第八話

清水宏祐

 えー、もう 年近く前の事になるんですけど、その頃、私は新御堂筋のすぐ横にあるまあまあ大きな工場に勤めてたんです。その工場では、夜勤っていうのがありまして、夜の九時から翌朝の八時までが勤務時間なんですが、作業自体は十一時とか十二時に終わっちゃって、後は保安勤務(と言えば聞こえはいいが、要は詰所で寝てるだけ)になるという非常に楽なめぐり合わせとなるんです。
 工場なもんで、便所が外にあるんです。ちょうど公園の公衆便所みたいなのが、新御堂筋から見るとちょうどななめ下の方向にあるんですけど、夜中にこのトイレに行くと「影が動く」んですね。そんなにしょっちゅうではないんですけど、周囲で何かが動いたという訳でもないんですけど、影だけがスゥーっと動くんです。勿論、高架道路の下ですから、夜中でも車が走っていますし、ライトの関係かなとも思うんですが、どう考えても車のライトの届く場所じゃない。
 だって、ちょうど公衆便所で言えば、目隠しの板の内側なんです。影が動く場所っていうのが…。
 まあ、それだけの話なんですけどね。



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