第十話

天羽孔明

 ある家の前を、仕事上の都合で会社の休日以外は毎日朝晩通るのですが、その家の前で、いつ通っても道路を掃除しているお婆さんがいるのです。
 ある時、普段は通らない昼間に通った時も、やっぱり同じお婆さんが道路の掃除をしている。いくら綺麗好きやとしても程があるやろうって思っていたのです。
 で、そんなある日のことですわ。その家の見える喫茶店でコーヒーを飲む機会があったので、そこの店のマスターに、「あそこのお婆さんはすごい綺麗好きなんですね」って言った所、そのマスター、「あれ? 掃除をしているのはお祖父さんですよ」って言うんです。エッと思ってその家の方を見直すと、なるほど、お婆さんではなく、どう見てもお祖父さんだったんです。
 「あそこの家の孫とお婆さんが2年位前にあの家の前の道路でダンプに轢かれましてね、それ以来あぁしてお祖父さんは家の前を掃除しているんですよ」って言うんです。
 それ以来、出来るだけその家の前は通らないようにしていたんですが、それから2ヶ月程たった時に、やむなくその家の前を通ると、やっぱりお婆さんが家の前を掃除していました…。



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