第二十五話

阿部和司

 月山ですか…。あそこは、ご存知のように霊山ですから、結構転がってますよね。その手の話し…。
 月山連峰を貫く通称「月山道路」にまつわる、首なしライダーや首なしドライバーなども有名な話しです。それにしても、何でみんな首が無いんだろう? と思っていたら、その身体を探す首も複数飛び交うとか…。
 濃霧の時と、吹雪の夜にこの道路を通る時は御用心を。特に対向車もなく後続も先導車も見えなかったら、スピードを上げてはいけません。やっと追い付いた先導車のテールランプが前方に見えて、車間距離を詰めてホッとしたのも束の間、貴方の車は既にガードレールを越えている事でしょう。
 私の取引先の人は、これで死に掛けました。
 ところで、山形で「山寺」といえば、芭蕉の『閑さや巖にしみ入る蝉の声』の句で知られている『宝珠山立石寺』の事ですが、ここには奇岩や杉木立を縫って千段以上の長い長い石段があります。
 四季折々の景観の美しさに惹かれ、たくさんの観光客がここを訪れます。
 でも、もし貴方がここを訪れるのなら、やはり昼日中の方が良いでしょう。
 真夜中にたった独りでこの石段を登ろうなどとは思ってはいけません。永遠に、ひたすら石段を昇り続ける羽目になってしまいますから。



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