになった時期と一致しているのでした。



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