第二十四話

天羽孔明

 さて、ぼくがまだ高校生の頃の話。一人で山形の月山の山寺附近へと旅に行ったんですね。あのあたりには、阿部さんが書いたような、寂れた湯治場がたくさんあり、その中の一軒で、実際に体験した話。
 夜中に温泉につかりたくなって、一人で湯場に行ったんですね。と、湯船の中に先客の姿が4〜5人。湯気で良くみえないのですが、なにやら顔をよせあって話をしている様子。で、後から来たぼくとしては、「すいません、おじゃまします」と言いながら、湯船に入ろうとしたんですね、と、なんか変。
 そぅ、湯船の湯が、全然揺れ動いていないのです。客が4〜5人も入っていたら、少なからず湯面は動くはずなのに…。ハッと思って先客の方を見ると、そこには誰も居なかったのです。
 で、翌日。その湯治場に来ていた土地の老人にその話をした所、その湯治場ではその程度の怪異は非常に多く、土地の人は、あぁまたか…、ってわけで、全然気にならないらしいのです。



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