私がお世話になっているひとのご子息が、高校受験を迎えることになった。
息子さんと初めてお会いしたのは小学生のころ。初めてあった時の印象は、どちらかといえばお母さんに似て、繊細な感じのする少年だった。もっとも、男の子は小さな時はお母さんに似て、長ずるに従って、父親に似てくるようだ。
まして10代前半ならば、3日会わなかったら、印象はそれまでとまったく違ったものになっているだろう。
伝え聞くところ、彼の進学希望先は、高等専門学校であるという。
たぶん、周囲の大人達に高専出身者が多いことと、NHKで放送されるロボットコンテストなどが、志望の理由になったのだろうか。
最初に聞いたとき、高専という選択はとても良いと思った。
頭の柔らかいときでなければ、科学や技術に対する基礎的な考え方を、身につけることはとてもむつかしい。
文科に進んでからいろいろと遠回りして、いまの仕事に至った私にとって、理科系の思考ができないことにある種のコンプレックスを持っている。
さらにいえば、理系から文系にゆくのは非常に楽であるが、文系から理系に転ずるのはほとんど不可能であるのを考えあわせると、進路を理系にすえるという選択はとてもよいことではないだろうか。
また、スポーツの盛んな高校にいって、野球やサッカーに三年間打ち込む、というのも高校生活以外では不可能な得難い体験かもしれない。
仕事をしていると、高校生活で部活に打ち込んだことが、強力なバックボーンになっていることを強く感じる機会が多々ある。
これは自分が高校時代になにもしなかったことへのひがみも多少あるのだが。
それはそれとして。
高専を受験するということは、さらにその内の、機械科・電気科・情報科などのどれかを選択しなければならないようだ。
いま、もっとも人気があるのは情報科だ、というのは当然のことだろう。それだけ競争倍率も高いのもうなずける。
彼も、情報科を目指しているようだが、まだ心が揺れているようでもある。倍率も高い、ましてや将来情報関連で職を得ることができるかどうか。
悩まない方がどうかしている。
これから十年後に、情報関連の技術で喰っていけるかどうかは、私にはわからない。
ただ現在、横浜でECサイト(通販をやっているホームページ)の作成に関わっており、この仕事について話すことで、少し進路選択の参考になるかもしれない。
今の仕事場では数年前からNET通販をおこなっていた。ただ、その方法は酒屋のご用聞きを電子メールに置き換えたようなものだった。
ホームページから注文メールを受け取って、手元にある商品のみを出荷し、代金引換(宅配のドライバーへ請求金額と引き替えに荷物を受け取る方法)で決済をしていた
発注、集荷、請求などはすべて伝票を頼りにおこなわれていた。情報の蓄積はおろか、統一した商品台帳もものがなく、商品と受注の管理はすべて社員単位でそれぞれの経験に従って独自に行う、といったものだった。
もともとこの会社はお店の一部門で、資本は変わったが、その位置づけはいまも変わらない。
当初は店の売り上げを伸ばすため、郵便による通信販売を初めて成功し、その後もFAX、Eメールと新しい機器が登場するたびに業務を広げていったのだった。
すべての基本が郵便による通信販売だったのだから、仕事が紙をベースにしたものになるのは、ごくごく自然なことだった。
ところがここ数年、特にNET環境が常時接続へ劇的な変化を遂げるなかで、売り上げも伸びたが、同時に業務の量も飛躍的に増え、受注から発送までの時間が大幅にかかるようになるなど、いろいな弊害がでてきた。
そこで、メールの自動応答、明細・伝票などの自動発行など、通販サイトをより省力化するソフトを導入し、さらに商品・顧客・注文、についてのデーターベースを構築する、ということを経営サイドが決断した。
そして、つてをたどって、このような業務に詳しいエンジニアをなんとか見つけ出し、口説き落としてとにかくもプロジェクトはスタートした。
その口説き落とされたエンジニアと個人的に親しかったという理由だけで、私もこのプロジェクトに参加することになったのだった。
ECサイトの設計と運営、データベースの構築、社内物流の変更などは、エンジニア自身が対応し、その際に発生する付随的な作業を私が担当する。
扱う商品数について当初は3千点あまりを想定し、併せてコンビニでの決済も新規におこなう。
社内にパソコンに詳しい社員がおらず、唯一従来のサイトを運営している社員がいたが、彼は現在の仕事で手一杯で、協力は望めなかった。
従って新サイトの構築はエンジニアが独りでおこない、私がそのサポートをおこなう。開発人員は二人ということとなった。
エンジニアは今年の2月から、そして設計が本格化した五月から私が横浜で仕事を開始した。
そして現況はというと。
新サイト開設予定の8月1にはなんとか間に合った。さらにこれは意外な結果だったが、掲載された商品情報は想定の3倍、1万点近くなった。
ただ急ぎすぎた帳尻あわせをするため、日々仕事に追われている。
私を呼んでくれたエンジニアはこれまで一ヶ月休まず出勤したが、たぶん8月中に休日はないだろう。
私は彼の配慮でいくらか休みを貰っているが、それでも曜日の感覚はとうの昔に無くなっている。唯一の慰めは、給料が時給単位で出ていることくらいだろうか。
なぜこのような状況に陥ったか。
理由の7割方はすでに書いてしまった。残りの2割については、あまり一般的ではないので、情報工学を学ぶうえではあまり参考にはならないだろう。
さらに現在の仕事はプログラマというよりも、シスアド的なもので、制御系などとは全く違うものであり、もしかすると高専の情報科とは、まったく関係がないかもしれない。
けれども「なぜエンジニアが毎日出社しなければならないのか?」このことを考えてほしい。こえは情報科に限らず、すべての科、あるいは将来の仕事にとってとても大事なことだと思う。
なので、答えについてはここでは書かないし。たぶん周りにいる大人達のほうが、より詳しい答えを教えてくれるだろう。
でも、自分なりの答えを持っていなければ、教えても無駄なので、誰も答えてはくれないよ。みんな親切なので、考えない人間に、答えを出すような酷いことは絶対にしないはずだから。
中学生には、かなり難しい問題かもしれないが、大人でもよくわからない人がいるので、そこら辺は気にせず、自分なりになにか答えを出してほしい。
回答についてはまた機会を改めて。