第二十六話

林譲治

 夕張は炭坑で有名だが、それにまつわる悲惨な話はけっこう多い。
 炭坑から港まで鉄道を敷設したわけだが、その工事に囚人を用い、囚人故に人間として扱われず、死んでも適当に屍体は処理される。
 だから夕張にはそうしたいわゆる怪奇スポットなどと呼ばれるところが幾つかある。特に有名なのが泣く木。これは普通の柳なのだが、風などが吹くと泣き声が聞こえるというのだ。もともとは死んだ囚人達を一つ穴に埋め、目印に柳の枝をさしていたら、その枝が成長したものだという。だから何も無い平地にその泣く柳は孤立して存在していた。鉄道工事の悲劇だから、夕張の鉄道に乗ると、唐突に線路脇に柳の木を見ることも多い。そう、この泣く木とはそうした柳の木の総称で、何本もあるのだ。
 中学時代、私はUFOに凝っていたのだが、友人らは幽霊などに興味をもっていた。男女のカップルで休日、自転車で心霊スポットを回る奴もいた。これなんかどう考えても単なるデートではないかと私は思う。
 そのカップルの男の方が誕生日にカメラを買ってもらった。仮にAとしよう。それでしばらくは心霊写真を撮ることがそのカップルの目標になった。しかし、見せられた写真はどう考えてもそいつの彼女のスナップ写真集としか私には思えなかった。
 「この葉っぱの陰が怪しいんじゃないか」
 と、その頃はみんなで草むらとか、木陰の中に人の顔を捜していたが、もとより心霊写真とわかるものはない。
 「よし、今度の土曜に例の泣く木を撮りに行こう!」
 Aが宣言する。そういうわけで友人らは土曜に泣く木に向かった。私はたまたま札幌に行かねばならず、それには参加できなかったが、まぁ、彼らの幸運を祈っていた。
 月曜日の朝。学校に行くと心霊写真組が一塊になって何やら相談している。
 「どうしたの?」
 「すごい心霊写真なの!」
 カップルの女性の方が写真を見せてくれた。凄い心霊写真と言われたが、泣く木らしい柳の大木の前に彼女とAが並んで写っているだけで、どこかに人の顔があるようにも見えない。
 「どの辺に幽霊が?」
 「この写真を撮ったのはA君なの」



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