休載のお願い

黒川[師団付撮影班]憲昭

 編集作業ご苦労様です。
 毎回のように〆切を破ってしまい、申し訳なく思っております。
 それでも毎月なんとか掲載できているのは、ひとえに隊長ならびに編集にかかわる皆様方のおかげであり、言葉に出来ないほどの感謝をしております。
 ところが、今回はそのご恩に報いるどころか、休載ということになってしまいそうです。

 実はこの年末に、家族が亡くなったわけではありません。そして続け様に身内に不幸がおこらず、つつがなく年を越せました。
 たいへんに結構なことで、身辺は静穏そのものであります。
 困りました。
 いっそこの手で、と思いきることも出来ず、他のもっともらしい理由を考えねばなりません。

 昨年末は寒波によりとても寒い年の瀬となりましたが、どのように過ごされましたでしょうか?
 私はひどい風邪をひいてしまいました。
 喉は腫れ上がってまるでカボチャのごとく膨れ上がり、マイナス100度以上の悪寒と、薬缶の水が一瞬にして蒸発するような高熱に交互に襲われ、いまもまだ完全に直っておりません。
 ……。
 実をいうと風邪はひいておりません。
 ウソをつきました。
 心配をかけてすいません。
 というか「薬缶の水が蒸発するような高熱」というくだりで、はっきりいってウソであることはバレバレだったのかもしれません。
 この冬どころか、ここ数年来風邪をひいたことがありません。インフルエンザにかかるとどのような状態になるのか記憶があいまいで、今ひとつ的確な描写ができないのです。
 どうしましょう。
 困りました。
 ウソというのはなまじ本当っぽくつこうとするからばれるのであって、案外に大きなウソほど見破られないものだと聞いたことがあります。

 私はUFOに誘拐されました。
 本当ですウソじゃありません。
 散歩中に、突然あたりが真っ白になったかと思ったら、気を失ってしまいました。
 そして気が付くと裸で手術台のようなところに寝かされていました。まわりでは背の低いのっぺりとした顔の宇宙人、いわゆるグレイという奴らがなにやら怪しい機械で私の体を計測していました。
 本当ですウソじゃありません。
 統計によると、ブラジル人の2割以上がUFOに捕まっているのです。なので私が捕まったとしてもおかしいくはないと思います。
 そして検査の後、金星に連れてゆかれて、いろいろな施設を見学していません。
 すいません。
 怪しさ200パーセントです。
 「統計によると」といいますがいったいどんな資料によるのか、またなぜ「ブラジル人」なのか、突っ込みどころがありすぎです。
 最近は子供だってこんなウソはつきません。というかこれは大きなウソというよりも、脳が腐りかけた酔っぱらいのダボラであります。
 反省してます。
 すいません。
 もう少しましな大ウソを考え直しますので許して下さい。
 でも困りました。
 もう少し時事的なものを取り入れた方が、より一層興味を持っていただけるかもしれないです。

 海岸を歩いていると、、

 シャレにならない。
 困りました。
 もう少し遠くの国にします。

 急に出張が決まり、とるものもとりあえず慌ただしく出国しました。昨日ようやく暇ができ、取り急ぎメールを送付します。
 いまバクダッドに居ります。
 この時季でも砂漠は暑く、毎日砂を掻き分けながら、フセインが隠した大量破壊兵器を探しております。すっかり日に焼けてしまいました。
 こちらにきて幾つか珍しいことを見聞し、そのことについて書こうと思ったのですが、CIAに盗聴される可能性があるとのことで、詳しいことは書くことができません。
 ですので、やむなく今回の画報は休載ということにいたします。今回の事は、また日を改めて書こうと思いますので、どうかお許しください。
 なかなかによくできました。
 そして次回のネタは国連査察のうち幕ということに、できるわけがありません。
 というか、例会にいって「日に焼けて」いないところでアウトです。
 日焼けサロンで焼きをいれることもできますが、そこまでしてもたぶん誰も信じてくれないでしょう。仮に信じたふりをしてくれたとしても、お互いひどく気まずいことになる予感がするので、残念ですがこのウソは没です。
 残念無念至極であります。
 困りました。
 大ウソというのも楽ではありません。

 NTTの回線が事故で不通になり、メールが遅れなくなったというのはどうでしょうか?
 いや、そんな大げさなことをいわなくても、ただたんにハードディスクのデータが消えてしまった、という典型的な言い訳があるじゃありませんか。
 その他。
 マザーボードがいきなり火を吹いた。
 OSが落ちてデータが飛んだ。
 ウィルスによってファイルが破壊された。
 エトセラエトセラ。
 どれも良くある話ではありますが、UFOやフセインを持ち出すよりは、まだましな感じがします。
 そして最終的にはビル・ゲイツ氏に責任をなすりつけることで全てが丸く治まります。
 よかった、よかった。
 そういうことにしましょう。
 ただ、問題はこの手はすでに過去二回ほど使ったことがあることです。知っている人は、人外協にはいないと思いますが、もしバレたらとてつもなくヤバイ。
 二度あることは三度ある。
 仮にもし今回バレたらこういうでしょうが、そうすると四回目が使えなくなります。PCを言い訳の材料にするのは無理っぽいようです。
 困りました。
 他の理由を考えねばなりません。思いつくままに挙げてみると。

 枕元に亡くなったおばあちゃんがあらわれて、今回は休載しなさい、といわれました。
 それらしいですが、まだ亡くなっていないという些細なところから露見しそうで駄目。

 大和川で苛められている亀を助けたら、お礼に竜宮城へ連れられて、原稿が遅れました。
 遅れすぎ。

 突然、前世の記憶が蘇って、フランス語しか話せなくなってしまいました。
 シエー、くらいしかフランス語をしらないので構想段階からしてアカン。

 銃殺隊の前にたった時、

 天正元年、

 次に重力が、

 ……どれもむやみに話が長くなりすぎ、今年中に完成しそうにないので駄目、だめ、ダメ。
 どうしよう。
 困りました。
 いっそのこと開き直るというのも、男らしい解決作かもしれません。

 今月は書けなかった。
 以上。
 これはなかなかに大胆かつシンプルな言い訳ではないでしょうか。
 というか言い訳ですらない。
 漢と書いて「おとこ」と読ませるような潔さではないですか。
 よしこれにしよう。
 ……でもねえ。たぶん怒るよなきっと。
 いや絶対に怒られる。
 というか、「怒るよな」とか考えている時点で、男らしさとかそういうものが消し飛んでますね。言い訳に苦心している人間がとることのできる手段ではないですね。
 困りました。
 言い訳を考えているうちに一晩たちました。もうすぐ日が昇るころです。
 困りました。

 もうそろそろ体力も限界です。
 頭ももうろうとしてきました。
 もう少し休載の言い訳については良いものを考えますので。今回はこれでご勘弁下さい。



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