第九話

林譲治

 中学時代の同級生に入沢という不良がいた。だいたい仲間四人と夜遊びをするのが毎度のパターン。北海道の農村のどこに夜遊びの場があったのかはいまだに謎だが、少なくとも彼らは夜は自宅にいなかった。
 ある夜のこと。彼らは肝試しに出かけたらしい。その前日に田舎では珍しい自動車事故があり、死人も出たという。その現場を夜中に見に行こうということなったわけだ。
 自動車は見事に転倒して、乗車席は完全に潰れていた。死人が出るというより生存者がいた方が不思議な程だったと、その時私に語ってくれた。
 「このタイヤ、全部まだ新品だぜ」
 一人が転倒した車のタイヤがどれも新品であることに気がついた。自動車自体が新車だったから、これはそれほど不思議では無い。で、彼ら四人は、その晩のうちに事故車のタイヤ四つをすべて外してしまった。田舎でも然るべき場所に行くと自動車部品は高く売れるのである。
 入沢によると、彼ら四人の周辺で不可解なことが起きるようになったのは、その翌日からだという。自分の家の車のタイヤがパンクしたり、自転車のタイヤが裂けたりとか、とかくタイヤにまつわるトラブルが立て続けとまではいかないが、妙に頻繁に起きたのだという。入沢が普段あまりつき合いのない私にこんな話をしたのも、いまにして思えば内心の脅えのためだったのかもしれない。しかし、いずれにせよ中学を卒業してからは彼らとの交流は途絶えていた。
 入沢ら四人と私が再会したのは苫小牧でのことだった。医療施設の見学会で偶然にも彼ら四人と出会ったのである。
 「いまでも時々、こいつのタイヤがおかしくなるんだよ」
 入沢はすでに諦めたような口調で私にそう言った。そうして彼は自分の車椅子のタイヤをさする。車椅子に乗っていた入沢たち四人には、膝から先の足が無かった。



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